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2-17 人はいつか

颯人「開いた!よし、急いで行くぞ。ちゃんとヒカリ石は持ってきたか?」

悠介「うん、あるよ。…でも怖いな。」

颯人「大丈夫だよ。真っ暗だけど変な生き物とかいないだろ。」

悠介「いや、それもあるけど、ホントはダメなのに村の外に出るのがやっぱり…。」

颯人「…。」

颯人は呆れたように悠介の腕を掴み、無理やり洞窟の中へと引っ張って行った。

悠介「ああ〜、外に出ちゃったよ…。ホントに早く戻ろうね…?」

すると颯人はすぐに足を止めた。

颯人「…すぐ戻ることになるな。」

悠介「え?どういうこと?」

悠介が颯人の体の向こうを見ると、そこにあったのは壁だった。すぐにこの洞窟は行き止まりになっていたのだ。

悠介「…え?何で?出口は?元の世界は?」

颯人「…俺らはもしかしたらとんでもない所に来ちまったのかもしれねえな。」

颯人「とりあえず戻ろう!」

悠介「うん…!」

二人は急いで戻って門を閉め、鍵を村長の棚に戻した。まだ村長が戻っていないことに安堵しつつも、不安感に包まれていた。

悠介「…出口が無かったのも怖いし、本当に村長にバレてないのかも怖い。あの不思議な力のある村長だから、見透かされてるかも…。」

颯人「そんなのは怒られたときに分かるんだよ。何も言われなかったらバレてないってこと。でも出口に関しては謎だな…。」

悠介「あ、じゃあ門の件はこれで終わったから、さっきの悲鳴が何だったか確認しに行こ!」

颯人「そうだな。とりあえずそれ見に行ってみるか。」

二人が声のした方に走っていくと、人だかりが出来ていた。何人もの叫び声が聞こえていた。

悠介「何があったんですか!?」

村人A「玲が…!猪にやられたんだ!」

村人B「おい!武昌も怪我してるぞ!」

悠介「えっ、武昌さん…!」

村長「猪はワシが戦って、ひとまず山に追い返したが、仕留めることは出来んかった。来たときには玲はもうかなりやられていたんじゃ…。」

悠介「そんな…。武昌さんは無事なんですか!?」

武昌「悠介ちゃん…俺は大丈夫だよ…!ちょっと足にぶつかられただけだから…イテテ…。」

大怪我を負った玲が大急ぎで治療部屋へ運ばれていく。環境・健康担当の村人たちが何人も手当をしている。

颯人「…あの人、大丈夫なのかな…。にしてもこの村、こんなことが起こるんだな…。」

悠介「うん…怖いね…。助かってほしいな…!」

〜〜次の日〜〜

朝、村人全員が村長の家の前に集められた。

武昌「おはよう、悠介ちゃん。」

悠介「おはようございます。足大丈夫ですか?」

武昌「俺はなんとか足の打撲で済んだよ。ただ…。」

悠介「…この感じ…やっぱり…。」

村長「諸君に報告がある。」

村長「昨日猪に襲われた玲じゃが、残念ながら息を引き取った。」

村長「これから葬式と火葬を執り行う。言いたいことがある者は前に出なさい。」

村人が順に前に出て生前の思い出などを語っていく。あまりに突然のことで、悠介だけでなく、皆動揺を隠せないでいる。

一通り村人たちが話終わると、火葬が始まった。そして遺骨が壺に入れられ、希望した者たちで墓場に行くことになった。

村長「山には昨日のイノシシがおるかもしれんが、ワシが多少ダメージを与えておいたから恐らく大丈夫じゃろう。」

悠介「昼だし、みんないるから大丈夫だよね…。そうだ、山の中の墓場、颯人は行ったことあるんだっけ?」

颯人「ねえな。せっかくだから一緒に行ってみるか。」

山を登り、林をかき分け、墓場に来た。納骨を終えた後はバラバラに帰って行った。悠介と颯人は少し残った。

颯人「…こんな場所があったんだな。」

悠介「うん。後、ここからちょっと歩いたら開けた丘があるんだ。せっかくここまで来たから、久しぶりに寄ってかない?」

颯人「ああ、いいぜ。」

二人は丘の一本木までやって来た。時の流れを表すように風がただヒュウヒュウと吹いている。

颯人「めちゃくちゃいい場所だな。景色もいいし、風も気持ちいいし。」

悠介「でしょ?」

そう言った後、少し沈黙が訪れた。共にこの場所の雄大な自然を全身で受け止めたくなっていた。そして颯人が口を開く。

颯人「…なんか、ゲイも死ぬんだな。」

颯人「いや、そりゃ当たり前だけどよ。ゲイで死んだって人を身近で見たことがなかったからさ。ゲイが死ぬってイメージが無かったんだよ。」

颯人「ゲイだったとしても、知られてなかったらノンケってことになるじゃん。だからホントはニュースとかでもいっぱいゲイが死んでたかもしれないけど、分からなかった。」

悠介「そうだね…。確かに僕も身近で亡くなったゲイの人、一人も知らないや。」

悠介「…ていうかそうだね、ここにいる人もいつか死ぬんだね。この村で。今回みたいに事故で突然死んじゃうこともあるし、おじいさんになって眠るように死ぬかもしれない。」

颯人「そうだな…。」

颯人が突然、ハッとして悠介に聞いた。

颯人「おじいさんと言えばあの村長さ、いろいろ不思議な力があるんだよな。だったら何で今回あの死んだ人を救わなかったんだ?やろうと思えば出来たんじゃねえか?」

悠介「そんな…ワザと見捨てたっていうの!?」

颯人「…とりあえず村に戻って迅さんに聞いてみるか!」

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