星降る夜のセレナーデ 第37話 プリズム
一樹さんは『プリズム』と書かれた看板のお店へ階段を降り始める。俺は引っ張られるようについて行った。中へ入るとドレスの女性がニッコリ迎えてくれた。
「あら、先生!お久しぶりです、もう忘れられたのかと思ってましたよ。携帯電話も繋がらないし」横目で睨んでいる。
「ごめんごめん正美《マサミ》ママ、ずっと山籠りしててさ、仙人になろうと思ってね」一樹さんは笑っている。
「こちらは?」ママさんらしいその人は俺を見た。
「彼は浅見真人くん、私の大切な一番弟子なんだよ、よろしくお願いね」
「あら?弟子は取らないはずの先生が弟子にした人なら大切にしなきゃね」そう言って女の子を呼んだ。
呼ばれた女の子は俺の横に座って挨拶する。
「こんばんわ真美《マミ》です、よろしくね」ニッコリした。
「こんばんわ…………」俺はどうしていいか分からない。
「何を飲まれますか?」
「俺は先生の車を運転しなきゃいけないので………ジンジャエールありますか?」
「先生が飲んでも良いっておっしゃってるのに、真面目なんですね」少しクスッと笑い口元が緩む。
彼女はボーイに注文してコップにジンジャエールを入れてくれた。
「先生のお弟子さんという事は、作曲家の卵って事ですよね?」
「まだ始めたばかりで、助手みたいなもんです」俺は眉を寄せ少し飲んだ。
「私、歌手になる為北海道から上京して来たんです、でもなかなか目が出なくて…………」少し寂しそうだ。
「そうなんですか………頑張ってください」俺は何も他の言葉は浮かばない。
「真人さんが作曲家になれたら、私に曲を作ってください」そう言って名刺を差し出す。
「多分難しいと思います………でも、もし万が一作曲家になれたらその時は………」
「じゃあ約束ね」そう言って名刺の裏に名前と電話番号を書いている。
見ると、高瀬由美香《タカセユミカ》と書いてある、自宅の電話番号まで書いてあるのでビクッとした。
「真人くんの電話番号は?」もう一枚名刺を出して書こうとしている。
「俺、実家の電話番号しかないんで………」頭を下げてお詫びした。
「先生!真人くんに電話したかったら先生の家に電話しても良いんですか?」
「いいよ!真人くんは殆ど家に来てるから」ニッコリOKサインを出す。
「え〜!許可しちゃうんですか?」俺は少し慌てた。
「そりゃあそうだろう、だって真美ちゃんは可愛いもの」ニコニコ手を振っている。
その後真美さんは秩父の名所や里山の事を聞いてきた。俺は質問に答えながら彼女は奈津美よりもパワーがあるなあと感じた。
ふと一樹さんと正美ママの話が聞こえてくる。
「先生、今夜は泊まっても良いんでしょ?」
「ああ、もちろんだよ」一樹さんは明かに鼻の下が伸びている。
「先生!ダメですよ!、今日は先生を送り届ける約束ですから」俺は二人の会話に割り込む。
「あら、とっても優秀なお弟子さんですこと」ママさんは口を塞いでクスリと笑った。
「先生、真美は秩父に行ってみたいです」
「良いよいつでも、きっと真人くんが秩父を案内してくれるよ」ママに寄りかかって笑っている。
「先生!それは嫌がらせですか」俺は頭を掻きむしった。
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