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『人間関係ってどういう関係?』読んだよ

平尾昌宏『人間関係ってどういう関係?』読みました。

著者の平尾氏は哲学者、倫理学者の方。

過去作の『日本語からの哲学』や『人生はゲームなのだろうか?』についても江草は以前読書感想文を書いています。

この二冊がとても面白かったのもあって、最新作である今回の『人間関係ってどういう関係?』も手に取ってみたというわけです。


本書のテーマはタイトルで分かる通り「人間関係」です。

人間関係と言えば、ベストセラーの『嫌われる勇気』によって「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」というアドラー心理学の考え方が広く知られることになりました。
本当に「すべて」と言っていいのかどうかはさておいても、私たちにとって人間関係は非常に大きな悩みと関心の対象であることには違いないでしょう。

にもかかわらず、私たちは意外と「じゃあ、そもそもその"人間関係"ってなんなの?」ということに無頓着です。尋ねられたら「友人関係とか家族とか会社の同僚とかでしょ」みたいに皆とりあえず答えるとは思うのですが、それはそれで「じゃあ友人関係ってどういう関係なの?」とか「どこからが知り合いで、どこからが友人で、どこからが恋人なの?」などと追撃されるとだんだん答えに窮するのではないでしょうか。

本書ではこうした「友人」や「家族」みたいな人間関係を表すことに一般に用いられてる用語では十分に「そもそも人間関係とはどういう関係なのか」という疑問に答えられないと喝破します。分かったつもりになるだけで実際には理解につながらない曖昧な言葉でしかないと。

そこで本書はそうした一般的な用語に頼ることなく「人間関係とはそもそもどういう関係なのか?」という謎に迫る旅路に出る一冊なんですね。

日本語の文章の「です・ます体」と「で・ある体」の二大スタイルの違いはそもそもなんなのかに迫った『日本語からの哲学』や、タイトル通り「人生はゲームなのだろうか?」という問いに迫った『人生はゲームなのだろうか?』の過去二作同様に、本書も身近で素朴な疑問に対して誤魔化さずに向き合おうとされてると言えます。

こうした「そういえば意外と分かってなかったな」という謎に迫り、カタルシスを呼び起こしてくれるミステリー作品的な面白さは、本書も健在で、まさに平尾節の真骨頂と言えるほどエキサイティングなものに仕上がっています。(江草もこの感じが好きで平尾氏のファンになってしまったんですよね)

ただ、哲学や倫理学の論考ではどうしてもそうなるのですが、その結論に至る思考のプロセスを共体験することが最も重要で、結論だけをここで抜き書きしてもあまり意味がないし、下手をするとあろうことか「陳腐な結論」かのように弄ばれてしまう可能性もありますから、ここで本書の結論を切り抜いて書き記すことはいたしません。

なので、残念ながら論考の内容を解説することはできませんが、実にエレガントで知的発見に満ちた分析ですから、ぜひ本書を手に取って皆さんも体験していただければと思います。


繰り返しますが、先に挙げた『嫌われる勇気』がベストセラーになるぐらいには人間関係に人は大いに思い悩まされるものですし、それに昨今では「身近な関係」が希薄になることで孤独が大きな社会問題として語られるようになってきています。

何もかもが「個人」と「社会」の両極概念に二分化されて、そのどちらでもない「身近な関係」が世の中で存在感を失いつつあるからこそ、本書が掲げる「人間関係ってどういう関係?」という「そもそも論」的な問いに向き合うことがますます重要になっているように感じます。

江草自身もここnoteであれこれ論考を述べている時に、ついつい個人と社会の二分法的な視点になりがちだったかもしれないなと反省させられました。本書で「身近な関係」についての徹底的な分析を知ってしまった以上、これからは「個人」と「社会」だけの構造で考えることはできなくなるでしょう。良い本というのは読後に決してもとの考え方に戻れなくなるパワーがありますね。

本書はボリュームとしても短めで、ユーモアもあふれる文体なのもあって、非常に読みやすくなっていますし、誰もが人間関係に無関係ではいられないからこそ、万人にオススメできる一冊です。

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