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生権力と恐怖についての端書

フランスの哲学者ミシェル・フーコーは「生権力」という語を用いて、権力による人口管理、つまり人口を長く生きさせるための権力を表現した。例を挙げれば、集団予防接種やハンセン病患者の療養所での長期間の隔離など。権力は人口によって成立するので、死んでもらっては困る。死んでもらっては困るので、人口の生命を維持させるために、必「死」で人口を管理する。

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「中国・武漢市(湖北省)で発生した新型コロナウイルスによる肺炎拡大を受け、現地に住む日本人206人が29日朝、日本政府のチャーター機で羽田空港に帰国した。」(朝日新聞デジタル)

中国・武漢市(湖北省)で発生した新型コロナウイルスによる肺炎拡大を受け、日本政府は29日朝、現地に住む日本人206人をチャーター機で羽田空港に移動させた。

「中国で新型のコロナウイルスの感染が拡大している問題を受け、最も状況が深刻な湖北省武漢では現地を離れる航空便や鉄道などの公共交通機関の運行が3日前[23日]から停止されています。」(NHK)

中国で新型のコロナウイルスの感染が拡大している問題を受け、最も状況が深刻な湖北省武漢は現地を離れる航空便や鉄道などの公共交通機関の運行を3日前から停止し、人口の移動を制限しています。
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イタリアの哲学者マキャベリは『君主論』で、支配者が権力の覇権を維持するには、人民に愛されることよりも人民に恐がられるほうがよっぽど効果的である、と言っている。なぜなら、恐怖は処罰によってその強度を高めることができるが、愛情は人が有利だと思うときに簡単に崩壊しうるからだ。ここから、マキャベリズムの暴君性の男性性、処罰や暴力による独裁的なイメージが形作られる。

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「ソーシャルメディアの投稿からは、武漢市内で恐怖感や不安感が広がる様子がうかがえる。体調不良を訴えた家族がベッド不足などを理由に病院から追い返された話す人もいた。」(ママ) (CNN.co.jp)

「オーストラリアを拠点とする中国の政治活動家、巴丢草氏は「この女性[武漢の病院の看護師だと名乗る女性。この女性はYouTube上の「内部告発」動画に出演した]は、自分は真実を話していると思っているのだと思います。なぜなら、誰も真実を知らないからです」と述べた。
「はっきりしたことが分からないと、人々は推測し、パニックになるので」」(BBC)
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真実がどれかわからない、というよりはある世界における事実と別の世界の事実との衝突というポストトゥルース的な状況において、真実というものに神的に依存している我々は崩壊してしまう、恐怖に陥る。恐怖に陥ると、それを煽るような「真実」にすがってしまう。

権力にとって、恐怖に陥っている人口を管理することはより簡単である。恐怖のなか、権力によって生きさせられる。死にたくても死ぬことはできない。それこそ、フーコーの想定した生-権力であって、それは死刑を執行するような権力ではなく、医療や監獄、言説や地理的移動を通じた人口管理を通じて、人口を生きさせる「ユートピア」なのだ。

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