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潔い(いさぎよい)人生...社長の生き方

私共のクライアントで、一代で年商70憶円、利益3憶円の会社を創り上げたK社のT会長が亡くなられました。

◯ 人生・経営者の師

独立創業した翌年の出会いから約30年のお付き合いでした。
当社の大切なお客様であると同時に、私が職人気質の税理士から組織を率いる経営者へと成長するうえでたくさんのことを教えていただいた師でもあり恩人のお一人でした。

常に前を歩き、人生の指針を与えていただきました。
晩年の事業承継に対する考え方は私の事業承継の価値観の基盤ともなっています。

若い頃には「後継者には資質が必要だから親族に拘らず広く後継者選びをする」と公言していたヤリ手社長が...
歳を取るほどに「事業承継は親族内に限る」と変化したり
財産権は親族に残し社長を雇う(経営権分離)と言い出したり・・・
そんな事例をイヤというほど見てきました。

◯ 社長としての在り方

しかし、T会長は最初から一貫して...
  「子供は会社には関わらせない」
  「会社は頑張って働いてくれた社員のもの
という考え方を貫きました。

社員持株制度や役員持株制度を作り一度も欠かさず10割配当を続けて社員に利益を還元すると同時に
社長を下りる際には黄金株一株を残して自分のすべての株式を配当還元価格で社員に分配をしました。

つまり、M&Aで売却すれば何十億円にもなる株式を額面に近い価額で創業者利益を得ないまま後継する社員に引き渡したのです。

同時に、人材不足の中、大手金融機関からの出向を受け入れて企業理念を叩き込む厳しいけれど愛情に溢れた教育をすると同時に
毎期必ず億を超える利益をたたき出す優良企業を創り上げ、中小企業では珍しい金融機関に対して「社長の個人補償不要」という上場企業並みの免罪符を持つ次世代の後継者に不安と重荷を課さない素晴らしい組織を創り上げて事業承継をしました。

◯ 社長としての生きざま

20年近く前だったでしょうか...
T会長の奥様が「社長って言われたって自宅は借地だし保険も満足に入っていないし貯金もないし、私は老後どうやって暮らせば良いのか不安で不安で」と泣きながら事務所に訪ねて見えたことがありました。

それを報告すると、T会長は「大丈夫だって言ってるのに...先生、適当にババアの話を聞いてやってくれ」と笑い飛ばされていましたが
会長の言葉の通り、社長退任後は退職金を奥様と半々に分けられると同時に、自宅を売却し奥様とは別々の高級老人ホームに入居されました。

入居後は、お会いするたびに「健康管理や身の回りの世話もしてくれる高級マンションに入ったようなもんだからホントに気が楽だよ。ババアに老後の面倒なんて見てもらいたくないよ」と憎まれ口を聞きながら豪快に笑っていらっしゃいましたが
それは、奥様に老後の面倒をかけずに自立して自分の最期を自分の責任で生抜こうとする会長のダンディズムの表れであり深い愛情の証であったのだと思います。

癌の発症が判りお見舞いにうかがった時には、辛い治療が続く中「治療しても半年だって言われたよ」と笑って話される会長の隣で「元気になってまたカッコ良く銀座に飲みに行きなさいよ」と励ます奥様の姿を見て、憎まれ口を言い合いながらも本当は大きな愛情で結ばれているご夫婦の絆を感じて帰り道に涙が止まらなくなりました。

◯ 本物の潔さとは

優良企業の創業者としては驚くほど少ない財産を、現金化して整理して、信託銀行に遺言を預け遺言執行人を依頼し、残されたご遺族に何ひとつ面倒もかけないように準備をされて逝かれたT会長...

その生き方に教えられるのはモノにもコトにも捉われない「潔さ」です。
そして自分の人生を自分でコントロールしていくダンディズムです。

最後の言葉は「悔いのない良い人生だった」とお聞きしました。
跡を追って少しでもカッコよく自分の人生を生き抜きたいと思います。
心よりご冥福をお祈りします。

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