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顧客体験は企業が設計できるのか

XD副編集長 / CX DIVE 統括の川久保 (@kawatake)です。

今回は顧客体験の設計に関して私が考えていることを、いくつかの記事を参照しながら紹介したいと思います。

きっかけは、宣伝会議5月号のこの記事です。

クリエイティブユニット TENTのプロダクトデザイナー 青木亮作氏が考える顧客体験についてのインタビューです。

冒頭から青木さんの考える顧客体験についてのお話しがありますが、最初のタイトルが全てですね。

体験は規定しない ユーザーこそが主役
CXの根底にある"体験を設計する"という思想にも、個人的に違和感を覚えています。どんな体験をするか、その選択はユーザーに委ねられているはずなのに、企業が設計した決まった型に押しはめているように見えるからです。ですから、体験設計の発想自体が、ある意味で企業本位の考え方と言えるのではないかと思います。みんなが同じ体験を享受できるように設計すべきなのはテーマパークくらいで、私は日常生活における体験は企業によって設計されるべきではないと考えています。

顧客体験について語る時、しばしば「顧客起点」であったり「顧客視点」という言葉が出てきます。「企業の視点ではなく顧客の視点で物事を捉えるべき」ということですが、顧客体験を提供する企業側の立場になると、ついついその「顧客起点であること」が抜けてしまうことが多いです。

体験の主語は、あくまでユーザー。私たちがすべきは体験全体を厳密に設計することではなく、最小限の細かな部分から"関与"すること。体験を規定したり、完全に制御できるなどと思わず謙虚な姿勢でいることが大切だと思っています。実際、ディティールを詰めることが、体験全体の向上に意外なほどつながることも多いです。

結果、企業が顧客の体験を設計できる、管理できるという考えになってしまうこともあります。しかし、あなたの生活で、企業が思い描いたとおりにしている体験などあるでしょうか?私たちの体験は、それほど単純に組み立てられるものではないと思います。

自分の体験は自分で生み出しますし、場合によっては自分で独自の解釈をし、独自の意味を付与することもあります。

ICC FUKUOKA 2019のCXをテーマにしたセッションで、ヤフー株式会社(当時)の井上さんはこう語っています。

井上氏「朝から晩まですべてのブランド体験を書き出してもらったこの調査では、広告や記事を読むだけでなく、ナイキの靴を履くこと、街中でメルセデスが走っているのを見ること、そして、家に帰って牛乳を飲むことまでも『ブランド体験』として綴ってもらいました。その結果、明らかになったのは、商品の広告やデザインなど、企業側からコントロールできるブランド体験は全体の5%程度。残りの95%は企業側でコントロールできない偶然の産物なんです。」

企業が考えてもなかった商品の使い方を顧客はしていた、企業の想定していない層に人気になった、などという話はよくあります。

その際に大事なのは、顧客に対するリスペクトを持ち、彼らが紡ぐ物語を信じ、彼らが物語を語るに足るものを用意すること。数字の1ユーザーではなく、顔が見える相手に対して接していると考えることが大事ではないでしょうか。

顧客が紡ぐ物語という観点では、デザイン・イノベーション・ファーム Takramの渡邉さんの提唱するコンテクストデザインという考え方も参考になります。

渡邉氏「コンテクストデザインというと、『企業やブランドが文脈を作り、顧客に正しく届けること』と誤解されるのですが、実は逆なんですよ。Contextの語源はラテン語で『con-=ともに』と『texere=編む』。つまり、“ともに編む”という意味の言葉です。情報を押し付けるのではなく、むしろ受け手とともに編んでこうというものです」
作り手と使い手を明確に分けるのではなく、使い手のクリエイティビティを引き出す。そういったものがコンテクストデザインを伴ったプロダクトやブランドだという。

”ともに編む”、良いですよね。自分が好きなブランドやサービスの体験において、我々は受動的に情報やサービスを受け取るだけではなく、能動的に自ら「好き」になる要素を探しにいき、自分なりの「好き」の理由を構築しているのではないでしょうか。

また、そのような行為を「誤読」と呼ぶと渡邊さんは提唱しています。受信者から発信者に顧客(生活者)を変える行為ですね。

渡邉氏「誤読とは、他者が生み出した物語を自分で語り直すこと。誤読が生まれる時は、これまでの聞き手がいつの間にか語り手に移り変わる時です。作り手が生み出した物語が形を変えて、いつの間にか自分の物語になっている。ブランド自体も、作り手から使い手のものになっていくんです」

某テレビ番組の「○○大好き芸人」ではないですが、自分が好きなものについては熱狂的に語れることがありますし、そのポイントが人それぞれ違うというのもありますよね。それを許容する(当たり前ですが)、むしろ推進するような体験を提供するというのが大事なのかもしれません。

冒頭の記事に戻り、青木さんはこう言っています。「体験の余地」ですね。

TENTでは様々なプロダクトを開発しているのですが、共通して重要視しているのは、ターゲットをガチガチに規定したり体験の全てを制御するのではなく、共感してもらえる上位の「目的」を考えること。目的を達成するための、様々な体験の余地があるプロダクト開発を心がけています。

では、企業は顧客の体験に関してジャーニーを描かず、マネジメントもせずに闇雲に考えるべきなのでしょうか。その点に関して、「Bean to Bar」チョコレートムーブメントを牽引するMinimalの山下さんのこの発言を、個人的には賛同しています。

僕はカスタマージャーニーマップを『球体』のように立体的に捉えています。お客様は、あらゆる導線から入ってきて、あらゆる導線に抜けていく。ブランドを熟成させるには、お客様が自分の興味の基づき、自分の意志で興味を深掘りできる選択の自由さが必要なのです。適切な時間と熟度とコンテンツの順番があるはず。

これもコンテクストデザインに近い(同じ?)考えだと思いますが、『球体』で考えるというのユニークでいいですね。

とりとめのない内容となってしまいましたが、タイトルにある「顧客体験は企業が設計できるのか」という問いに対して、私個人の意見としては「顧客体験を一連のものとして企業が設計することはできない。むしろ、ともに作り上げていくために体験の余地をどう作り上げるかを、顧客へのリスペクトを持って考えることが必要である」と考えています。

もちろん、デジタルサービスやデジタル上での体験も増え、企業から顧客が見える部分も多くなってきており、以前より体験の設計がしやすくなった側面はあると考えています。しかし、それでも全ての顧客体験を設計できる、管理できるというのは企業側の幻想であり、奢りでもあると考えています。

その点、冒頭に紹介した記事のタイトルがこの投稿で言いたいことの全てだったかもしれません。

「設計ではなく関与する謙虚さを」

皆さんは、どうお考えでしょうか。それでは、今日はこのあたりで。

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褒め合うっていいですよね。
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