ウルトラマンロザリス第二話「不滅のファイヤーシンボル」

 今からちょうど一万年前、光の国から遠く離れた地球という星は、再び怪獣や侵略者の脅威に曝されていた。地球人の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く、光の国から『彼』はやって来た。『ウルトラマンメビウス』と呼ばれる、若く頼もしいルーキーが。そして今、そのメビウスは、一人の若き勇者を鍛えあげていた。その名は…。

「ウルトラマンロザリス」。


 ーー燃え盛る炎。町は燃え、建物は崩れる。それを遠くから見つめる、青き体の幼い子供。子供はその小さな手を精一杯伸ばし、何かを掴もうとする。だがその手は、炎によって阻まれる。子供は泣きながら、届かぬ声で名を叫び続けたーー

「………ー!」

 

「…ハッ!」

 ロザリスは目を覚ました。またいつもの夢か…。このところ、何かの主人公かと錯覚するほど同じ夢を繰り返し見ている。これが何なのか、ハッキリと思い出せない。確かなのは、あの青い体のあの子が自分だということだけ。でも、あんな思い出は無いはずだが…。

 不思議さを覚えたまま、ロザリスはいつもの授業に向かった。


「ヒカリ、今時間あるかな?」

 ラボに響き渡る、メビウスの声。メビウスは今、かつての盟友の力を借りようとしていた。

「あぁ、メビウスか。どうした?」

 ラボの奥から、白衣を着たウルトラマンヒカリが現れた。今や宇宙科学技術局の局長として、新たなウルトラ戦士の強化アイテムの開発に勤しんでいる。ちなみにロザリスの父の上司にもあたる人物ということにもなる。

「やあ、ヒカリ。最近どう?随分久しぶりな気がするけど。」

「あぁ…お陰様で忙しくさせてもらってるよ。一度は勝手に去った身だというのに、またここで働かせてもらって…本当に有難い限りだ。それより、今日はどうした?」

「うん、実は僕に弟子ができちゃって。」

「そうか、お前もついに師匠か!それはめでたい…赤飯…赤飯を炊かねば…。」

 驚いた顔のヒカリはそう言って、本当にラボのキッチンに向かおうとする。

「それは後でジードとやっといて…。それはそうと、君に頼みたい事があるんだ。たぶん、君にしかできない事。」

「俺にしかできない…?そんなに重要なことなのか?」

 メビウスの言葉に、ヒカリはまた違った驚き顔を見せる。

 長い時間の間で、ウルトラ戦士の強化アイテムは今や主流アイテムとなっていた。ニュージェネレーションヒーローズと呼ばれる戦士達の変身アイテムをはじめ、ウルトラ警備隊の中でも防衛・監視役に特化した戦士に送られる量産型ウルトラブレスレットや、遠征する戦士に送られる量産型ライザーなどが開発された。多くのアイテムが技術局の局員によって生産されるようになった今、ヒカリに直接頼みに来るなど、相当に稀有な出来事だった。

「実は、例の弟子…ロザリスが光線技を使った時、自力で制御できなかったんだ。僕が支えてようやく制御できたくらいに。」

「何…!? オーブのように後からウルトラマンの力を授かった者ならともかく、生粋のウルトラマンである彼が何故…普通なら、光線の威力はその人物の体にあった威力に抑えられるはずだが…。」

「そうなんだ。前にも授業で光線技の訓練をした時から思ってたんだけど、彼の光線はどうにも強すぎて…僕も、教官になってこんな例は初めてでどうすればいいかわからなくて、それ以降彼には光線は撃たせないように他の教官たちにも指示してしまって…。それで、君の技術を見込んで、彼の『鞘』を作ってほしいんだ。」

「鞘…だと?」

「そう。彼はまるで、刃が剥き出しの脆い剣のように思えるんだ。攻撃力の高さを制御できない、危険な刃。だから、そんな彼の鞘を作ってあげてほしい。彼っていう刃を守る為の鞘を。」

「そういうことか…。よし、少しだけ時間をくれれば出来るだろう。他でもない、お前の頼みだ。なるべく早く作ろう…。」

 そう言って、ヒカリは一瞬天を仰いだ。

「鞘…つまり鎧か…。それは俺も、色んな意味で世話になったな。」

 メビウスはそれを聞いて苦笑いをした。だが、憎しみを乗り越えて真の勇者となった彼だ。メビウスは一点の曇りも無い信頼を彼に向けていた。


 授業が終わったロザリスは、光の国から飛び立ち、M78星雲内の別の惑星に向かった。名前は、惑星クライン。メビウス兄さんが居住している小さな惑星だ。いわば師匠の庭をお借りするということになるわけだ。緑のクリスタルで出来た家を中心に、同じく緑色の人口芝で囲まれた綺麗な星だ。元は月のような無機質な星だったらしいが、今の姿からは想像できないほどに綺麗に整備されている。

「よっと…。ふう。メビウス兄さんまだ帰ってないし、先にランニングだけでもやっとくか!『一つ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!』ってね!」

 弟子入りしてから少々時間が経った。劣等感こそ完全に無くすことはできないが、それでも彼は前向きに生きていた。少なくとも、自分を認めてくれた人がいる。それも、憧れてた人。それだけで彼は前を向けた。

「ロザリス…成長が早くて驚いたよ。あんなにやさぐれてたのに…安心した。…もうちょっと見てようっと。」

 遠くから、メビウスが見ている。こうも早く彼の純粋さを取り戻すことができたなんて。あの日の投げやりさはどこへ行ったのだろうか、と思うほどに彼は立ち直れていた。ウルトラコロセウムでも、以前より生き生きとしている気がする。

(彼がああなってしまったのは、最初に彼の願いを聞かなかったせいでもある…だから、責任を持って彼を育てないと。それに、彼があそこまで力に拘った理由も聞いておかないと…。もし、『アレ』に関係があったら…それも僕のせいだ。)

 メビウスは心の中で呟いた。


 地球時間に換算すると小一時間ほど経った頃か。頃合いを見てメビウスはロザリスの元へ降り立った。ウルトラの父から与えられたブラザーズマントを翻しながら。逆光に照らされたその姿はもう神である。あぁもう想像するだけで尊い…。

「あ、メビウス兄さん、お疲れ様です!」

 尊敬する師匠であり頼れる兄であり推しが降ってきた。最初に話した時は委縮してうまく話せなかったが、今では『メビウス兄さん』の呼び方のとおり、本当の兄弟に近い距離感で話せるほどになっていた。恐ろしく早い慣れ方だが、慣れさえすれば誰とでも気軽に話せるタイプのようだ。(相手にもよるが…)

「ああ、今日もよくやってるね。関心だ。」

「はい!せっかく来たのに、何もしないで待ってるのは勿体ないですから!」

 満面の笑みで彼は答えた。いつも授業で会っているとはいえ、推しとの会話は本当に嬉しいものだ。

「よし、今日は座学にしようか。まずは、君も知ってると思うけど『ウルトラ五つの誓い』についてからだ。とりあえず中入ろうか。」

「はい!」

 メビウスに連れられ、ロザリスはメビウスの家にあがった。彼らしい、几帳面に整理された家だ。下手に散らかせないと思い、ロザリスも毎回少しドキドキしながらここで過ごしている。

 広いリビングの大きめのソファに腰かけ、二人きりの授業が始まった。

「まず、ウルトラ五つの誓いはそもそも、ジャック兄さんが地球を去る時に地球人の少年に伝えたのが始まりだ。内容はそれぞれ、

一つ、腹ペコのまま学校へ行かぬこと!

一つ、天気のいい日には布団を干すこと!

一つ、道を歩くときは車に気を付けること!

一つ、他人の力を頼りにしないこと!

一つ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!

の五つだ。以前授業でも少し話したっけ。」

「はい。少し時代を感じるはずなのに、何故か心に残るんですよね。不思議な言葉だ…。」

「そう。これって、単なる子供との約束事にとどまらない大切な意味があるんだ。僕の大切な人…リュウさんっていうんだけど、その人もこの言葉を大切にしてたんだ。そして、そのリュウさんの大切な人も。」

「もしかしてリュウさんって人、CREW GUYSの?」

「そう。地球で出会った大切な仲間たちの一人。その中でも、特にお世話になった人なんだ。…あっ!そうだこれ見て!」

 そう言ってメビウスは、嬉しそうに神棚から何かを取り出した。カプセルか…?随分と小さそうなそれの中身を、メビウスは嬉しそうに眺める。

「これはメモリーディスプレイ。僕がGUYSにいた時に使ってた、小型モバイルパッドなんだ。でもこれ、単なるデバイスじゃないんだ。ここ見て!」

 そう言って、メビウス兄さんは嬉しそうにカプセルの画面を操作し、拡大したメモリーディスプレイの裏側を見せた。あれ、これって…。

「そう!これはファイヤーシンボル。僕達の絆の象徴だ。僕が一度地球を去らないといけなくなった時に皆にお守りを渡したんだけど、その時に僕もリュウさんからこれを貰ったんだ。しかもこれ、リュウさんのとお揃いなんだ!あの時は本当に嬉しかったなぁ…!」

 メビウス兄さんは本当に嬉しそうに話す。いつも授業で見せるような威厳のある顔のイメージが強いが、今のメビウス兄さんはまるで、同年代の若者のようにはしゃいでいる。本当に地球人を心の底から愛していたんだな…。ロザリスはそう思った。

「このファイヤーシンボル…色んな所で見たことがあります。メビウス兄さんのトレードマークみたいな印象があるくらい。あ…もしかして『あの噂』も、もしかして?」

 ロザリスは問いかけた。『あの噂』…というのは、訓練生を始めとした多くの人々の間で語られる、メビウス兄さんの噂だ。「彼が本気を出すと、翼を広げ炎を纏う」。伝説として聞いたことはあるが、実際に見たことはない。本当に本気で戦う時だけの姿なのだろう…。

「あぁ、バーニングブレイブの事だね!あの時に体に描く炎もファイヤーシンボルがモチーフなんだ!あれに最初になった時は、一人じゃ勝てなかったなぁ…仲間の声が聞こえたから立ち上がれたんだ。仲間との約束を守る為に。だから、あの姿は本当に大切なものなんだ。今の僕があるのは、彼らのおかげだからね。生きてるって意味でも、強くなれたって意味でも…。」

 メビウス兄さんは遠い目をして思い出している。ロザリスもまた、それを見て微笑んだ。

「まさに、『俺達の翼』…ってやつですね。」

 そのロザリスの何気ない一言を聞き、メビウスは驚いた顔を見せた。何でだろう…?

「ロザリス、どうしてその名を…?」

「え…?なんか僕、まずいこと言っちゃいました…?」

 ロザリスは恐る恐る聞き返す。

「いや、僕らCREW GUYSの戦闘機にもファイヤーシンボルを描いて飛ばしていて…その時の機体の呼び名こそが『俺達の翼』だったんだ。それを君の口から聞けるだなんて…。」

 そうだったのか…。GUYSという防衛チームの話は何度か聞いたけど、この話は知らなかった。言い当てたロザリス自身も驚いてしまった。


<ドォォンッッ!!>

 突然、近くの星から大きな衝撃音が聞こえた。何の音だ…?

「ロザリス、続きは後だ!行こう!」

「はい!」

 二人は音のした惑星へ向かった。

 音がした場所の正体はM78星雲の中の小惑星。そこに何かが墜落しているのが見えた。パット見では円盤のように見えるが、何故そんなものがここに…?

「こいつ…まさか!」

 メビウス兄さんが何かを察したように声を上げた。そしてそれと同時に円盤が再度浮き上がり、ヒト型に変形した。まさか…円盤生物だったのか…!

「メビウス兄さん!」

「あぁ、わかってる!行こう!」

 メビウスがマントを脱ぎ捨てるのを合図に、二人は円盤生物・ロベルガーの元へ走り出した。

「シレイ、ヒカリノクニ、カイメツ。」

 ロベルガーもそう呟き、二人に攻撃を仕掛ける。

 メビウスとロザリスは息を合わせ同時に殴り掛かるが、ロベルガーの太くなった両腕に容易に阻まれる。さらに二人の腕を弾き、顔から青い光線を放ち二人を吹っ飛ばす。

「メビウス兄さん…こいつもしかして…?」

「あぁ、以前僕が戦った個体と比べてパワーが上がってる…差し詰めロベルガー三世といったところだ…!」

 二人は適正に距離を取りつつ、ロベルガーに睨みを利かせる。それに構わず、ロベルガーは掌から光弾を連射し、二人を蹴散らす。そしてそのまま、光の国へ飛ぼうと体を浮かせた。

「まずい…逃げられる!」

「大丈夫、僕が止める!」

 焦るロザリスだったが、メビウスは落ち着きを崩さずディフェンスサークルで光弾を防ぎつつ距離を縮め、左腕のメビウスブレスからメビュームブレードを出現させて斬りかかる。ロベルガーの腹に切り込みつつ、片腕を掴み地上へ引きずり降ろした。

「ハァァッ…セヤッ!」

 メビウスは歴戦を経た戦士らしい勇ましい掛け声と共に、メビュームブレードを消失させたメビウスブレスをスパークし直し、ライトニングカウンター・ゼロを腹にぶち込んだ。エネルギーを纏った高威力のそのパンチは、重量のあるロベルガーの体を初めて後方へ吹っ飛ばした。吹っ飛ばされたロベルガーは、そのまま動きを止めてしまった。

「すげぇ…これが伝説のウルトラマン…メビウスの戦いなのか…!」

 初めてメビウス兄さんの本気の実戦を目にしたロザリスは、関心と驚きで硬直気味になってしまった。教壇に立つメビウス教官の姿ばかりを見てきたロザリスには、想像以上に勇ましく今の姿が映っていた。

「大丈夫?ロザリス!」

「は…はい!メビウス兄さんの戦いを初めて生で見たので、ちょっと驚いてしまって…。」

 心配して駆け寄ったメビウス兄さんが差し伸べた手を掴みながら、ロザリスは答えた。

「しかし、強化されたロベルガーでさえも一発で倒してしまうなんて…。さっすがメビウス兄さんですね…。」

「そんなこと…。僕だって、最初は一人じゃ倒せなかったよ。最初の一体はGUYSのマケット怪獣の力を借りて、二回目は80兄さんと二人で倒した。今日だって、君が一緒だっただろう?」

「でも、僕は見てるだけで何もできなかったですし…。」

 ロザリスは俯く。メビウス兄さんが凄いのは知っていた反面、自分の何もできなかった無力感を悔やんでいた。

「そんなことない。だって、僕が言う前に君が先に動き出そうとしただろ?最初はあんなに怯えていた君が先に戦おうとした。大きな成長だよ。始めは誰もヒーローじゃない。少しずつ強くなっていけばいいんだよ。」

 メビウスは、嘆く弟を優しく励ました。そしてそれを聞いたロザリスは顔を上げ、少し落ち着きを取り戻した。


「甘いなぁ、貴方は…。そんなんだから、光の国のセキュリティはいつまで経っても甘いんじゃないか?」

 突然、何者かの声がこだました。そして空間が歪み、闇の異空間ホールからその声の主が現れた。銀色を基調にマゼンタと黒色の体をしたそいつは、ゆっくりとこちらへ降りてくる。

「やれやれ…。確かに強化改造を施したとはいえ、この程度の相手を殺した程度でいい気になるなんてなぁ…。伝説のウルトラマンメビウス様が聞いて呆れる。」

 地上に降り立ったそいつは、メビウス兄さんを必要以上に煽る。

「貴様…メビウス兄さんになんて事を!うおぉぉ!」

 ロザリスは怒りを露にし、謎の巨人に掴みかかろうとする。

「フッ…青いなぁ、君は。ハァッ!」

 巨人は向かってきたロザリスに掌を向け、衝撃波を放つ。その闇の波動に、ロザリスはいとも簡単に弾き飛ばされてしまった。

「グハッ!?」

「ロザリス!…お前はいったい何者だ!何が狙いだ!?」

 メビウスが巨人に問いかける。

「私の名はガリバー。今日はあくまでも挨拶に来ただけだ。いずれ本腰を入れて光の国を制圧させていただくのが私の狙いだ。以後、お見知りおきを。」

「ガリバーだって…?まさか君は?!」

 メビウスが何かに気づいたように問いかけようとするが、ガリバーは後方のロベルガーの元へ飛んだ。

「やれやれ可哀想に…ただやって来ただけで殺されるなんてねぇ…まったくウルトラマンってやつは、自分の正義を押し通すためなら無害な生き物さえも殺すんだ…野蛮人の集まりじゃないか。」

 そう言ってガリバーは、ロベルガーの死骸を気持ち悪い程滑らかな手つきで撫でる。

「何言ってやがる…こいつを差し向けたのはお前だろう?!何おかしな事を言ってるんだ!」

 ロザリスは吠える。こいつは矛盾に満ちたことを言っている…。言ってる事とやってる事のアンバランスさがロザリスには気持ちが悪すぎた。

「私は嘘は言っていない。私は『挨拶に来た』と言っただけで、何も襲う意思なんて無かったのだよ?それを勘違いして殺したのは君達の方じゃないか。私のせいにされるなんて心外だなぁ…。」

 ガリバーは落ち着き払い、それどころか余裕すらも感じられる態度で話し続ける。何故こうも正当化できるのか…。不思議でならない。

「君の言っている事は間違ってる!本当は光の国を襲撃させる為に送り込んだんだろ?そんな都合のいい話を信用できるか!」

 さすがのメビウスもこれには怒りを剥き出しにし、メビュームブレードで斬りかかろうとする。だが…

「ロベルガー…。君にもう一度生きるチャンスをあげよう。さあ…甦れロベルガー!ダークネス…ライフ・コンヴァージョン!」

 ガリバーはそう叫び、闇の波動をロベルガーに打ち込む。すると、先程まで動かなくなっていたロベルガーの体が一人でに動き出した。まるで、息を吹き返したかのように…。

「そんなバカな…。さっき確かに倒したはず!」

 メビウスも驚き、動きが止まる。

「フフフ…。それじゃあ私はここで失礼するよ。また会おうウルトラマンメビウス…。そして…ウルトラマンロザリス。」

「待て!待つんだガリバー!」

 メビウスが追おうとするも、ガリバーはそれよりも早く異空間のワームホールに逃げ込んでしまった。


「あいつ…ふざけやがって…!」

「怒るのは後だ!今はロベルガーを!」

 怒るロザリスをメビウスが諫めた。だが、内心ではメビウス自身も怒りを抑えられなかった。何故だ…何故彼は『こうなってしまった』のか…。

「クッソ…こうなりゃロザリウム光線で一気に!」

「待て…たぶん今のロベルガーは一撃じゃ倒せない…!ここは僕が!」

 そう言ってメビウスは、左手をみぞおちの前で構える。メビウスブレスから炎が流れ出し、メビウスの背中で∞字に回転する。

「ハァァッ…!ハッ!」

 メビウスは体を宙へ浮かせ、両腕をクロスし力を籠め、そして掛け声と共にエネルギーを開放するようにその両腕を開く。背中の∞字の炎は大きな翼へと姿を変え、マントのように展開する。そして再び腕を閉じると翼はそれに倣うように閉じ、メビウスの体を包みこむ。

「ハァァッ!セヤァァッ!!」

 掛け声と共に翼が開かれると、メビウスの胸には炎の刻印…ファイヤーシンボルが刻まれていた。メビウスはゆっくりと地上へ降り、地へ足を付ける共に背中の炎は消失した。

「これが…!本物のメビウスバーニングブレイブ!うっわすげぇ…やべぇかっけぇ…。」

 ロザリスは初めてその目で見る本物の『燃える勇者』に興奮を隠せない。一万年という悠久の時を経てもなお、メビウスの中ではあの頃の炎が生き続けていた。共に過ごした僅かな時間しか知らないはずなのに、ロザリスはその歴史の重みの一端を彼の背中から感じていた。

「一撃で終わらせる。」

 メビウスはそう呟き、胸の前で左腕のメビウスブレスに右手をかざし、スパークさせる。エネルギーを溜めた両腕を開いて天にかざし、溜めたエネルギーを開放する。そして開放したエネルギーを再び胸の前で集約させる。

「シレイ、ウルトラマン、マッサツ。」

 ロベルガーもこれを黙って見過ごすことなく、攻撃を仕掛けようとする。両掌に光弾を発生させ、それを合わせ大きな高エネルギー光弾を精製している。

「メビウス兄さん、危ない!」

 メビウス兄さんの危機を察知し、ロザリスも両手を交差させる。交差した両手首を中心にエネルギーが充填されていく。

「ロザリウムクロス!」

 ロザリスは両手に集中させた十字型のエネルギーを撃ち出した。

「必殺技としてフルパワーで撃ち出すにはまだ制御しきれない程に強すぎる…けど、牽制するためならの技なら何とか…!」

 ロザリスが撃ち出したロザリウムクロスは、ロベルガーの高エネルギー光弾にヒットし、爆発を起こす。至近距離での爆発にロベルガーはダメージを受ける事はなかったが、体勢を崩しよろけた。

「ハァァッ!ハッ!」

 メビウスはファイヤーシンボルに集めた炎のエネルギーをロベルガーに撃ち込んだ。メビュームバーストを食らったロベルガーは、耐久する間も無く、一片の肉片も残す事無く爆発四散した。



 戦いを終えたメビウス兄さんとロザリスは、再び惑星クラインのメビウス邸にいた。

「本物のバーニングブレイブ…噂以上に兄さんの強さが伝わってきて感動しました…。」

「ありがとう。でも、さっき話した通り僕一人じゃあ辿り着けなかった力だ。GUYSのみんなが居たから手に入れられた力なんだ。」

「えぇ…実際に見て分かりました。何故あなたが伝説とまで言われたのか。ウルトラマンという存在だけじゃ辿り着けなかった力なのが、肌から感じる熱を通して伝わってきました。かのエンペラ星人さえも倒したっていうのも納得です。」

「そう…。あの時、大切な仲間と紡いだものが、今でも『これ』が繋いでくれてるんだ。」

 メビウス兄さんは、そう言って再びメモリーディスプレイを取り出す。

「これ、実は一度サコミズ隊長に…GUYSの隊長に返したんだ。エンペラ星人を倒した後、地球を去るときにね。でも、その後再び地球を訪れた時にリュウさんが持たせてくれたんだ。『いずれ俺達も自分たちの力で光の国へ贈り物を届ける。それまで、これをお前のお守りとして持っててほしい』って。それ以来、凹んだ時期もありはしたけど、絆の象徴である胸のファイヤーシンボルが絶対に消えることはなかったんだ。」

 メビウス兄さんは、メモリーディスプレイを見つめながら語った。優しい横顔が、彼の過去を物語っていた。



 ロザリスの前で見せたバーニングブレイブ。だがその感動を他所に、新たなる陰謀は動き出していた。謎の巨人・ガリバー。光の国を滅ぼそうと目論む彼はいったい何者なのか…。それが明かされるのは、またここからは少しミライのお話。




おまけ・ロザリスナビゲーション「ロザナビ」

・ウルトラマンメビウス…地球での数々の死闘を通して、地球人との絆を深めたウルトラマンだ!1万年も経った今でも、彼の中にはその時の絆の力が眠っていて、その時の放つ炎はどんな暗闇も明るく照らし出すぞ!

*年齢…約1万7千歳

*身長49メートル、体重35000トン

*飛行速度マッハ10

*好きな食べ物…地球のカレーライス
















 

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