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Burton side 3


B「仲間を…売ろうってのかよ…!」

思わず立ち上がると、ヴィヴィアンが煙草に火をつけた。一息吐いて、俺を見る。
続けてハニーと紅を見た。

V「とにかく今はお休み。そんなに疲れてちゃ何も出来やしないよ」

それを聞いたハニーは待ってましたとばかりにカウンター内に入り、鍵を取り出してきた。
おやすみ〜と欠伸をしながら店を出て行った。

V「生憎だけどそこのソファ使っておくれ」
B「いや、ありがとう」

ローテーブルの横にある柔らかいソファを使わせてもらうことにした。クッションなどを整えて寝床を作っていると、紅が近寄ってきた。
今までそんなことは無かったから、不思議と体が強張った。

B「な、なんだよ」
紅「尾けられてる。気を付けて」
B「誰に…?」
紅「知らない」

最低限しか喋らない紅に言われて困惑する。
助けを求めてヴィヴィアンの方を見たが、カウンター奥のキッチンに入ってしまったようで姿が見えなかった。

紅「それと、あの男と何があったかはどうでもいいけど、作戦を乱すのはやめてほしい。迷惑」

すいません、としか言えなかった。
紅には逆らわないと決めている。
逃げる時も警備を蹴散らしたのは紅だ。敵に回したくない。

V「おや珍しい。何の話だい」

ヴィヴィアンの声がして振り返ると、キッチンからいつの間にか出てきていたようだ。
紅は何事もなかったかのようにヴィヴィアンの方へ歩いて行った。
ふと聞こうと思っていたことを思い出す。

B「なあ、なんであんな危ないことしてんの?侵入したり情報収集したり…」

紅とヴィヴィアンが目を見合わせた。
ヴィヴィアンがクスリと笑う。不敵な笑みだった。

V「女に秘密はつきものだよ、坊や」

やはり誤魔化された。
もともと明確な答えは求めていなかったし教えてくれるとも思っていなかったが、まさか坊や扱いされるとは思わなかった。

V「おやすみ、いい夢を」


目が覚めたのは、もはや夜の入り口と言っていい時間帯だった。
ハニーが店に降りてきたのも同じくらいだった。ただバッチリ化粧をしており、俺よりも早く起きていたのは確かだった。
ヴィヴィアンと紅は遥かに早く起きていたようで、何やらずっと話し込んでいた。
今後の経営についてのようだが俺には分からない話だった。

最近は政府特殊鎮圧部隊を導入するという話も出ている。外出禁止は更に厳しくなるだろう。
こういった飲食店の営業はもってのほか。もし取締りの対象になれば、再営業すら厳しいかもしれない。

V「おや起きたのかい。スープがキッチンにあるから適当に食べといてくれ」
B「わかった、ありがとう」

ハニーもゆったりと歩きながらキッチンに向かう。俺は後ろに続くことにした。
コンロにかけてある鍋には、具沢山のトマトスープが入っていた。スープを温め直しながら、ハニーが口を開いた。

h「あの2人、いつも一緒でしょ」
B「え?あぁ、まあ言われたらそうかもな」

スープを回すハニーは一見似合わなそうだが、何故か妙に座りの良い絵面だった。
料理なんて一切しなさそうなのに不思議だ。

h「私と知り合ったときにはもうあんな感じでね。すごく良くしてもらったんだけど、時々なんか仲間外れな気がして、嫉妬しちゃうんだぁ」
B「そうなのか?」
h「うん。そう、見えてない?」
B「3人でApricotって感じだから」

そう言うとハニーは顔を上げて俺を見た。そして照れ臭そうに笑った。
良かったぁ、と呟きながら鍋のスープに視線を戻す。男心にグラリと来るものがあった。
いつも飄々として自分への自信に満ち溢れたハニーのしおらしい一面はとてつもないギャップだった。
そして何と言っても顔が可愛い。あと何故かいつも良い匂いがする。

V「うちの子に手出すんじゃないよ」
B「うっ!」

慌てて振り返るとヴィヴィアンが立っていた。
その後ろには紅も立っている。かつて類を見ない氷のような視線だった。

V「食べるならパンとスープにしな」
B「やっ、はは!やだなあ!何の話だよ!」

束の間でさえ気を抜けないのか、この店は女豹しかいない。

h「ママと紅も食べる?」
V「私はさっき食べたから大丈夫だよ」
紅「食べる」

あんたさっきもたらふく食ったじゃないか!というヴィヴィアンの声で、俺たちは笑い声をあげた。

スープとパンを皿に乗せてカウンターに運び、ゆったりとした食事の時間が始まった。
これからどうするのかというのが専らの議題だが、ひとまずはレジスタンス軍へ戻り、ダミアンの裏切り行為をどうにかしなければいけない。
ウォルターに話せばどうにかなるのだろうか。そんなことを話しながら食べながら考えていると、紅がスープを飲み切ったところでじっと窓の外を見始めた。猫のようだな、と思った。

紅「…」
h「紅?どうしたのぉ」
紅「外に3人。恐らくバートンが狙い」

店の中の空気が変わった。
ヴィヴィアンが全員分の皿を片付け、誰もいなかったかのように掃除を始める。
ハニーも俺が寝ていたソファを片付け、長く使われていなかったかのように元どおりにした。
紅が裏に続く廊下の方へ急いだ。そしてすぐに戻ってくる。

V「どうだい」
紅「いる。裏の奴が一番手強いと思う」

そう言うが早いか、紅は窓際の床を一枚剥がした、というより持ち上げた。
人一人がやっと通れるかどうかの穴。
ウォルターなんかは通れないだろう。

紅「下水道に繋がってる。下水道に出たらそのまま左へしばらく歩いて、突き当たりを右へ、しばらくすると左手に地上へ出る梯子がある。目印は赤い布がくくりつけてある。そこを登ればスラム街の近くに出れる」

紅の説明を頭に叩き込み、頷いて体を滑り込ませる。すぐ足がつく深さにコンクリートの階段の感触があった。
駆け寄ってきたハニーが懐中電灯を渡してくれる。

V「ここは私らに任せな。死ぬんじゃないよ」

ヴィヴィアンの言葉に俺は精一杯頷いた。