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Damian side

手に強い衝撃が走った。思わず体が後ろに傾く。それは撃ち放った拳銃によるものだけではなかった。腰に巻きついた腕の正体を視界の端で確認した,

D「バートン!?」

後ろの窓から飛び込んできたらしいバートンが俺を横に引き倒していた。
机から二人して転がり落ちる。背中に強い衝撃が走った。

D「っ…!」
W「バートン!ダミアン!」

バートンが俺の上に乗り、見下ろしてくる。
拳銃を構えようとしたが手が空になっていることに気づく。辺りをめいいっぱいの視界で確認するが見当たらない。拳
銃は、ウォルターが拾い上げていた。

B「何してやがる!」
D「くそっ…どけ!」

バートンの拳が振り下りてきた。頬に強い衝撃と痛みが走る。
連続で下りてくる拳を首だけで避けるのは限界がある。何発か食らううちに視界がぼやけてきた。

W「バートン!やめろ!」

ウォルターがバートンを羽交い締めにした。体の圧迫感が消えた。

B「こいつ…!撃とうとしたんだぞ!許さねえ!」
W「それ以上殴ればお前が加害者になってしまうんだぞ!落ち着け!」

なんとか体を起こしたが、しばらく立ち上がれそうにはなかった。壁に背中を預け、二人から目を離さないようにした。
この二人を相手にして体術では敵わない。大人しくしているのがいい。

W「…ダミアン、カリーナとのことは本人に聞いたらどうだ」
B「…?、カリーナ!どうした!?その目…」

バートンがカリーナに寄り添った。肩に手を添え、心配そうにカリーナの顔を覗き込んでいる。
出血がなければ頭に血が上って何をしていたか自分でも分からない。

C「大丈夫よ…ありがとう、バートン」
B「お前がやったのか」

バートンが鋭い目つきで俺を見る。この真っ直ぐな目が最初から嫌いだった。カリーナに連れられて来た時からずっとだ。

C「ウォルターも怒ってくれてありがとう…でももういいの…もういいよ」
B「カリーナ…?」

カリーナの片目から涙が流れていた。
もう片方の目は血で濡れていてどうなっているか分からない。あとで医者に見せれば良くなるだろうか。

C「疑わせるようなことした私が悪いの…ごめんなさい、ダミアン」
B「何があったんだよ」

バートンが不安げにウォルターを見上げた。ソファに座るカリーナを庇うように立ち続けるウォルターは、バートンを一瞥してから口を開いた。

W「お前とカリーナとの浮気を疑ったんだ。それで激昂したダミアンが灰皿を投げて…」

そこまで言ってウォルターはカリーナを見た。
バートンの頬が引きつる。カリーナは俯いた。

B「なっ…そんなことで…」

そんなこと、自分でもそう思う。割り切れない自分がどうしても抑えられなかった。そして、この男にそう言われるのが何よりも腹立たしかった。

D「お前には分からない」

愛されてきた目をしているお前なんかに分からない。ウォルターにも分からないだろう。
家族を愛することを知っている人間たちとは根本的なところで違うのだ。重要な臓器が欠けていると言える。無くても死なないがあれば生きやすい、そんな臓器が俺にはないのだ。

D「お前らに分かってたまるか…!」

叫んだ瞬間、ゴポッという不気味な音が間近から聞こえた。
自分の喉元よりも奥から這い上がる感覚がある。生温いものが口から溢れた。

C「ダミアン…!」

吐血は、肺を蝕む新型ウィルスによくある症状として恐れられている。
しかもその症状は、静かに進行する新型ウィルスの末期のものと言われている。

人を騙し、蹴落とし、恋人すらまともに愛すことができない俺には優しすぎる罰かもしれない。

最後に見えたのは、カリーナが駆け寄ってくる足元だった。