2-10 物書きの典明
その日は午前に清掃・整備の仕事を体験し、午後から記録・企画の体験をすることになった。
悠介は担当者に連れられイベントエリアの建物に入る。1階は体育館のようになっていて、2階は畳の部屋にたくさんのボードゲームや本が置かれてあった。
担当者「やっぱり娯楽は大事だから、企画担当でアイデアを出していろんなゲームを作ったんだ。まあ多少見たことあるようなのもあるかもしれないけど、創造力は知識と経験からしか生まれないからね。ご愛嬌だよ。」
担当者「君は自作のゲームを考えたりしたことない?そういうの好きだったらこの担当はすごく向いてると思うよ。」
悠介「うーん、あんまり自分でってのはなかったですね…。」
様々なゲームを順に見て、2人で出来るものは遊んだりもした。
担当者「物語を作ったりしたこともない?」
悠介「それもないですね…。」
担当者「そうかぁ。まあ、本を読んだ経験自体少ないかもしれないし、この村にある本を色々読んでみるといいよ。」
担当者「そうだ、今から典明の家に行ってみようか。ちょっと前に大ブームを巻き起こしたこの村一番の小説家なんだよ。」
悠介「へえ、すごいですね。」
2人が家に向かうと、家の前に「執筆中 入室厳禁!」と書かれた看板が立てかけてあった。
担当者「あ、執筆中か。じゃあしょうがないな。典明は集中するために執筆中はこうやって立て看板をしてるんだ。」
担当者「今度看板が無いときに入ってみたらいいよ。いろんな話が聞けると思うから。」
悠介「分かりました。」
〜〜その夜〜〜
悠介は村を散歩していた。すると、典明の家の前に昼間はかかっていた看板が無くなっていることに気付き、入ってみることにした。
悠介(まだ話したこともない人の家にこんな気軽に入ろうとしていいのかな…。いや、この村は大丈夫なんだもんね、よし!)
意を決してノックする。すると中から30代ぐらいの渋いおじさんが出て来た。
典明「は〜い、あ…、君はこの間入ってきた新人くんだね。」
悠介「はい、こ、こんばんは。実は今日の昼に…。」
家を訪ねたいきさつを説明し、中に入れてもらった悠介。一面に本や紙やメモ帳が置かれている。
典明「まだ来たばっかりだと思うけど、君はこの村どう思う?」
悠介「みなさんすごく優しくて…とてもいい所だと思います。」
典明「そうか、それは良かった…。」
何かを考えているような典明。悠介は机に積まれた本のタイトルに目をやった。そこには、見覚えのある名前があった。
悠介「あ、盲点上の親友って…。僕の家にもありました。そうか、あれ作ったの典明さんなんですね。」
典明「ああ、そうなんだ。もう全部読んでくれた?」
悠介「いや、まだ最初の方だけで…。あ、でもすごい村中で大ヒットしたって聞きました。続き読むの楽しみです。」
典明「はは、ありがとう。まあ、もちろん人によって感じ方は違うけどね。楽しんでもらえたら嬉しいな。」
少し会話をして、典明の家を後にした悠介。しばらくの静寂の後、典明が1人呟く。
典明「あの子はどうなんだろうな…。」
〜〜〜〜〜
帰ってからすぐに「盲点上の親友」の続きを読み始めた悠介。続きのストーリー、物語の中盤はこんな感じだった。
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地球人として生活していた宇宙人の青年は高校生となり、仲の良い3人とよく同じグループで活動していた。
テスト勉強をともにやったり、学校の懇親旅行に一緒に行ったりして仲を深めていた。
そんなある日、家にグループの友達を呼ぶことになった。宇宙人だとバレる物は一通り片付けた。はずだった。友達の一人に本棚の本のタイトルを読み上げられてしまった。
それは自分たち宇宙人の歴史に関する本だった。うっかりそれだけ隠し忘れていたのだ。すごく焦ったが、SFに興味があるという言い訳で何とか難を逃れた。
青年は、親友なのに隠し続けないといけないことが嫌だった。でも、もし打ち明けて拒絶されたりバラされたりしたらと思うと、正直になることは出来なかった。
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悠介(…そっか。やっぱりこれは…ゲイを宇宙人に置き換えた物語なんだ。)
悠介(僕は学校でバレてたけど、バレてなかったとしても隠し続けるのがしんどいっていう悩みが出来てたんだろうな…。)
村に来てから考えなくなっていた、ゲイの葛藤に関するあれこれを考えさせられ、悠介は疲れてしまった。
悠介(…続きが気になるけど、眠くなってきたからこの辺でやめとくか。)
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