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2-21 時が動き出す

こちらは元の世界。今日は修司の学校で人権講演会が行われる日だ。

修司(今日の講演会…なんかやだな…。)

あまり言語化したくはなかったが、聞きたくないという気持ちが修司にはあった。それは恐らく、当事者の生徒が当事者であるために聞きたくないと感じる感覚と似ていただろう。

そしてー

講師「みなさん、こんにちは。今日はみなさんに、人権についてお話します。大切な話なので、しっかり聞いてくださいね。」

講師はいろいろなマイノリティの抱える問題について話し始めた。障害のある人や、外国人の問題、そして話題がセクシャルマイノリティの話に入った。途端にざわつく生徒たち。笑い出す者もいた。

講師「君、今どうして笑ったの?」

突然指を刺され、真顔になる生徒。何も言えずに黙っていた。他の生徒も何も言わなくなった。

講師「僕はずっと真面目な話をしてるんだよ。もし君がセクシャルマイノリティの人たちを面白おかしく扱おうとしてるなら、絶対にやめよう。」

講師「さっきまで話したような、障害者や外国人とかと同じなんだよ?少数派で苦しい思いをしてるんだ。何もおかしいことをしているわけじゃないんだよ。」

講師は生徒をたしなめた上で、抱えている困難などについて説明した。真剣な表情で熱心に伝え、生徒はそれに引き込まれて真剣に聞くようになっていた。

講師「以上で講演会を終わります。この後夕方まで僕は別の部屋にいるので、もし何か話したいことがある人は是非来てください。それでは、ありがとうございました。」

講演会が終了し、修司は考えていた。

修司(どうしよう、相談しに行ってみようかな…。でも悠介のことを話したら流石に頭がおかしいって思われるかも…。そうだ、昔そういう友達がいたっていうことにして…。)

修司は講師の所を訪ねた。

講師「あっ、こんにちは。来てくれてありがとう。」

修司「こんにちは…。」

修司は少し気まずそうな雰囲気で椅子に座った。

講師「どんなことを話したいのかな?」

修司「えっと…。実は、昔、友達に…ゲ、ゲイの人がいて…。」

講師「そうなんだ。」

修司「あ、今は引っ越しちゃっていないんですけど、そのとき、周りにもバレてて、いじめられてて…。」

修司「僕は出来るだけ普通に接してたつもりだったんですけど、あるとき急にその子が怒ってしまって。それから…。」

講師「なるほど…。」

講師はそのときの状況を質問した。修司の回答を聞くと、講師は少し考えた後、修司に優しく返答をした。

〜〜〜〜〜

修司(うわああああああ!!!)

修司は今にも泣き叫びたい気持ちのまま、駅へと走っていた。講師の返答を聞いてから、居ても立っても居られなくなり、すぐに学校を出て駅に向かっていた。

〜回想〜

講師「もしかしたらそれは、ホントに君のことが嫌いになったんじゃなくて、ワザと嫌われようとしたんじゃないかな。いじめの標的にされそうになってきた君を守るために…。」

〜回想終わり〜

修司は今までの自分の浅はかさを酷く恨んだ。そして悠介にもう一度会って、謝りたいと心から思った。

サイハテ駅に着くと、あの一本杉の方へひたすら走った。そしてそのまま悠介が入って行った森の中へ走っていった。

修司「悠介…ごめん…!悠介…!」

北も東も分からない森の中を、ただひたすら走った。あの後悠介がどこまで行ったのかは分からない。それでも行かなければいけない。

修司(きっとどこかにあるはずだ…!悠介の言っていた、ゲイだけの村が…!)

しかし、村らしきものは一向に見えて来なかった。段々と疲れてきて、進む速度も遅くなってきた。

もうサイハテ駅まで戻る道も分からない。村を見つけるしかない。修司はただ気力だけで歩いていた。

修司(クソ…なんで見つからないんだよ…!てっきり大きな村だと思ってたのに…。)

次第に日が暮れてきた。木々の隙間から入ってくる陽の光が少なくなり、一気に当たりは薄暗くなってきた。

ヨロヨロと歩いていた修司だったが、ついに体力の限界を迎えてしまった。

修司(もう…ダメだ…。うう、悠介、ごめん…。)

その場にバタッと倒れ込む修司。そのとき、前から足音が聞こえた。

修司(…?誰だ?こんな山奥で…。動物じゃない。人の足音だ…。)

その人物は修司の前まで来て止まり、言った。

村長「来なさい。」

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