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Klaus side


B「アレックスのことを言うのは許さない…!」

この青年がエドガーと何かあるのは会話で察しがついていたが、まさか殴るとは思わなかった。
リブが間に入っているからそれ以上は何もしてこないが、だいぶ興奮してる様子だ。倒れ込んだエドガーをフランキーが支えている。
先ほど呼んだ警備はまだだろうか。

「何よぉ、騒がしいわね…」

2101室のドアが開いた。高い女の声だ。ドアから覗いたのは映画女優のような派手な女だった。
ハニーブロンドは腰近くまで流れ、赤いドレスは彼女の薔薇色の頬と唇によく合っている。彼が探していた女性は、彼女のことだろう。
淡いブルーの大きな目は状況が掴めず困惑している。

「ちょっ、え?何があったのぉ?」
L「あなた、警備を呼んで!この男が突然殴ったの」
「えっ!?それは大変!」

リブの説明に女は慌てて部屋から出てきた。エドガーの近くに膝をつき、顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?今呼んできますからちょっとぉ、我慢してくださいねぇ」

女がドレスのスリットに手を伸ばした。フランキーの顔は緩みきったままその女の挙動を見つめている。エドガーは殴られたところを押さえたまま、バートンを睨み付けている。

パンッ

乾いた破裂音がした。気づけば女が天井に向けて銃を抜いていた。空砲だ。次の瞬間、リブが二歩後ろによろめいた。

L「!?」
「や〜ん、相変わらずお早い到着ねぇ」

リブは両腕で顔を守る姿勢で立っていた。
ただ反射で防御を取ったようで、何が起きたのか分からずにいる。女はバートンの方へ走り寄る。

「私たちの警備は呼んだからぁ、逃げるよ!」
B「ちょ、ハニー待ってよ!」

リブの目の前にはいつのまにか黒髪の少女が立っていた。
リブの胸元くらいの背丈しかなく、だいぶ小柄だ。異国の服に身を包んでいる。

B「紅を置き去りにすんのかよ!?」
h「逆に私たちは足手まといだよぉ!それにさっきの音で気付かれちゃったと思うの、早く!」

この少女、紅はリブに怯むことなく立っている。リブは女性だが並の男よりも背が高い。体格もよく、元は特殊部隊にもいた人間だ。
普通の少女では相手にならない。

紅「やり合う気はない。見逃してくれるなら」
L「何を言ってるの、彼は立派な傷害罪よ。それと…私に蹴りを入れたあなたもね」
紅「……分かった」

廊下を走ってすでに後ろ姿が小さくなっていた2人が止まった。その先には警備の制服が見える。
紅が視線を背後に送り、またリブを睨む。

h「え〜どうすんのよぉ!」
B「知らねえよ!お前が走ったんだろ!」

紅がくるりと振り返り、リブに背中を見せた。
そして次の瞬間には脱兎の如く走り出した。

紅「2人とも、そのまま走れ!」

あっという間に2人を追い越した紅は、警備の連中の意識を難なく落とし、廊下の突き当たりにある小窓を肘で割り、バートンとハニーと呼ばれた女性を外に逃した。
リブも慌てて追いかける。が、進もうとすると紅から煙幕を張られ思うように動けない。かろうじて薄らと開けてきた視界で見た紅は躊躇なく窓から飛び降りていった。

L「何階だと…!」

リブが煙を手で避けながら窓から身を乗り出す。そして窓から回収した20階建相当の長さに結ばれた上質なカーテンに向かって舌打ちした。

私は思わず笑いがこみ上げて仕方なくなった。

K「クッ…ふふ」
L「何を笑ってるの」
K「いやあ、サーカス集団か何かのようだったから」

なんて現実味のない者たちだろう。
テレビのドッキリショーを目の当たりにしているようで、今度こそ笑いが堪えられなかった。

L「クラウス!」
K「いやー…笑った…それより大丈夫そうかな」
F「えぇまぁ…殴られた時に口の中が切れたぐらいです」

エドガーは事が収まると立ち上がり、スーツを払った。口からの出血を胸元のチーフで拭う。
表情や雰囲気は、まだ苛ついているようだった。

E「…お見苦しいところをお見せしました。すみません」
K「いや、大事ないならそれでいいんだが…あれは、どうしたものかね」

意識を奪われた警備3人をどうするか、リブが溜息混じりに気付けの水を取りに部屋へ戻ろうとする。

L「メイソン、隠れていないで出てきて。フロントに電話してちょうだい」
M「ええっ…で、電話なんて、い、いやだよ…」
L「…はぁ。いいわ、ついでに連絡してくるから」

メイソンは廊下に設置されている花瓶のテーブルの下に入り込んでいた。
隠れる場所を見つけるのが早いな。

E「いえ、俺が連絡します。レディのお手を煩わせたくない」

エドガーはそう言うと、固定電話を探しに去っていった。フランキーも慌てて後を追っていく。
そう言われたリブは面食らったまま突っ立っており、しばらくしてまた溜息をついた。

L「紳士を気取るなら最初から喧嘩なんて売らないでほしいわね」

ごもっとも。今夜は何かと面白いパーティーだ。