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旅で珈琲,家で珈琲,そして

 旅に出るときは,まず目的地の近くに自家焙煎で珈琲を出しているカフェがないかどうかを調べる。見つかると,ティータイム(10時,15時)に行けるかどうかでスケジュールを立てる。メニューまでわかればいいが、そうでないことも多い。行ってみて,まあ普通だなと思うこともあれば,正解!と思うこともある。自家焙煎だから必ずおいしい(口に合う)とはいえない。

 いや,偉そうにそう言うほど味がわかるわけではない。キリマンジャロとモカを黙って出されて,どっちがモカ? と聞かれたときに当てる自信はない。(いや,さすがにこの2つならわかるか)

 事前に調べていなかった店を現地で発見することも多い。たとえば,天川村洞川の「」。

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 カフェがあることはわかっていたが行ってみたら自家焙煎だった。ここはケーキもおいしく,庭の雰囲気もいい。伊勢奥津の「葉流乃音(はるのん)」は,現地で古民家カフェの案内を見て行ったら,自家焙煎だった。ここはリピーターになった。
 自家焙煎とうたっていなくても,おいしい珈琲を出す店はある。そういう店に当たったときはラッキーだ。たとえば,鷲津の BONZO COFFEE。 ハンドドリップで実に丁寧に淹れている。

 旅に行かないときはどうか。地元に,注文するとそこで焙煎をして豆を売る店がある。「まめやかふぇ」という。店主が直接アフリカや南米に行って買い付けをしてくる。焙煎の間,10分程度待つわけだが,その間に珈琲をサービスしてくれる。これが日替わり。当てることは到底できないので,「今日の豆は?」と聞く。といって,それで味を覚えるわけでもない。
 豆の種類は多様。たいていは「今月の入荷」を買う。200gで1000円程度だ。もちろん3000円くらいの豆も売っているが,私の予算は1000円。スタンプカードを見ると,最近買ったのは,カレンゲラ,イルガチェフ,ボンジャルジン農園,クプラ,ディープブルー,アンデスマウンテン,クレオパトラ,ケニア。そして,1月だけの限定品トラジャ。
 どれがどんな味かと聞かれてもまったく答えられない。苦味,酸味の程度とか,フルーティとか,いろいろ表現があるようだが・・・・。
 要は,その程度のマニアでしかないということだ。

 note に自家焙煎コーヒー豆を「おすそわけ」します,という記事が出た。あちらの界隈のひと。

 ふだん,Twitterで時々茶化したコメントを書いている相手なので,気安く即応募した。
 住所氏名はおろか素性もしれない相手なわけだが,彼女が書いているnoteを読んだり,Twitterでの他の人とのやり取りを眺めていると,信頼がおける人であることがわかる。
 送られてきた豆は,まだ飲んだことのないブラジルの豆。(あえて名前は伏せるけど,高級品)業務用の焙煎器を使うのではなく,家庭での焙煎。さてどんな味がするのか。

 着いたのがティータイムを過ぎた時間だったので,夜飲もうかと思ったが,諸般の事情により,翌日豆を挽いて職場に持っていった。職場では残念ながらポットで湯を注ぐしかない。ジョボジョボっと98度程の湯が出るから,おいしく淹れるにはほど遠いがしかたがない。「飲みたい」が優先。でも,そんな雑な入れ方でもおいしかった。これ,フルーティっていうのかな。やさしい,家庭の味だな。「家庭の味」って,感情移入かな。でもいいじゃないか。コーヒーカップを口につけると,焙煎してくれたマリナさんがそこにいるような気がする。(顔も知らない人だけど)

「どう?」
「おいしいね。今日の豆,結構色がばらばらだったけど,いいんじゃない?」
「そんなに雑に淹れても?」
「ごめんごめん,明日は家でちゃんと淹れるよ。どんなに変わるか楽しみ」

そんな会話が,聞こえてきそうな,初めて飲む家庭焙煎の珈琲は,時計の針を30年分逆回ししたあの頃の,若きネットワーカーたちとの会話を思い出させる味だった。

 さあ,明日は家でじっくりと淹れるのだ。もう一度時計の針を逆回しして。