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【マネジメント連載企画vol.7】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~」

第2章 陥穽(おとしあな)に落ちないために③


業務の棚卸しから分担・分業へ


こぼれ落ちた仕事は誰も拾わない

 本来やるべき仕事ができていない…この問題の深刻さに、私たちは改めて向き合った方がいい。
マネージャーがマネジメントを全うしていないということは、いくつかのマネジメントの仕事がこぼれ落ちていることを意味する。こぼれ落ちた仕事が「今日明日の仕事」であれば、本人も含めた誰かが気づいて対応できるかもしれない。だが、それが「明後日の仕事」である場合は、そのまま忘れ去られることが多い。いま取り急ぎ何か不都合なことがなければ、こぼれ落ちた仕事はそのままになってしまう。
 期限の迫っていない仕事の不具合は、遅れてやってくる。新入社員への不十分なOJTは早期離職につながり、業務改善の停滞は現場を疲弊させ、業績目標に対する進捗管理の放棄は目標未達を招く。先送りした仕事は借金に似ている。やがて問題が起きて問題処理という返済を迫られるだけでなく、日常の仕事を止めてその対応に追われるという利息まで支払わされる。
 これはなにも管理職層だけの問題ではない。専門職が専門職の仕事を全うできていなければ、何らかのかたちで利用者へのサービス品質が低下しているはずだ。専門職自身もやりたい仕事ができていないわけだから、モチベーションが維持されているとは言い難い。本来やるべき仕事ができていない悪影響は、広く、深い。そして静かに、組織全体を蝕んでいく。



棚卸し・分担・分業というプロセス

 では、それぞれがそれぞれの仕事を全うするにはどうすればいいのか。具体的な手順は、①棚卸し⇒②分担⇒③分業である。
 棚卸しについては前回述べた通りだ。事業所の全業務を洗い出し、「自分でなければできない仕事」と「自分でなくともできる仕事」に分類した上で、前者を手元に残し、後者を可能な限り自分以外に移していく。
 当然、これを現場からやり始めたら、仕事の押し付け合いになって組織が崩壊するだろう。誤解を恐れずに言えば、現場の仕事の大半は「自分でなくともできる仕事」だからだ。そうでなければシフトで回すことなどできない。分担の見直しは、マネジメントという「自分でなければできない仕事」が多い管理者から始めるのが正しい。管理者の仕事の一部を主任に、主任の仕事の一部を職員に、職員の仕事の一部をパート職に、という流れで仕事を順送りしていく。
 この玉突き方式で仕事を送ってくと、最終的にはパート職の仕事が増えることになるが、対応方法は2つある。パート職を増やす、新たな職種を増やす、のいずれかだ。地域事情やサービス種別によって多少事情は異なるものの、パート職であればまだ雇用はできるはずだ。もちろん簡単ではない。だが、管理者や正社員ほど雇用難易度は高くないだろう。



多様なパート雇用を活用する時代に

 パート雇用はここ数年で著しく多様化が進んだ。スマホでマッチングする1日単位・数時間単位の雇用が介護現場に向くのかどうかはともかく、検討してみる価値はあるだろう。一旦現役を退いた元気なシニア層の働き手も確実に増えており、年齢制限という考え方自体がもはや時代と合わなくなってきている。外国人雇用についても、今回の介護保険制度改正を含めて徐々に規制緩和が進んでいるのはご存知の通りだ。
 正社員がいい、即戦力がほしいというのが現場の本音だとは思うが、その稀少性は年々高まっている。貴重な戦力になりつつある彼ら彼女らに対して、働く側からみた職場の魅力を高め、その魅力をうまく伝える方法を探る一方で、多様なパート雇用による分業は、もはや避けて通れない時代になりつつある。
 そう考えるとき、「自分でなければ/自分でなくとも」という分類は、改めて重要な意味を持ってくる。正社員や即戦力が受け持つことが望ましい専門性の高い仕事を「自分でなければできない仕事」とするなら、それ以外の仕事は「自分でなくともできる仕事」になるだろう。ケア周辺の仕事に限定すれば、短時間・シニア・外国人といった人材は、無理なく活用できる担い手だ。パート雇用の枠内に、ケア業務も行う者と、ケア周辺業務しか行わない者を作るのである。



次回は、ケア周辺業務しか行わない「介護助手」の活用方法について解説します。



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