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【マネジメント連載企画vol.6】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)

第2章 陥穽(おとしあな)に落ちないために➁


プレイング・マネージャー問題に向き合う


落とし穴はもうひとつある

では、アガリ意識もノスタルジーもない管理者候補が謙虚にマネジメント手法を学べば、マネジメントができるようになるのだろうか。残念ながら、答は否だ。
実は、もうひとつ落とし穴がある。それは環境だ。マネジメントを行うには、マネジメントできる環境を整える必要がある。
多くの管理者候補はプレイング・マネージャーだ。訪問介護ならサービス提供責任者、通所介護なら主任か生活相談員、入所・入居系なら副施設長か主任が、抜擢されて管理者に昇格する。彼ら彼女らは、介護専門職というプレイヤーでありながら、チームやフロアのような小単位のマネージャーも兼務している。その割合は、ほとんどの場合1:9か2:8程度で、圧倒的にプレイングが多い。この環境が管理者になってからも続くと、かなりの確率で事業所のマネジメントが滞るのである。

一口にマネジメントといっても、チームやフロアのような小単位と事業所全体とでは、業務の量と質はまったく異なる。「量」でいえば、たとえば、フロアリーダーの責任範囲はそのフロアの利用者と職員に限られるが、管理者になれば事業所の全利用者と全職員が対象になる。「質」でいえば、フロアリーダーが売上や人件費率などの数値目標の達成を求められることはまずないが、管理者であれば当然のこととして責任を問われる。管理する中身が、明らかに違ってくるのである。

直接管理には限界がある

普通、大きな組織を管理するリーダーは、小さな組織を管理していたリーダーの中から選ばれる。しかしながら、小さな組織を管理した経験は大きな組織の管理にはうまく活かされず、行き詰ることが少なくない。これは、先ほど述べたマネジメントの量と質が違ってくるからで、さらにいえば、異なる量と質に応じたマネジメントの環境整備がなされていないからだ。
スパン・オブ・コントロールという言葉で説明されるように、一般論として、1人の管理職が直接マネジメントできる職員の人数は8~10人が限界だといわれる。小さな組織を管理していたリーダーが大きな組織の管理を任されると、大抵はこの人数を超えてしまい、全員に目が行き届かなくなる。だが、管理者になれば、大人数をマネジメントすることは避けられない。いったいどうすればいいのか。
間接的に管理する。それしかない。「職員の管理」から「職員を管理するリーダーたちの管理」に切り替えるのである。職員の直接的なマネジメントは主任やサービス提供責任者に任せて、彼ら彼女らのマネジメントを通じて間接的に全職員を統括するわけだ。これなら、直接やりとりする職員の人数は、小さな組織を管理していた頃と大きく変わらない。スパン・オブ・コントロールの範囲に収まる。


 

業務を棚卸しする

間接管理を進めていくには、準備が必要だ。まず、その事業所で行っているすべての業務を棚卸しすることから始める。管理者だけでなく、サービス提供責任者や主任など、より現場に近いリーダーたちの協力をあおぐ方が、棚卸しの精度はあがる。

場所(部門)別に、時系列で仕事を拾っていくのが、いちばんオーソドックスなやり方だ。フロアと事務所の業務はまったく異なるし、フロアごとの業務も微妙に異なるからである。手書きで構わないので、その場所で行われている始業から終業までのすべての仕事を書き出していく。日単位が済めば週単位、月単位と進めていく。
このとき気をつけたいのは、「行っている業務」だけでなく、「本来行うべき業務」も洗い出すことだ。「行っている業務」の大半は、おそらく、利用者へのサービスとして最低限不可欠なものと、締め切りがあるものになる。

「本来行うべき業務」の方は、マネジメントに関するもの、利用者へのサービス品質の向上に関するもの、職員の働き方や育成に関するものなど、必要性は感じつつも手をつけられていない仕事になる。前者は「とにかくやらなければならない今日明日の仕事」、後者は「やろうと思いながらできていない明後日の仕事」というニュアンスだ。対象が商品であれ業務であれ、いま棚にあるものと、あるべきなのにないものを確認するのが、棚卸しの目的である。
 

自分でなくともできるか、できないか

「行っている業務」と「本来行うべき業務」に分類された全業務のリストができたら、次の分類に移る。まずは管理者自身が、それらの仕事は、「自分でなくともできる仕事」なのか、「自分でなければできない仕事」なのか、仕分けしていく。
この分類を行うと、「行っている業務」の中には「自分でなくともできる仕事」が多く、「自分でなければできない仕事」が少ないことに気づくはずだ。その一方で、「本来行うべき業務」の中には「自分でなくともできる仕事」が少なく、「自分でなければできない仕事」が多いこともわかるだろう。もちろん、人手不足や任せられる人材の不在でやむなくそうなっているのだと思うが、それはまた別の問題だ。いまここで重要なのは、多くの管理者が、代わりのきく仕事に時間と労力の大半を費やしていて、代わりのきかない仕事が後回しになっている、という事実である。

繰り返しになるが、介護現場の役職者のほとんどは、プレイング・マネージャーである。「自分でなくともできる仕事(プレイング)」にばかり手を取られ、「自分でなければできない仕事(マネジメント)」は疎かになりがちだ。この現実に本人が気づいていないことが、いちばんの問題なのだ。

業務の棚卸しと分類は、役職者が自分たちのプレイングとマネジメントの比率について現状を知るための手法であり、仕掛けなのである。


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