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ロスジェネ氷河期世代と「8時だョ! 全員集合」から「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」への転換 昭和から平成への変化を映し出すテレビ革命



テレビは「生活の中心」だった時代

私たちロスジェネ氷河期世代にとって、テレビは家族全員が一緒に過ごす「リビングの中心」でした。昭和の家庭で、土曜の夜8時といえば、家族でテレビの前に集まる特別な時間でした。その象徴的存在が、長らく国民的番組として君臨していた『8時だョ! 全員集合』です。ドリフターズの豪快なコントや大規模なセット、観客を巻き込んだ生放送のスリルが私たちの記憶に深く刻まれています。しかし、この人気番組が1985年に終わり、新たな時代を象徴する『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』にバトンが渡されました。

この転換は、単なるテレビ番組の変更にとどまらず、時代そのものの変化を象徴するものでした。ロスジェネ世代として、この移行をどう捉え、何を感じたのか。そして、その背景にある社会的な変動をどう考えるか。今回は、そんな深い視点からこの出来事を掘り下げてみたいと思います。

全員集合 vs. ひょうきん族  世代と時代の分断

1980年代の後半、テレビ視聴者は大きく二派に分かれていました。『8時だョ! 全員集合』を見続ける保守的な視聴者と、フジテレビの『オレたちひょうきん族』を支持する新しい時代の感覚を持つ視聴者です。『ひょうきん族』は、当時の日本において異端ともいえるブラックジョークや風刺を取り入れた斬新なスタイルで、若い世代を中心に人気を集めていました。ビートたけし、明石家さんまを中心としたコメディアンたちが時代の先端を走り、視聴者の間では「ひょうきん族を観ている=時代の最先端」というイメージが強く根付いていたのです。

一方、『全員集合』派であった私は、どこか「保守的」とか「古い」と見られることもありました。全員集合は安定した笑いを提供し続けていたものの、その末期には確かにマンネリ化が進んでいたことも否めません。これが、ひょうきん族派との対立構造を生んだ一因でもあります。しかし、私たちは全員集合の魅力に取り憑かれ続けました。それは、単なるお笑い番組以上の「家族の絆」を象徴する存在だったからです。全員集合を観ることは、家族全員が一緒に笑う時間を共有する、いわば「日常の一部」だったのです。

「全員集合」から「加トちゃんケンちゃん」への衝撃的な転換

1985年、『全員集合』が終わり、後を継いだのが『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』でした。この転換は、私にとって大きな衝撃でした。それまでの「お決まりのコント」「体を張ったギャグ」「子供から大人まで楽しめるファミリー向けのバラエティ」というドリフの世界から、まるで別次元のエンターテイメントに変わったからです。

特に、「探偵物語」コーナーは全員集合時代とは全く違うスタイルで、社会問題などを織り交ぜつつ、ストーリー仕立てで視聴者を引き込むものでした。探偵に扮した加藤茶と志村けんが事件を追う姿は、コミカルでありながらも当時の子供たちにとって「大人の世界」に踏み入るような感覚を覚えさせました。全員集合の舞台セットでのドタバタ感から、ロケや映像効果を駆使したよりシネマティックな演出へと移行したのです。まさに昭和から平成への移行期にふさわしい、革新的な試みでした。

「おもしろビデオコーナー」が象徴する新しい視聴体験

もう一つ、加トちゃんケンちゃんを象徴するのが「おもしろビデオコーナー」です。視聴者から寄せられたホームビデオを紹介し、家族や友人との何気ない日常が笑いに変わる。このコーナーは、視聴者参加型のエンターテイメントの始まりとも言え、後の視聴者との双方向性を取り入れた番組の礎を築きました。

全員集合が「プロのお笑い芸人」によるショーであり、「視聴者はただ楽しむだけ」というスタンスだったのに対し、加トちゃんケンちゃんは視聴者自身が番組の一部となり、エンターテイメントを創り上げる側に立つという新しい時代の流れを感じさせました。

「笑いの多様化」とロスジェネ世代が感じた変化

『全員集合』の時代、笑いはシンプルでわかりやすいものでした。家族全員で大笑いできる普遍的なギャグや、誰もが理解できるストレートなコントが主流でした。しかし、『加トちゃんケンちゃん』や『ひょうきん族』のような番組が登場することで、笑いが多様化し始めます。風刺やブラックユーモア、視聴者とのインタラクティブな関係、映像技術を駆使した演出など、従来の「お笑い」の枠を超える新しいエンターテイメントが次々と生まれていったのです。

この変化は、私たちロスジェネ氷河期世代にとって、時代の移ろいを強く実感させるものでした。全員集合が終わることで、「昭和的な家族団欒の笑い」も終わりを告げたような感覚があり、私たちはその喪失感と共に成長していきました。昭和の「一億総中流」的な価値観が崩壊し、平成の多様化した価値観が浸透していく時代。『加トちゃんケンちゃん』は、そんな時代を象徴する存在だったのです。

結論 テレビが映し出した世代間の変化と新しい時代の到来

『8時だョ! 全員集合』から『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』への移行は、単なるテレビ番組の変遷を超えて、昭和から平成への大きな社会変動を映し出していました。ロスジェネ世代がこの時期に感じた「古いもの」と「新しいもの」のせめぎ合いは、今もなお、私たちの人生に影響を与え続けています。

全員集合派であった私が、その喪失感を抱えつつも、新しい時代の笑いに適応していく過程は、まさに氷河期を生き抜く我々の姿そのものでした。時代の流れに乗り遅れまいと必死に前を向きつつも、心の奥には「かつての温かい日々」への郷愁を抱えながら、私は今も新しい時代を模索しています。

全員集合の終わりは、笑いの終わりではなく、時代が変わり、価値観が変わっていく中で、我々自身が新しい「笑い」をどのように受け入れていくのかを考えるきっかけでもあったのです。

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