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【5〜6人声劇】亜人で偉人伝

■タイトル:亜人で偉人伝


■キャラ

アーレ・ボルタ―ス:性別自由

冒険と財宝が大好きな若者

頭がキレるが、いつもトラブルを持ち込んでくる


シイラ・ベーベル:性別自由

狐耳の獣人でいつもアーレに振り回されている

耳と鼻がよく周囲の生き物や罠を見抜く能力がある

ビビり


クイリ・ツィツェーリア:性別自由

ハーフアンデッド

命を落としたのち、怪しげな儀式によって蘇った

体がバラバラになっても復活する治癒力を持つが不死身ではない

アーレに拾われて一緒に冒険をしている


キルケ・ザスキア:性別自由

鬼人の若者

卓越した剣技の持ち主だが、剣戟以外のやる気は全くない

アーレにそそのかされて一緒に旅をしている


ヒルダー・アイデンベルグ:性別自由

アローナス帝国軍の上官

ほとんど出演場面が無いため、誰かの兼ね役を推奨

(クイリがセリフ量少ないためおすすめ)


フーベルト・ファーベルク:性別自由

アローナス帝国軍の将

国に忠誠を誓っており、その剣の腕は国内最強と呼び声高い


――――――――――――――――――――――――


アーレ:いい風!いい波!絶好の船旅日和ですね!


シイラ:どこがだよ!後ろ見なって!?

海の魔物に追われてるんだが!?


アーレ:そこ!獣人のくせにうろたえない!

魔物の動きを感知して、クイリに指示出してください!


クイリ:アーレ!波が凄すぎて舵がきかないよ~

このままじゃ死んじゃう~


アーレ:クイリはアンデッドなんだからもう死んでるでしょ!気合で舵(かじ)を回しなさいな!

キルケ!出番ですよ!


キルケ:…お?出番か?

…んじゃあ…スパッと行こうか

…あれ?我の刀どこ行った?


シイラ:キルケぇ!!早くしてぇ!!

マジで死ぬぅ!


アーレ:はははは!冒険ってのはこうでなくっちゃ!!


―――――――――――――――――――――――――――――――


シイラ:(NA)

なんでこんなことになってしまったのか…シイラはこんな旅についてきたことを本当に後悔している

この地獄の始まりはアーレが持ってきた1枚の地図だった


―――――――――――――――――――――――――――――――


クイリ:デンベル・バストリアの財宝?

久々に全員集合させたと思ったら、また突拍子もないこと言い出すなぁ…

シイラ、そこのお肉とって


シイラ:自分で取ってよそれくらい

デンベルって…300年くらい前の大海賊じゃなかったっけ?

略奪の限りを尽くしたのに、まだ宝は一つも見つかってないっていう


アーレ:その通り、前回シイラと仕事をしたときに手に入れたこの謎の紙切れの束

正しくつなぎ合わせた結果、デンベル・バストリアに関する何かへと導く地図になりました

見てください、この本物っぽさ!キルケも興味あるでしょう?


キルケ:我は斬れればいい…こう、斬りごたえのあるものをスパッとな


アーレ:それはもう、間違いなく斬れますね


キルケ:じゃあ行く


シイラ:いやいや!アーレの言うことを信じられる要素がどこにもないんだが!?


クイリ:アーレがこんな感じなのは今に始まったことじゃないよ

前もひどかったじゃない…人魚の鱗を探すって言い出した時も、セイレーンに襲われて3回くらい死んだよ?

あれ?この地図が示す海域って…アローナス帝国の領海内だね、ん~…大丈夫なの?


キルケ:アローナスと言えば…軍事国家だ

国の上層が都合よく解釈したアルバドラド教の教えに従って武力をちらつかせていると聞く

勝手に侵入したのがバレれば…飛ぶな、首が


アーレ:それはどうでしょうか?

ほら、これを見て下さい


キルケ:…海洋生態調査許可証(かいようせいたいちょうさきょかしょう)?

なんだこれは?


アーレ:これは調査の為であれば、他国領海内(たこくりょうかいない)の航海を許しますよ~というお国からの許可証です


シイラ:こんなものどうやって手に入れたの?

かなり難しい試験に合格しないと発行されないのに…


アーレ:試験官を買収して手に入れました

発行元は正式ですよ?


シイラ:発行過程が全然正式じゃない!


アーレ:まあまあ、細かいことはいいですから

クイリ、頼んでたもの持ってきてくれましたか?


クイリ:あぁ…うん

はい、最新の世界地図だよ

でも、これがなんなのさ?


アーレ:古い地図にこの最新の地図を重ねると…ほら、古い地図に載っているこのマーキングされた島が描かれてないんです

ここに何かを隠したんですよ


キルケ:沈んだのではないのか?

我の地元の周りの島なんて昔からよく沈んでるぞ?


アーレ:それは、あなた方鬼人(きじん)が島を破壊して沈めてるんでしょうが


クイリ:こないだも鬼人族の集落同士のもめごとに使われた島の地形が変わったって聞いたよ

鬼人のパワーに耐えられなかったらしい


キルケ:そうなのか?物騒だな


シイラ:あんたらの一族の話なんだが…


アーレ:ほらほら、話がずれてます

この規模の島が沈むとは考えにくい…まだ世間的には未発見と言うことになっている島がここにはあるんですよ

ここが帝国領だと証明する法的事実は何もない…領海内の航海も公式に認められた…!

これは行くっきゃないでしょ!ね!ね!?


―――――――――――――――――――――――――――――――


フーベルト:失礼します

フーベルト・ファーベルク中佐であります


ヒルダー:来たな…待っていたぞ、フーベルト


フーベルト:上官をお待たせしてしまい大変申し訳ございません

して…本日はいかような案件で私をお呼びになられたのでしょうか?


ヒルダー:アローナス帝国領海内で一隻(いっせき)の船が確認された

隣国の海洋生態調査船だそうだ…


フーベルト:それに…何か問題が?

私も調査船が来ることは聞いております


ヒルダー:乗っている者達が問題だ

偵察隊(ていさつたい)からの情報からして乗っている者の一人はシイラ・ベーベル

国の重要人物リストに載る白狐(びゃっこ)の獣人だ


フーベルト:びゃっこ…虎ですか?


ヒルダー:いいや、キツネだ


フーベルト:キツネ…ということはもしや予知に近い危機察知能力を持つというあの獣人ですか…?


ヒルダー:そうだ

それに他に確認できた乗組員たちも無視できない…半不死のクレイジーアンデッド…クイリ・ツィツェーリア

炎角刀(えんかくとう)の適合者…剣鬼(けんき)、キルケ・ザスキア


フーベルト:ビッグネームばかりですね…


ヒルダー:あぁ…国の政(まつりごと)に関わるものであれば知らぬものはいない凄腕のトレジャーハンターたちだよ…

だが、ある意味で最も危険視しているのがこいつだ


フーベルト:…人間?

他のデミヒューマンの方が危険に見えますが


ヒルダー:アーレ・ボルタ―ス…

先(さき)の者達が表舞台に姿を現す時、必ず裏にはこいつの姿がある

だというのに…こいつに関する情報はまるでない

わかっているのは顔と名前だけだ

軍はこいつがデミヒューマン達を先導し、パーティーを組んでいるのではないかと危惧している…


フーベルト:ただの人間が…?

して、こいつらが我が領海内で何かしでかしたのですか?


ヒルダー:…いいや、これからしでかすかもしれん

こいつらは現在“例の島”に向けて真っ直ぐ進んでいる


フーベルト:何ですと…!?

しかしあの海域では何隻も船が沈んでいます

厳しい海流に帝国が放った強力な魔物たち…大した情報を持たない他国の船が真っ直ぐ突っ切れるような場所では…


ヒルダー:だが、実際に偵察隊からは一定方向に直進し続けていたと報告を受けている

…剣鬼に白狐がついているんだ…魔物も海流も乗り越えられる可能性が高い

この島の存在は君を含め一部の人間しか知らない…私は君がこの任務に適役だと思うんだよ


フーベルト:…では、私の任務は


ヒルダー:うむ、帝国にはデンベルの残した航海日誌がある…邪魔者たちより先にデンベル・バストリアの秘密を暴け…

あの島の存在は何人(なんぴと)であろうとも知られてはならない


フーベルト:邪魔者の処理は…


ヒルダー:面倒ごとは内々で済ませるに限る…殺せ

そしてもう一つ…こちらの任務の方がある意味重要性は高いのだが…


―――――――――――――――――――――――――――――――


フーベルト:(NA)

デンベル・バストリア…アローナス帝国近海で暴れまわり、当時の皇帝の頭を悩ませながらもついぞ帝国軍の追跡から逃げ切った大海賊

アローナス帝国や近隣諸国の国財となるはずだった数多くの財宝を奪い…そして隠した


その隠し場所として選ばれたのは、容易に近づくことはできない危険海域に浮かぶ島…

帝国が血眼になって見つけた航海日誌によってその島が発見されてから、帝国はその存在を隠し続けてきた

島はあっても財宝が見つからなかったからである

しかし…一部の上層部のみがまことしやかに語る噂がある

その島に眠る秘密は…財宝だけではない…


フーベルト:離せ!!この…!私を誰だと思っている!


クイリ:あだだだ…ちょっと動かないで貰っていい?

大腸まで引っ張られるから…


シイラ:ごめんなさい…こんなことして…


フーベルト:(NA)

島への上陸と同時に不意に襲われた私は、クイリ・ツィツェーリアが腹から引きずり出した小腸で体を縛られていた…すごくキモイ


アーレ:…帝国のフーベルト・ファーベルク中佐でしょ?知ってますよ

…んで?何の用ですか?


フーベルト:何の用だと…?

ここがどこだかわかっているのか…!?


アーレ:ここは地図にも載っていない未知の島です

なのでどこなのかは知りません


フーベルト:ここは完全に帝国領海内だ…!我が国の島となるのは当然だろう…!


アーレ:それを決めるのは各国の司法機関でしょう?

手続きされればそりゃあ帝国領になるんでしょうが…されていない今、ここはまだ誰のものでもありません


フーベルト:こいつ…いけしゃあしゃあと…!


シイラ:て、帝国の人がこんな場所までたった一人で来る理由っていったい何なのかな…?


キルケ:決まっている…秘密の任務の遂行(すいこう)だ


クイリ:そうなの?


フーベルト:そ、それは…


アーレ:十中八九そうでしょう

バカンスするにしてはこの辺りの海域は危険すぎます


クイリ:たしかにそうかも…それでこの人どうするの?


アーレ:う~ん…帝国軍と関わってもいいこと無いですから

木にでも縛っておきましょうか

クイリ、小腸切ってもらえます?


クイリ:嫌だよ、痛いでしょ


アーレ:どうせ治るじゃないですか


キルケ:こんな奴斬ってしまえばいいだろう

どのみち闇に葬(ほうむ)るのが一番だ

おい剣士、我と立ち会え


シイラ:なんで普通に戦おうとしてるのさ…!


フーベルト:おい!いつまで茶番に付き合わせるつもりだ!!


シイラ:うぇ…ごめんなさい


フーベルト: はぁ…確かに私は帝国軍フーベルト・ファーベルク中佐だ!

いいかアホども!この島の全容は我々も解明できておらず、国家間の平和的観点から見ても慎重に扱うべき案件なんだ…私がここにいる理由が秘密裏な調査であることも認める!

だから…交渉してくれないか!


クイリ:帝国軍の偉い人なのに、この島に何があるか知らないの?


フーベルト:その通りだ…デンベル・バストリアに関わる何かがあることくらいしか私は知らない
帝国とてそうだ…!

だが、お前たちのことは知っているぞ

どこの国にも所属しないトレジャーハンターたちだろう

お前たちと共にこの島の秘密を暴き、得られる利益の一部を渡すかわりにこの島の秘密を守ってもらいたい…それでどうだ


アーレ:ほう…なるほど…作戦タ~イム!!


フーベルト:さ、作戦…タイム…?


キルケ:お前、そこで少し待て


(4人はフーベルトに聞こえないようにひそひそ話を始める)


シイラ:…整理すると…帝国は島の存在は知っていたものの、何が隠されているかは知らない…ってこと?


アーレ:いいえ、絶対知ってます

言いたくないだけですよ

言いぶりからしてやっぱり財宝がありそうですしね…


クイリ:じゃあ、帝国の人たちは宝はまだ見つけられてない…ってことでいいんだよね?


アーレ:えぇ、他の国にこの島の存在を秘匿(ひとく)しているのがいい証拠です

デンベル・バストリアが奪った財宝にはアローナス帝国以外のものも多分(たぶん)に含まれているでしょうから


クイリ:なるほど!…つまり…どういうこと?


シイラ:帝国も含めた様々な地域で略奪を繰り返したってデンベル・バストリアの資料には記されているんだ

各国の財宝がこの島に集められているとして…その事実が世に出たとき、他の国はどう思う?


クイリ:…自分の国の物は返してほしい…かな


アーレ:至極(しごく)当然の流れです


キルケ:財宝なのだから、ただの金塊とか宝石とかもあろう?

300年前の略奪品が自国のものだとどうやって証明する?


アーレ:無理じゃないですか?


シイラ:名前書いてるわけでもないしね


キルケ:この島の存在が明るみになることは、すなわち国家間の政治的ないさかいに発展するということ

だから帝国は秘密裏に宝を見つけるしかない…だからこうして小規模な調査員を派遣しているのだが見つけられないからこの島を隠し続けている…ということか


アーレ:そして今あの中佐は我々が知りえない宝につながるヒントを持っている可能性がある…


フーベルト:話は決まったか?


アーレ:急かさないで貰えます?

頭使ってるので


フーベルト: いつまでも小腸で縛られている身にもなってくれ

おそらくだが…帝国上層部はお前たちがこの島に近づいたことを掴んでいるだろう…お前たちとて、死ぬまで帝国軍に狙われ続けるのは嫌じゃないか?

だが条件を飲むならば、財宝を渡して、私はお前たちのことを黙っている…どうだ?


フーベルト:(NA)

こいつらを殺すことが任務に含まれていることは隠すべきだろう

さぁ…どう出る


シイラ:ずっと危ない感じはピリピリしてるけど…どうしよっか?


キルケ:受けてもいいんじゃないか?

何かがあれば斬ればいい


クイリ:そういう問題なのかな?


アーレ:ふふ、どういう問題でもいいです

その交渉乗ってあげますよ…こっちの存在がもうバレてるなら、あなたとかち合うことも予想がつくでしょう
帝国軍中佐に何かあったとなれば…我々だって何をされるか分かったもんじゃないですし…

そっちの方が都合がよさそうです


フーベルト:それはよかった…じゃあ、手始めに…この気持ち悪い縄をほどいてくれるか?


―――――――――――――――――――――――――――――――


キルケ:変な動きをすれば斬る

だが、変な動きがしたくなったら言ってくれ

正々堂々剣をまじえよう


クイリ:そんなんで言うこと聞く人いないって

うちのキルケがごめんなさい


フーベルト:いや…構わないが…


シイラ:まあ、お互いに一時休戦ってことで…アーレ、シイラたちはどこに向かってるの?


アーレ:この島の裏側です

海流の影響で、島の裏に船をつけることはできません

宝の隠し場所への入り口を作るのならばそちらへ行くのが妥当です


フーベルト:私も同意見だ

我が国が所持するデンベルの手記にも島の裏に何かを隠したことが示されていると聞いている


クイリ:何が隠されているのかは書いてないの?

フーベルト:それがわかるなら我々も苦労はない

実際のところ、お前たちが探す財宝というのが隠されているのかすらわからないのが事実だ


クイリ:それもそっか


シイラ:っていうか…どんどんうっそうとしていくんだけど…うわっ、虫だ!?

うへぇ…やばい魔物とか出てこないよね…?


キルケ:出たら斬るまでだ


クイリ:シイラがいれば、危なくなる前にわかるしね


シイラ:危機察知だって万能じゃないんだよ、鼻とか耳とか体毛とか使えるものフルに使って、勘に近い感覚的な要素も全て含めて判断するんだから…いつでも100%大丈夫なんてことはないって…


アーレ:我々が頼るには十分ですけどね

さて、みなさんだいぶ歩いたし夜も更けましたから…今日はここでキャンプにしましょうか


キルケ:なら我は食うものを探してくる

今ある食料だけで足りるかわからんしな


シイラ:あ、そっちの方には食べると危ない物がありそうだから、あっちに進んでね

変なにおいがする


キルケ:わかった


フーベルト:…ふむ


フーベルト(NA)

まだ精度がわからないが…仲間の反応を見るに、かなり信頼がおける危機察知であることは間違いない…

この時点で危険な食べものなんかがわかるのならば、たしかに十分すぎる力だ…

できれば他の者達の能力も知っておきたいが…


キルケ:何をぼーっとしてるんだ帝国の剣士

お前も来たいのか?


フーベルト:私は…いや、行こう

口に入れる物だ…自分の分は自分で確保する


(二人は森の奥に歩を進めていく)


アーレ:…さて、行きましたかね

シイラ、どんな感じです?


シイラ:かなりピリピリしてきてる

危険に近づいてるはずだよ

帝国の人がいるせいかなって思ったけどそうでもなかった

今のところはほんとに協力するつもりみたい

ピリピリの感じからして…たぶん目的地には近づけてると思う


クイリ:なんで危険だと近づけてるの?


アーレ:宝探しの定石(じょうせき)でしょ?


クイリ:なるほど

そのふわふわした情報を信じなきゃいけないってことね


シイラ:帝国の人がシイラたちに知ってる情報を全部伝えてるわけないだろうし…

場当たりすぎるかもだけど、現状はシイラを信じて進んでもらうしかないかな…


クイリ:…まあ、今シイラのピリピリより信頼できる情報もないか

ところであの帝国の人は結局どうするの?

帝国に帰したときに僕たちのこと黙っててくれる保証はないでしょ?


シイラ:何か帝国側が不利になる情報を見つけたとて…帝国政府とどこの誰とも知らないシイラたち

世間がどっちを信用するのかは考えるまでもないのであった…か

向こうはシイラたちのこと知ってたわけだし…何かしらの対策練ってるんだろうなぁ


アーレ: めんどくさいですよねぇ…まぁでも、悪いことにはならないですよ


―――――――――――――――――――――――――――――――


キルケ:帝国の剣士…そこの木の実は食えるやつだ

取っておいてくれ


(フーベルトは小声でつぶやく)

フーベルト:……一つ仕掛けてみるとするか


キルケ:おい、どうした剣士


フーベルト:おい、キルケ・ザスキア

私の名はフーベルト・ファーベルク

誇り高く、由緒正しきファーベルク家の人間だぞ

ぞんざいに呼びつけるのはやめてもらおう


キルケ:我は認めた者しか名で呼ばない

お前はまだ名を呼ぶに値しない

どう呼ぶのか決めるのは我だ


フーベルト:いま…認めさせてもいいんだぞ?

私と剣をまじえたがっていただろう…?


キルケ:ほう…願ってもない

その気概(きがい)も好感が持てるぞ

では望みどおり…我が刀に焼き切られろ


(キルケが剣を抜く)


フーベルト:それが鋼(はがね)に勝(まさ)る頑強(がんきょう)さを持つと言われる鬼人の角を、魔力を含んだマグマで錬成(れんせい)して作られるという炎角刀か…


キルケ:この刀を知っているか

ならばその恐ろしさも知っているだろう


フーベルト:幾人もの鬼人の思念が燃え盛る地獄の炎を呼び寄せる…

選ばれた者でなければ握った瞬間灰となる妖刀…か

面白い、行くぞ…キルケ・ザスキア!


キルケ:来い…ふん!!


フーベルト:どりゃああ!


クイリ:スト~ップ!!

ってうぎゃああああああ!!


(クイリが二人の間に割って入り体を切り裂かれる)


フーベルト:おわぁ!?クイリ・ツィツェーリア!?


キルケ:おい、いきなり出てくるな

斬ってしまったろうが


クイリ:こんな場所で炎角刀振らないでよ

森が火事になるって~

シイラ~大丈夫だったよ~


(遠くからシイラが走って来る)


シイラ:あ、ほんと~?危ない感じがビリビリだったから、何があったかと…ってクイリ!?バラバラになってるんだが!?


クイリ:大丈夫大丈夫

自分で体くっつけるからそこの右手拾って


シイラ:ちょ、ちょっと待ってね


フーベルト:こ、この状態からも元に戻るのか…?

クイリ:まあね、痛いのにはかわりないから斬られたくはないんだよ?

あぁもう、おなかの中にいっぱい泥入っちゃった…1週間くらいお腹下しそう


フーベルト:(NA)

…小腸で体を縛られたときもそうだったが…やはりこの生命力は常軌を逸している

この力を手に入れ解明することができれば、帝国は不死身の兵士を作ることができるぞ…!


アーレ:やれやれ、大惨事って感じですね…

キルケ…なぜこんなことに


キルケ:帝国の剣士が我に剣戟(けんげき)を挑んだのだ

なんでも名を呼ばせたいらしくてな


アーレ:はぁ…騎士道精神もご立派ですけどね

剣の強さだけがキルケに認められる方法ではありませんよ


フーベルト:それはどういう…

っつ…!


(フーベルトは痛みで手を押さえる)


シイラ:あれ…ファーベルクさん?

そこ少し焼けてますよ…?


フーベルト:あの一振りの熱波で…凄いな…炎角刀というものは…

大丈夫だ、軽いやけどでしかない


シイラ:見せてください…森の中ですからすぐ手当てしないと危ないです

傷から何か入るかも…


フーベルト:す、すまない…


アーレ:…それが終わったら今日はもう寝ましょう

明日も探索は続くんですから…


―――――――――――――――――――――――――――――――


シイラ:(NA)

翌日以降の冒険は驚くほどスムーズに進みました

草をかき分け、岩を乗り越え、ぬかるんだ道を進み

シイラたちは島の裏側へやって来た


シイラ:クンクン…におう…におうぞ…


クイリ:え、僕死臭とかする?

何日かお風呂入れないとすぐにおっちゃって…


シイラ:違うよ!危険のスメルがプンプンしてるの!

もう…かっこつかないなぁ


キルケ:危険のにおいとは言っても…ここはただの沿岸付近の岩場だぞ?


フーベルト:帝国でもこの辺りに何かがあるという情報はつかめていないが…


シイラ:あ、そこ気を付けてくださいね

棘(トゲ)のある植物があります

刺さると毒で結構強く痛みますよ


フーベルト:あ、あぁ…すまない

きをつけよう


アーレ:おかしい…ここまで簡単な道ではありませんでしたが、決して険しいというわけでもありませんでした

狂暴な魔物や獣はいないし…致死性の毒草みたいな危険な植物もなかった…

ならば…シイラが感じていた危険はなんなのか…ん?

…よっと


(アーレが地面の岩盤に顔を近づける)


キルケ:どうしたアーレ急に這いつくばって

我らに敬意でも示したくなったか?


アーレ:必要であればいくらでも示しますが違います

…ふむ…この感触…色味…

この地面のこの岩、おかしいですよ


フーベルト:何がおかしい?ただの岩盤だろう


アーレ:この周りだけ生えている植物が違います…それにこの匂いウリアレン酸化物…ランディアノーム…アリセン…


クイリ:なにそれ?


アーレ:数百年前までメジャーに使用されていた塗料(とりょう)の原料です

…キルケこの岩を2m四方くらいでカットできますか?


キルケ:ん、任せろ…ふん!!


(キルケが岩盤を切り裂く)


フーベルト:こ、これは!?


シイラ:地下への入口だ…!

キルケが斬った岩、裏側が金属でできてるよ!


フーベルト:人口の岩で入口を隠していたのか…


アーレ:随分と手の込んだことを…デンベルの秘密はきっとこの先です

よし…クイリ、先行って下さい


クイリ:やっぱりかぁ…


フーベルト:確かに、クイリ・ツィツェーリアがいれば危険の回避率はぐっと上がるな…


クイリ:こら、僕はあなたのために先頭歩くわけじゃないんだよ、まったく

それに僕は厳密にいえば不死身じゃないしさ…


フーベルト:そうなのか?


クイリ:全身燃え尽きて灰になったり、マグマに落ちて残らず溶けたり…まあ、多分場合によっては死ぬと思うよ

試したことないけど…僕のことをこんなふうにしたやつらがそう言ってた

フーベルト:(NA)
こんなふうにした奴ら…やはり、クイリの不死身の力は人工的なもの…
再現が可能なのか…!?

キルケ:眉唾な話だがな


アーレ:どっちでもいいですけど、何かあったら私たちは確実に死ぬんで

ほら、早くいってください


クイリ:はいはい…


シイラ:(NA)

デンベル・バストリアが帝国を含めた世界の国々から逃げられたのは、海賊としての残虐さが群を抜いていたことが大きいと言われている

彼らに襲われて逃げ切れた人間はほぼおらず、各国の軍事組織ですら数多(あまた)の艦隊を鎮められ、彼の旅路は本人が残した手記や石碑でしかほとんど確認できない

だが残虐性だけでそんなことができるものなのか

わずかに残った生存者たちから、まことしやかに語りつがれた噂があった

デンベル・バストリアの科学力は常軌を逸していたのだと


クイリ:あ、ここスイッチだ

押してもいい?


シイラ:いや、ダメに決まってるんだが!?


クイリ:ごめん、もう押しちゃった


シイラ:なんで!?


フーベルト:動くな!シイラ・ベーベル!

はぁ!!


(フーベルトが前方から飛んできた矢を切り裂く)


キルケ:矢が飛んできたな…隠しボウガンか…!


フーベルト:これで少しは手当の借りが返せたかな…


シイラ:あ、ありがとうございます…


アーレ:やれやれ…辺り一帯罠だらけってことですか…


シイラ:クンクン…クイリ!

そこのスイッチはマジで押しちゃだめだよ!!

多分毒ガスが出てくる!


クイリ:あ、ほんと?良かった~押そうとしてたよ


フーベルト:なぜ押そうとする…!


アーレ:…当時の技術で長期間保存可能な毒ガスを作り出すなんて、いち海賊団程度の技術力では無理なはずですが


フーベルト:…デンベル・バストリアが盗み出した財宝の中には人知を超えた代物も存在すると聞くからな


アーレ:まあ、うちのびっくりメンバーを見ればそうは驚きませんけどね


フーベルト:…お前もその一員なんじゃないか?…アーレ・ボルタ―ス


アーレ:私はびっくりさせるよりするほうですよ


フーベルト:(NA)

その後、探索は続けられたが…地下施設はまさに危険のオンパレードだった

クイリ・ツィツェーリアとシイラ・ベーベルのおかげでなんとか切り抜けられる罠の連続

転がる岩、飛び出る槍、迫る壁、振り子状の斧、落とし穴…


シイラ:殺意が高すぎるんだが…!


フーベルト:大丈夫か?…水だ


シイラ:あぁ…ありがとうございます…


キルケ:デンベル・バストリアが財宝を隠していたとしても、これでは本人が取りにこれんのではないか?


シイラ:そうかも…とりあえずこの部屋は大丈夫そう


キルケ:せーふぞーん…というやつか?


シイラ:うん、罠はなさそう…かな


アーレ:なら少し休みましょうか


フーベルト:…予想以上にシイラ・ベーベルに気を張らせてしまった…消耗も激しいだろう

しっかり休んでくれ


キルケ:うむ、あれだけの罠をかいくぐったのだ

シイラには感謝せねばならないな


クイリ:…ちょっと…僕だって体ボロボロにしながら頑張ったんだけど!


シイラ:クイリが何もしなかったら危なくなかった場所が30か所くらいあったんだが…!!


クイリ:…そうだっけ?


フーベルト:はぁ…このメンバーで一番怖いのはクイリ・ツィツェーリアなのかもしれないな…


クイリ:いいやそれはないね


キルケ:あり得ないな


アーレ:全く持って考えられません


フーベルト:…じゃあ、誰なんだ?


アーレ:それは…ねえ


シイラ:ち、ちょっと!なんでシイラの方を見るのさ!


フーベルト:そうだぞ、どう考えてもお前たちの方が怖いだろう


クイリ:意外とああいうのが一番怖いもんなんだよ


アーレ:まったくです…ねぇ?


シイラ:ねえじゃないよ、失礼な

こんなに頑張ってるのにさ…まったく


キルケ:そうだな…しかし…まるで迷路みたいな施設だ

一体どうやってこんな場所を作り出したのか…皆目見当もつかん


アーレ:デンベル・バストリアの海賊団が大船団だったなんて情報も無いですし…謎は深まるばかりですね…


シイラ:はぁ…まぁ、危険は大きくなってるし

きっともうすぐ最深部だと思う…


フーベルト:…そうか

準備が整ったら出発しよう


―――――――――――――――――――――――――――――――


(5人は施設の中を進み、開けた場所に出る)


キルケ:ふんっ…!!よし…!開いたぞ!!


アーレ:ここは…!?


クイリ:ひろいね~

ねえ、ここ水たまりになってるよ!


キルケ:ふむ…海水のようだ…水たまりではなくて穴になってるぞ

どこかにつながっているのかもしれないな

それにしてもあそこ…まるで祭壇だな


フーベルト:(間をあける)……この岩戸は閉めないほうがよさそうだ

密閉されすぎて空気が尽きてしまうかもしれない


シイラ:そうですね…ここは何かの遺跡…なのかな…

あの壁画…なんのやつだろう


アーレ:…シイラ、私にも見せてもらっていいですか?

ちょっと通してもらえます?


シイラ:え…?あぁ…うん


アーレ:3すくみの獣たち…

巨大な鳥に…4足歩行の獣…そして巨大な魚…

アクィリエ…レヴォルフ…オラレナ…


クイリ:何?それ?


アーレ:空、大地、そして海…3つの世界をそれぞれ統べる神々の名です

この絵と後ろの幾何学模様(きかがくもよう)は彼らの聖なる力の流れを表している

既に失われたヴィータ教という宗教にまつわる壁画のようですね…

ヴィータに関する文書や資料はほとんど残っていない…

ここだけでも学術的な価値は計り知れません


キルケ:残ってない…?なぜ残ってないんだ


アーレ:それは…


フーベルト:なるほどな


クイリ:ん?どうしたの?真面目そうな顔して


フーベルト:…やっとわかった


シイラ:わかった?…何がですか?


フーベルト:この島に隠された秘密だ…

そして…それをお前たちが知る必要はない!


(フーベルトが突如シイラにつかみかかる)


シイラ:おわっ!?


(フーベルトがシイラをいきなり捕まえ、拘束する)


フーベルト:動くな!

大事な仲間の首が胴から離れることになるぞ?


シイラ:ち、ちょっと、なんで!?


キルケ:あいつ…


アーレ:キルケ、大丈夫です


フーベルト:大丈夫か…いつもお前は余裕綽々(しゃくしゃく)だな

気に食わん…だが私から目を離したのは軽率だったな

…こんな目に合わせてすまない、シイラ・ベーベル


クイリ:何?シイラのこと好きになっちゃったの?


フーベルト:お前らよりははるかに大好きさ

そして…この島の秘密は誰に知られることも無く歴史の闇に葬るべきだと私は判断した…

お前たちと共にな…さらばだ化け物ども

ふん…!


シイラ:みんなぁっ!!


(入口の岩戸が締められる)


キルケ:岩戸を閉められたな…ふんっ!

…あかないぞ…しょうがない斬るか


アーレ:やめてください、ここで暴れて洞窟ごと崩落したらほんとに死にますよ


キルケ:ならばどうする?あいつの言う通りだ

この部屋が広いと言えど…こうも密閉されればそのうち空気も尽きるだろう


アーレ:一か八か賭けてみますか…でもその前に…もう少し調べてもいいですか?

中佐が気づいたという…デンベル・バストリアの秘密を…


―――――――――――――――――――――――――――――――


フーベルト:ここから先も罠だらけだろう…君の力が必要だ、シイラ・ベーベル

拘束を解くが…いかに君が獣人といえど、暴れるのは得策じゃないと理解してほしい

君に危害をあたえるようなことはしたくない


シイラ:な、何のつもりですか…!?


フーベルト:私がこの島に来た理由は2つ…その1つだったこの島に隠された秘密の解明はほぼほぼ叶った…

だから…もう一つの任務を果たすんだ


シイラ:もう一つの…任務?


フーベルト:君を帝国に連れ帰ることだ…シイラ・ベーベル


シイラ:…へっ!?


―――――――――――――――――――――――――――――――


アーレ:…ヴィータ教はなぜすたれたのか…それはアルバドラド教の台頭

当時の改革的な考えを持つアルバドラド教にとって、保守的で自然を重んじるヴィータ教は邪魔な存在だった…

だから…聖戦が起きたんです


クイリ:聖戦?


キルケ:エーデルダムドの聖戦と呼ばれる、大規模な宗教戦争だ

多くの人間が殺し合ったと聞く


クイリ:それで…ヴィータの人たちは負けちゃったってこと?


アーレ:負けたなんてもんじゃない…虐殺に次ぐ虐殺…聖なる教典を盾にして、戦争に参加しなかったヴィータ教徒まで次から次へと殺していったのです…

そしてヴィータ教の聖地と呼ばれた場所を占拠して、新たな国を作った…

それこそがアローナス帝国です


クイリ:…ひどいな

でも…そのヴィータの遺跡がなんでこんな場所に…?


アーレ:待ってください…もう少し…この文字…どこかで…?


キルケ:…おい、穴から水があふれてきているぞ


クイリ:え?なんで?


キルケ:わからん…だがこのまま行けば、

いずれこの部屋は水没する


アーレ:中佐め…外で何かしたな…?

なら急ぎます…もう少し待ってください


クイリ:頼むよ~溺死(できし)はほんとにしんどいんだから


アーレ:…えぇ、私だってごめんです

しかし…この壁画に使われている模様…どこかで…


―――――――――――――――――――――――――――――――


シイラ:…何をしているんですか?


フーベルト:さすがだな…今していることの危険性がわかるらしい

この施設は海中に作られている

こういう穴はから漏れ出した水は他の部屋とつながってる

デンベル・バストリアは移動や侵入者の排除にそれを利用していた

どの穴に何をすれば、他の穴にどんな影響が出るのか日誌にまとめていたよ

この目で見るまでは何を書いているのかわからなかったがね…

この穴に爆弾を入れた…水の流れが変わり向こうの部屋は水没するだろう


シイラ:そんな…!


フーベルト:もう君が気にすることではないさ…
君の危機察知能力は素晴らしい…

その能力は各国の要人(ようじん)が皆欲しがっている…無論我らの皇帝も例外ではない


シイラ:だからシイラを皇帝のボディガードにしようってことですか…?


フーベルト:違う…この世界で重要視すべきなのは突飛な才能ではない

…再現性だ

君が持つような素晴らしい才能をなんの変哲もない普遍的な能力に昇華し…多くの人間に再現させる

そうすれば…わが軍は敵の攻撃の全てを回避する最強の隠密部隊を作り上げることだって可能だ


シイラ:世界の征服でもするつもり…!?


フーベルト:私が願うもの…それは帝国の永久的な繁栄と国民の平和だ


シイラ:……


フーベルト:シイラ…君だけだ

あの異常者だらけの化物共の中で、君だけが唯一まともだった

君の能力を完璧に解析し再現することができれば、君は帝国の重鎮となれる
その生涯の平穏や何不自由ない暮らしが約束されるだろう…いや、私がそうしてみせる

…だからシイラ、私と共に帝国へ行こう…拒否すれば…死ぬことになる


―――――――――――――――――――――――――――――――


キルケ:おい、アーレ!いよいよまずいぞ!!


アーレ:待ってください!古い文字は解読が難しいんです!

…よし、終わり!!


クイリ:やった!で、どうするの?


アーレ:水が出てきているあの穴から別の部屋に行きます


キルケ:別の部屋につながってる保証は?


アーレ:ありません、シイラもいないので


キルケ:最悪だな


アーレ:でもそれに賭けるしかない


クイリ:やっぱ溺死コースか…


アーレ:いいえ、保証は無いですが確信はあります

私が先導するのでついて来てください


キルケ:よし、いいだろう

だが、失敗したら化けて出てお前を呪ってやるからな


アーレ:その時には私も死んでますよ

さあ、息を吸って!


クイリ:はぁぁぁぁぁ・・・・


キルケ:スゥゥゥゥゥゥ


アーレ:行きます!


(3人は水の中に潜っていく)


―――――――――――――――――――――――――――――――


フーベルト:ここが…ここがデンベル・バストリアの宝物庫か…!!


シイラ:…すごい


フーベルト:これは…宝剣ディストルム

今は失われた黒紅鉱石(こっこうこうせき)で造られた剣だ…!


シイラ:これ知ってる…使用者が最も望む物のある場所を覗ける望艶鏡(ぼうえんきょう)

こっちはどんなものでも封印することができる魔法のボトル…中に入ってるのは…


フーベルト:デンベル・バストリアの船…レッド・アンズ・リベンジ号か…!

はははは…この世で最も高価なボトルシップだな…


シイラ:金銀財宝の山がかすんじゃいそう…どれもこれも神話の時代の財宝だよ…


フーベルト:私たちの旅の締めくくりにふさわしい…

この場所は後ほど帝国の調査隊が入る…だが、間違いなくこれを見つけた功績によって我々の地位は盤石なものになるだろう!


シイラ:そう…ですね…帝国の庇護(ひご)があれば…シイラも怯えないで生きていける…

(何かに気づくシイラ)ん…?

(演技っぽく微笑む)嬉しいです…!


(シイラがフーベルトに抱き着く)


フーベルト:シイラ…君をこの腕で抱くことができるとは

私はこの瞬間のために任務に臨(のぞ)んでいたのかもしれない…ん?どうした?


シイラ:いや…


フーベルト:何か危険か?


シイラ:それは…


(少し間をおいて)


アーレ:ぶはぁっ!!死ぬかと思った!!


フーベルト:なっ、なに!?


アーレ:おっ?宝物庫っぽい場所に見慣れた中佐とそれに抱き着くキツネの顔…

あってたみたいですね


キルケ:早くどけ!アーレ!

後がつかえてるんだ!!

見ろ!クイリはもう死んでるぞ!!


アーレ:あぁ失礼しました

よっと


キルケ:…はぁ…お、いたな?帝国の剣士…

お前のせいでこんな目に合った…!!

絶対に許さん…叩き斬ってくれる!


フーベルト:なぜだ…なぜ水路が…この場所がわかった!?

アーレ:あの部屋の壁画を調べたんです

広かったから大変でしたよ… 


フーベルト:壁画だと…


アーレ:…あの壁画に書かれていた文字の筆跡

大部分が私達をここへと導いてくれたこの地図の筆跡と酷似していました

つまり…あの壁画はデンベル・バストリアが書いたものだったんです


クイリ:…ぶはぁっ!うえ…ここどこ?


キルケ:お、起きたかクイリ

少し静かにな、我らの大将がかっこつけてるところなんだ


クイリ:お、そういうタイミングね


アーレ:わかってるならかっこつけさせてもらってもいいですか?


シイラ:そんなことより、あの壁画がデンベル・バストリアの描いたものだったらなんなのさ?

どうやってここに…


アーレ:壁画の模様に既視感がありました

よく見たら、部屋全体に張り巡らされた模様が、この迷路のような施設全体の地図になっていたんです


フーベルト:なに…!?


アーレ:それだけじゃない…彼はあの部屋の壁画にこの施設に関する秘密をすべて書き記していました

すぐには内容がわからないように暗号に変えて


キルケ:それが確信の正体か

この穴に関することも書かれていたということだな


アーレ:えぇ…模様の地図からだいたいの縮尺も察せましたし

何とかなると思ったんです


クイリ:僕は何とかならなかったけどね


アーレ:クイリはいいでしょ

さて、ここからは推理の時間です

キルケ、クイリ…デンベル・バストリアについて整理してみましょうか


キルケ:む…そうだな…

デンベルは海賊行為をはたらき、最終的に財宝をこの島に隠した

そして、ヴィータ教の宗教壁画に見せかける形でこの施設に関する秘密を書き記した…

クイリ:帝国はこの島の存在も知っていたし、デンベルさんの日誌も持っていたけどこの地下施設のことは知らなかったし攻略法も知らなかった…

あれ?でも帝国の人はあの穴のことを知ってたんだから…施設の秘密は知ってた?

ん?どういうことだ…?


アーレ:中途半端に伝わる施設の情報…緻密(ちみつ)に計算され、高い技術力で造られた罠の数々

この場所はあまりにおかしなところが多すぎる

そこから私が出した答えは…デンベル・バストリアは帝国に追われていなかった


シイラ:うぇっ…!?それって…どういうこと!?


アーレ:神話の時代に登場するレベルの財宝があろうとも…目がくらむほどの金銀を手に入れようとも、一海賊ではできないものはできない…この施設はまさにそういうものです

この施設建造のため、デンベルの裏に支援者がいた…そしてその支援者こそがアローナス帝国だったのではないのですか?ねぇ、フーベルト中佐


フーベルト:…アーレ・ボルタース

わが軍の提督に最も危険視していると言わしめるだけある…

貴様の言う通りだよ、アローナス帝国はデンベルを支援していた

あの壁画を見てすぐに気づいたよ…

帝国に残る歯抜けの情報が、一気につながった気分だった


クイリ:歯抜けの情報?


フーベルト:我が国の上層が持つデンベルの日誌は所々が破られたり黒塗りになったりしている…

今思えばお前たちの地図の一部も日誌のページなのだろう


キルケ:なぜ帝国がデンベルの支援をするんだ

財宝を盗まれているんだろう?


フーベルト:盗まれていたんじゃない…盗ませていたんだ

周辺諸国の財宝だけ盗まれては、アローナスが疑われる

だから、帝国のもたらした技術力によってデンベルには最強の海賊になってもらった

帝国を襲っても逃げ切れるほどの最強の海賊にな


シイラ:…デンベルを経由して他国から奪った財宝を国の物にしていたんだ


フーベルト:ヴィータの聖地を奪ったとはいえ建国されたばかりのアローナスはまだまだ小国…大国と渡り合うためには、大国に弱体化してもらうのが手っ取り早いだろう

同時に自国の強化も図れるこの方法はうまくいったそうだ

…だが誤算もあった


クイリ:誤算…?あ、デンベルさんが実はめちゃくちゃヴィータ教の信仰者だったとか?


フーベルト:おや、脳も死んでるのかと思ったが察しがいいな、クイリ・ツィツェーリア


クイリ:あれ?もしかして今褒められた?やった~


キルケ:多分褒めてはないぞ


フーベルト:ふん…デンベルは帝国に強い復讐心を抱いていた…

だからわざと帝国に近づき、国のために盗みをはたらく海賊となったんだ

いつか来る、復讐の瞬間のために


キルケ:今まで盗み出した財宝の全てを帝国に奪われないよう島に隠し、その情報の核となる日誌などの資料バラバラにしたのだな…

ここは帝国と共に作った施設だとしても国に伝わる攻略法が歯抜けではおいそれと近づかない…財宝のありかがわかったとしても数多の罠が仕込まれ、この場所にはたどり着けない…

シイラやクイリのような者でなければ、ここに至るまでに全員死んでしまうのだから…


クイリ:あの広場にたどり着いたとしても、ヴィータ教の壁画の暗号を解いてはじめて遺跡の全てがわかる…でもそのヴィータ教は帝国が滅ぼしちゃってるし…


アーレ:デンベルはこの施設を帝国を宝でおびき寄せ殺すためのネズミ捕りとして利用することにした

だがあまりにも攻略難易度の高いこの施設は、300年の間手付かずとなり、いつの間にかデンベルと帝国を繋ぐ不落の証拠となってしまった…

証拠の消滅には施設を取り壊すしかない
だが、財宝を手放すこともできない…

ここは帝国の首に突きつけられたナイフなんです
これこそがデンベル・バストリアの秘密です

さて…この秘密が外部に漏れればどうなるでしょうか


クイリ:帝国はデンベルさんを使って他国の財宝を略奪してたんだよね?

300年前のことだけど、きっと他の国から文句言われちゃうね


フーベルト:そうだろうな…ならば、この事実を知るその口をつぐむのみ…

お前たちの旅はここで終わりだ

私は貴様らをここで殺し…シイラを帝国へ連れ帰る


シイラ:シ、シイラはみんなの暴走に付き合わされるのはもうまっぴらなので、帝国でリッチに楽しく暮らします!


アーレ:うわ、裏切り者ですよ


キルケ:一緒に斬ってしまおうか


シイラ:うわ~!フーベルトさん!後はお願いします!


フーベルト:…ふっ、やっと剣をかわせるな

キルケ・ザスキア


キルケ:そうだな…この瞬間を楽しみにしていた

行くぞ、帝国の剣士!


フーベルト:私はフーベルト・ファーベルクだ!!

うりゃあああ!!


キルケ:ちぇりゃああああ!!


アーレ:よし…クイリ、今のうちに財宝回収しましょうか


クイリ:…そうだね

どれにしよっか


アーレ:高値なのと、値がつけられないマジカルなアイテムに絞りましょ


フーベルト:貴様ら…!こちらに集中しろ!!


キルケ:おっと、それは貴様だ

我と戦っているというのによそ見ができるわけがあるまい

さぁ、我が剣を見切れるか!


シイラ:左脚に注意です!


フーベルト:ぬっ…!?

危ない…助言が無ければ、足首から先を失うところだ…!


キルケ:くそ、シイラめ…!


フーベルト:危機察知能力…!なんて精度だ…味方であればこれほどありがたいものもない…


キルケ:…やっかいなことだ…だが、他者の力に頼るとはつまらんな

帝国の剣士


フーベルト:シイラは帝国の者となる…私は帝国軍として勝利するのだ

シイラ!!次はなんだ!


シイラ:上段の突き、右脇腹、左腕、左肩の順でコンボです!


キルケ:ぐぬ…はぁ、連撃の型を変えねばならんだろうが


フーベルト:これだけわかれば相手の動きを制限できる…

炎角刀の所有者といえど、有利なのはこちらだ


クイリ:あ、本格的にシイラが裏切り始めたみたいだよ

怖いねぇ


アーレ:大丈夫ですよ、苦戦するでしょうけど…その程度で終わるキルケではないんですから


フーベルト:どりゃああ!!


キルケ:ぐっ…!

今のはいい一太刀だった…よく練り上げられた実戦の剣だな


フーベルト:ファーベルク家は聖戦にて最も多くの敵軍を屠り、軍の要(かなめ)として召し抱えられた誇り高き一族だ!

…お前もこの剣の錆としてくれる!


キルケ:仕方ない…この技を見せるつもりは無かったが…居合(いあい)…鬼炎天刃(きえんてんじん)の型…!


フーベルト:ぐっ…なんて殺気だ…!!

だが…しのいでみせるめ…シイラ、サポートを頼む


シイラ:はい…


キルケ:行くぞ!!


シイラ:左からの横降りがきます!


フーベルト:…ここだ!!…ぐぉっ!?


(キルケの居合によってフーベルトの利き腕が斬り落とされる)


フーベルト:な…あが…指示が…逆、じゃないか…!


シイラ:あれ…?どうしたんですか?

そんな顔して…もしかして…


フーベルト:シイラ…まさか…貴様…!


シイラ:キツネにつままれました?


フーベルト:…貴様ぁぁぁぁ!!


キルケ:ふん!!


(キルケがフーベルトの片足を切り落とす)


フーベルト:うがぁぁぁぁ!!あ、脚っ…脚がぁ!!?


キルケ:他者に依存し、己の力で戦うことを放棄した結果だ
貴様には、もはや殺す価値もない

シイラが指示を出し始めたときにお前を騙そうとしていることはすぐに分かった

それほどの腕があるんだ…お前がシイラの言うことを信じていなければこうも綺麗に手足を落とされることもなかった


クイリ:だから僕らは言ったのにね、一番怖いのはシイラだって

シイラが帝国になんて行くはずないでしょ?


キルケ:まったくだ


フーベルト:ぐぬ…クソどもめ…

この私を…誇り高き、帝国軍中佐たる私を…!だましただと!?


シイラ:べ~っだ!


クイリ:僕たちはね昔っから国の偉い人とか、軍とかそういうのに追われ続けてきたんだ

変な組織に捕まったり、実験されたり…

まぁ、つまるところ…偉い人達なんて大っ嫌いなんだよ


キルケ:やはり最後まで名を呼ぶことは無かったな…帝国の剣士

手足を失ったまま、ここで1人あがくがいい


フーベルト:…ぐっ…許さん…許さんぞ…


アーレ:あ、もういいですか?宝大体詰め終わったので


クイリ::お、じゃあ、行こっか


シイラ:行くって…どこに?

出口らしきものが無いんだが…


フーベルト:馬鹿め…この場所は一方通行だ

外に出るにはもと来た道を戻るしかない…

片腕、片脚を失ったからなんだ…この命を賭けて貴様らを殺してやる…殺してやるぞ!


クイリ:手足斬ったのに意外と元気だね


キルケ:傷跡を焼いたから、血が止まっているのだ

貴様、その怪我で今さら何をするつもりだ…


フーベルト:ここは宝で敵をおびき寄せ殺すネズミ捕り…

アーレ・ボルタ―スの言う通りだ…

おびき寄せたら殺さねばならない…あれほどの罠を張っておいて…

ここだけ安全なわけがないだろう!!ぬん!!


シイラ:うぇっ!?あいつなんか押した!めっちゃ危険なやつ!!


クイリ:うわっ!?なんか水があふれてきたよ


フーベルト:この壁のスイッチを押したら最後…15分程度でこの場所は水没する…!


アーレ:あぁ、そういえばそんなこと書いてたな~


シイラ:ち、ちょっと!?そんな大事なこと忘れないでよ!!


フーベルト:ここは地下ではなく…海中まで伸びる洞窟の最深部

穴から外に出てみるか…?

溺死するだけだろうがな…!


アーレ:大丈夫ですよ

なんてったって私たちにはこれがありますからね


―――――――――――――――――――――――――――――――


クイリ:…ぶはっ!?僕また死んでた!?


シイラ:あ、クイリ起きた


アーレ:よく死にますね~

ちゃんと息止めてました?


クイリ:しがみつくのに必死で止めてなかったかも


シイラ:そりゃ死んじゃうよ…


アーレ:死後硬直で掴んでられますし、その方がいいかもですよ


キルケ:しかし、よく思いついたな…


アーレ:シイラがこの魔法のボトルシップを見つけてくれたおかげです


クイリ:…でも結局どういうことだったの?

よくわかんなかったよ


アーレ:ボトルシップの中の船を水中で出したんです

海中で巨大化した船は大きな浮力を生み、一気に浮かび上がる

それにしがみつけば勝手に海上にあがれる…重たい宝の運搬も楽ちんです


クイリ:う~ん、なんだかよくわからないけど、この船がすごいってことだね


アーレ:さ、島に戻って、僕らの船で帰りましょ

この船は移動するにしては高価すぎます


クイリ:…あの帝国の人は海の下か
結局帝国に追われちゃうじゃん〜はぁ…

アーレ:懇意にしてる他国の重鎮に一部財宝を献上して牽制させますから問題ないです

キルケ:はじめから、問題には対応済みか

アーレ:悪いようにはならないって言ったでしょ?
財宝渡すのは癪だし、めんどくさいですけど

クイリ:それにしても、シイラは名女優だったね

ずっとあの人にいい顔してさ


シイラ:シイラは平和主義なだけ


アーレ:自分の平和だけでしょ?


シイラ:よく言うよ、壁画見たときこんなメモ渡してきた癖に

魔法のボトルシップを探してください

脱出に必要ですってさ


アーレ:壁画に彼の船について描かれていましたからね

脱出にはこれしかないと思いましたよ


シイラ:絶対他にもあったでしょ!


アーレ:だってこれが一番面白そうでしょ?


シイラ:この人は…!


キルケ:我はお前たちの悪だくみに乗ってやったせいで消化不良だぞ


アーレ:なら次はもっとデンジャラスなの探しに行きます?


シイラ:え


アーレ:さっき宝物庫の中でこんなの見つけたんです!

ほら!古代ベフェンメラード文明の古文書(こもんじょ)!

人を滅ぼそうとした悪魔を封印したと記載されています


キルケ:なに!?運が良ければ悪魔と斬り合えるな!!


クイリ:え


アーレ:気になるでしょ気になるでしょ!

これはもう、行くしかないでしょ!!ね!!


シイラ:やっぱ私帝国に行く~~~!!!!


―――――――――――――――――――――――――――――――


(ノック音)


ヒルダー:入れ


フーベルト:…失礼します


ヒルダー:…義手と義足はずいぶんなじんでいるみたいじゃないか


フーベルト:あれほどの失態をさらした私にこのような寛大な対応をしていただき感謝しております


ヒルダー:お前はデンベル・バストリアの秘密は暴いた…施設も沈み証拠も消えたしな
持ち去られたものは無理だろうが…水に沈んだ宝は時期に見つけることができるだろう…
軍としては宝よりも貴様を失うほうが損失だ…むしろその怪我でよく帰ってきたものだ


フーベルト:帝国の技術で造られた薄型救命胴衣を着ていたのです…

生きて帰らなければ国に顔向けできません…


ヒルダー:ふふふ…復讐心は人を強くするようだな?フーベルト・ファーベルク中佐


ヒルダー:はい…

シイラ・ベーベル

キルケ・ザスキア

クイリ・ツィツェーリア…そして…アーレ・ボルタース

あの4人はいずれ…私が必ず殺します


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