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サーストンの三原則 その①「マジックを演じる前に、現象を説明してはならない」

マジシャンを志すものであれば誰しもが知っているであろうサーストンの三原則。

これは、二十世紀前半にアメリカで活躍したハワード・サーストンというマジシャンの名前から付けられたもの。

しかし、この三原則は実際にサーストンが残したものではないようで、その真相は諸説挙げられているとのこと。

今回はその真偽には触れず、マジシャンの鉄則となっているこの三原則の内容を見ていこう。


サーストンの三原則

まずサーストンの三原則の内容は以下の通りである。

原則1「マジックを演じる前に、現象を説明してはならない」
原則2「同じマジックを2度繰り返して見せてはならない」
原則3「種明かしをしてはならない」

どれも大事な原則だが、この三原則自体、せいぜい100年程度の歴史である。

時代の変化につれて適さなくなっているものもあるかもしれない。

今回はこの3つの原則について、ひとつひとつ考えていこうと思う。


原則1「マジックを演じる前に、現象を説明してはならない」

つまり、マジックを演じる前にそのマジックのオチを言ってはならないということ。

マジックとは不思議や魔法を再現するエンターテインメントである。

あくまで再現であり、本当に魔法が使える訳ではない。

そこには必ずタネがあるのだ。

そんなことは観客もわかっている。

もし今から起こる現象を前もって説明してしまうと、観客はどこにタネがあるのかを必死に探そうとする。

例えば、コインが右手から左手に瞬間移動するというマジックをするとしよう。


まず両手が空であることを示す。

3枚のコインを取り出し、そのコインを右手に2枚、左手に1枚乗せて握る。

そしておまじないをかけて両手を開くと、コインが1枚飛び移り、右手が1枚、左手が2枚になっている。


これを何の説明もなく行えば、観客は「すごい!コインが飛び移った!」となる。

しかし、予め「今からコインが右手から左手に1枚飛び移ります」と説明した上で今のマジックをするとしよう。

すると、観客の反応は「すごい!全然わからなかった!」となってしまうのだ。


前者と後者では同じ驚きでも、意味合いが全く違ってくる。

前者は純粋にマジックの現象に驚いているが、後者はマジシャンのテクニックに驚いているということになってしまう。

予め現象を説明してしまうと、観客の目はタネを探る目になってしまうのだ。

コインは本当に2枚と1枚か。

コインに怪しいところはないか。

右手と左手は怪しい動きをしていないか。

こうなると、単にマジックを見せているというよりも、騙すか騙されるかの勝負のようになってしまう。

別に観客を負かせることが目的ではない。

不思議な現象というのは、説明しなくても伝わるし、説明がない方が驚きも大きくなる。

前もって現象を説明しても絶対に見破られないマジックだとしても、わざわざその効果を半減させるようなことをする必要はないのだ。


しかしこれは絶対ではなく、場合によっては前もって現象を説明した方が効果的な場合もあるだろう。

そのような演出もよく目にする。

しかし、それはマジックを演じることに慣れてきてからの方が良いだろう。

初心者の内は、現象を説明しない方がずっとマジックを演じやすいはずだ。

そもそも現象を説明しなきゃできないマジックなんてほとんど存在しないはず。

あるとすれば、メンタルマジックでよく言う「今からあなたの心を読みます」くらいだろう。


マジシャンの1番の目的はお客さんに楽しんでもらうこと。

観客の驚きを半減させない気遣いとして、これは心得ておくべきである。



次回は、原則2「同じマジックを2度繰り返して見せてはならない」について考える。


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