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2-24 復讐のための忘却

千紘「やられてやり返すのは当然のことでしょ。先にやった方が悪いのよ。元の世界の司法は裁いてくれないから、この世界で私たちが裁いてるの。嫌ならノンケが差別をやめればいいだけの話。」

千紘「そして、この村に召喚されたノンケは、しばらくは頑張ってゲイのフリをするけど、あるとき全てを投げ出して自分から死んじゃうか、ボロを出して殺されるかするの。ちょうどそこのあいつみたいに。」

千紘「村に来て数ヶ月で隠し通せなくなるなんて、ホントに情け無いわね、ノンケって。私たちは生まれたときから死ぬまでずっとそれが当たり前の世界で生きることを余儀なくさせられてるのに。それぐらい耐えなさいよ。」

悠介は何も言えないままだった。

千紘「…あいつの一個前のノンケは、剛って名前だったわね。確か悠ちゃんとこの担当リーダーの武昌ちゃんと仲が良かったわ。」

悠介「あ、その人、武昌さんから聞いたことが…。」

千紘「そいつは昔、家に大量の女の裸の絵を描いてるのを村人に見つかってノンケバレしたんだったかな〜。」

千紘「ま、この村には女の人どころか女体の写真すらないから、ノンケが性欲を発散させるには妄想するかそういう絵を描くかしかないもんね。どうでもいいけど。」

迅「そう、それで剛は殺された。殺される直前、剛は武昌に何て言われたと思う?」

迅「『ずっと俺を騙してたんだな、裏切り者が!』だよ。元の世界で友達がゲイだと分かったときにノンケがよく言うセリフを逆にノンケに対して言ってたんだ。」

迅「ノンケってさ、勝手に俺らをノンケだと決めつけてかかってくるだろ?それでゲイだって分かったら勝手に裏切られた気持ちになってキレるんだよ。バカらしい。」

迅「しかもそれまで築いた仲もゲイってだけで全部無かったことにされてさ。そんな反応されたときの辛いゲイの気持ちをノンケに分からせられて、あのときはスッとしたなぁ。」

悠介は、二人から出る言葉に呆然としていた。しかし、そのとき一つの疑問ご浮かび上がった。

悠介「じゃあ…武昌さんが剛さんの死んだ理由を覚えてないって言ってたのは嘘だったんですか。」

迅「いや、武昌は本当に忘れてるはずだ。」

悠介「え…?」

迅「さっきも言ったように、村には生贄ノンケを呼んでいる。そしてそいつがノンケバレして死ぬと、すぐに次のノンケが補充される。」

迅「だから、もし定期的にノンケが村に呼ばれて来ていると村人が分かり始めると、新しく来た人を手放しで仲間だと認められなくなるだろ。」

迅「それに、今いる村人同士でも疑い合うことになる。お前はホントにゲイなのかってね。」

迅「だから、ノンケバレしたときの記憶は俺と千紘以外からは消し去ってるんだ。これは村長の力を使ってな。」

迅「だから武昌には剛がゲイバレして殺されたときの記憶はなくなり、ある日突然死んだことになってるんだ。」

千紘「元の世界を思い出してみて。みんな周りに異性愛者しかいないと思い込んでる。そして稀にカミングアウトされたりして身近にゲイがいたことを知っても、結局意識が変わることなんてない。」

千紘「その人以外はみんなノンケだと思ったままで、同じように他にもいるのかも、とか今後の人生で出会うかも、とか一切考えを改めないじゃない。」

千紘「だから、この村では元の世界のそういう状況を意図的に作り出してるの。村長の力によってね。」

千紘「そして、ノンケがバレたときには誰もそいつの味方をする人なんていない。全員ノンケを憎んでいるから。だから、あっという間にああやって血祭りにあげられるってわけ。」

悠介「で、でも…あんなのいくらなんでも…。」

悠介は敦志の所に近づこうとした。その瞬間、千紘が悠介の腕を掴んで静止した。

千紘「止めようったって無駄よ。さっきもいったでしょ。みんなノンケを憎んでる。ここにはそういう人しかいないの。」

千紘「ゲイが多数派になり、ノンケに復讐出来る喜び。あのときの苦しみを逆に分からせられる快感。誰も悠ちゃんの言うことなんか聞く耳を持たないわ。そう…例えそれが颯人ちゃんであっても。」

颯人「そうだぜ、悠介。」

悠介「颯人…!」

さっきまでの話を全て聞いていた颯人が木の影から出て来た。

悠介「は、颯人も…ノンケを憎んでるの…?」

颯人「もちろんだろ。ていうか悠介と喋ってるときに割と滲み出てた気がするけどな。…まあ俺は村がここまでやることやってるとは知らなかったけど。」

颯人「あ、そうだ迅さん。さっきの記憶消去の話聞いてたけど、俺もノンケが出たことの記憶、消さないでほしいんだけど。」

迅「…君ならそう言うと思ってたよ。ま、それを決めるのは俺だけじゃ無理だけど…まあ多分オッケーだろうな。」

颯人「やったぜ。…てかさ、何で悠介はノンケの味方してんの。さっきの話だとここに来たやつはみんなノンケが憎いはずじゃねえの。いい子ぶろうとしてんのか?」

悠介「いや、僕は…。」

迅「それなんだよね…。」

颯人「え?」

迅「悠介だけは違うんだ。」

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