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2-20 違和感のある小説

翌日の昼、悠介の牧畜の仕事の手伝いで颯人が農場に来た。共に仕事をしながら話をしている。

颯人「結局村長の家ゆっくり見せてもらったのに何も出てこなかったな…まあそりゃそうか。あってもどっかに隠してるよな。」

悠介「…ねえ、颯人はなんでこの村に来たの?あんまりここを良く思ってない感じだけど…。」

颯人「いや、良く思ってないことはねえよ。元の世界なんかよりよっぽどいいと思ってるぜ。でも、なんか怪しいところが多いなと思ってさ。」

颯人「それに言っただろ。これが一番暇つぶしになるって。」

悠介「ホントに大事な秘密知っちゃったらどうするの…。消されるかもよ?」

颯人「そんなことしねえだろ。別にこの村は恐怖で縛ってるみたいな所じゃねえじゃん。」

悠介「まあそうだけど…。」

颯人「それに、悠介だって気になることはあるだろ。例えばあの門の向こう、行き止まりだったんだぜ?」

悠介「確かにそれは驚きだったけど…。」

颯人「ホントに俺らはあそこから来たのか?…分からねえ。」

悠介「そういえば洞窟に入った後、一瞬視界が白くなるような、意識が飛ぶような感覚があった気がする。」

颯人「俺も確かにそんな感じがしたんだよな。」

颯人「…分からねえけど、ワープしたって可能性はあるか?…でも、それなら何で俺をあの場所まで連れてったんだ。」

悠介「あの場所?」

颯人「元の世界で村長と会った場所だよ。悠介は違う場所だったみたいだけど。ワープ出来るならわざわざあんなに誰もいない所に来させなくても良かったんじゃねえかと思ってさ。」

悠介「でもそれはもし誰かに会ってるところ見られたらまずいから、念には念を入れてるんじゃ。」

颯人「いや、思い出してみろよ。俺らがこの村に来て、元の世界が騒ぎになってないかって話しただろ?そのとき、元の世界で俺らに関する記憶を消してるんじゃねえかとかって話したじゃん。」

颯人「もしそうなら、人目につかないところまで来させるなんてことする必要全く無いだろ?街中でもどこでも、ワープして次の瞬間に記憶を消せば誰も騒がないんだよ。」

悠介「あ、そうか。」

颯人「山奥まで行かないといけなかった理由があるんだよ。」

悠介「なんだろ…。」

ーーーーー

さて、この夜も悠介は例の小説の続きを読むことにした。

前回読んだところが仲の良かった友人に宇宙人だとバレたことでいじめられるようになったという内容だったため、読み進めるのをしばらくためらっていた。

しかし村人からこれは面白かったとよく聞いていたため、きっといい展開が待っているのだと信じ、久しぶりに続きを読むことにしたのだ。

悠介(どうなっていくんだろ…。多分ハッピーエンドになるんだと思うけど…。)

続きの内容はこんな感じだ。

宇宙人であることがバレた主人公。クラスに居場所はなくなり、今まで仲良くしていた友達も、自分を救ってくれたのにも関わらずいじめてくるようになった。

次第に騒ぎは大きくなった。クラスメイトの親に伝わり、そして通報が入ったことで国を動かす大問題になった。

一部、宇宙人側の味方をする団体もいるが、大半は自分たちと異なるよく分からないものを怖がり、排除しようとする人間だ。

中には何かもっともらしい理屈をわざわざつけて宇宙人の排除を正当化しようとする者もいた。だって怖いじゃん、そんな感情論をそのまま出すより排除に効果的だと思ったのだろう。

そんな中、主人公の家に取材が来た。全国の人々が中継に興味津々だった。

しかし主人公一家はそれまでの騒ぎで憔悴しきっており、カメラの前に出て来たものの何かを強く主張することは出来なかった。

取材陣にあれこれと無神経なことを聞かれる主人公一家。そこへ、主人公が宇宙人だと判明しても唯一友達のままでいてくれた友人が現れた。

突然のことに驚く一同。主人公も、なぜと言いたげな表情だった。しかし、堂々とカメラに映ったままその友人は主人公がどういう人柄だったか、なぜ宇宙人だと発覚したのかを詳しく話した。

報道では地球人の友人を救おうとして宇宙人だとバレた、という内容が意図的に消されていたので、その放送を見た多くの人が考え方を変えた。

地球人の友人がカメラの前で友人への差別の不当性を必死の思いで伝えたことで、ただ宇宙人というだけで排除するのはおかしい、という世論へと変わったのだ。

学校でも同様の空気が生まれ、何人かからは謝罪もされた。いじめはクラスからなくなった。もちろん、すぐに全てが良くなるわけではなかったが。

しかし、この件で地球人と宇宙人の関係は一気に進展しただろう。宇宙人を応援していた団体からも感謝されたそうだ。今後さらに両者の関係は良好になっていくのだろう。

ーあらすじ終わりー

悠介(…。)

悠介(…?)

ハッピーエンドの物語を読み終え、悠介は何故か腑に落ちなかった。

悠介(なんだろう…何か違うような気がする…。)

悠介(…確かにいい話だった。少数派と多数派の共生。ホントはみんなこれを望んでるんだろうな。)

悠介(だけど…村中の人がみんな面白かったって言うほどの内容なのかな…。いや、失礼な話なんだけど…。)

悠介(これって割とよくある内容な気がするんだよなぁ。僕がちゃんとストーリーを理解出来てないのかな…。)

しかし、この本はここで終わっており、もうページはない。そういうものなんだろうと考え、悠介は眠りについた。

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