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高等学校「情報」のプログラミングを考察する(5)

ここまで書いたものは次の通り。

高等学校「情報」のプログラミングを考察する(1):新学習指導要領を読む
高等学校「情報」のプログラミングを考察する(2):学習指導要領解説を読む
高等学校「情報」のプログラミングを考察する(3):中学校の状況
高等学校「情報」のプログラミングを考察する(4):フローチャートについて

今回はモデル化とシミュレーションについて。

 学習指導要領および学習指導要領解説で,モデル化とシミュレーションについてどのように書かれているかをまず見てみよう。

イ(ウ) 目的に応じたモデル化やシミュレーションを適切に行うとともに,その結果を踏まえて問題の適切な解決方法を考えることでは,モデル化とシミュレーションの考え方を様々な場面で活用するために,モデル化とシミュレーションを問題の発見や解決に役立てたり,その結果から問題の適切な解決方法を考えたり選択したりする力を養う。その際,学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて,数学科と連携し,不確実な事象を含む確率的モデルを扱うことも考えられる。
例えば,現実の事象をモデル化してシミュレーションする活動を取り上げ,現実の事象を抽象化することでコンピュータが扱える形に表現するモデル化のメリットや抽象化に起因するモデル化の限界,シミュレーション結果から予測を行ったり最適な解決方法を検討したりすることなどを扱う。その際,学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて,プログラミング,シミュレーション専用ソフトウェア,表計算ソフトウェアの利用などシミュレー ションを行う方法について配慮する。また,数式を利用したモデル化とシミュレーションを取り上げ,金利計算,人口の増減,インフルエンザの流行,数学や物理などの事象を扱うことなどが考えられる。

 現行の教科書にも「モデル化とシミュレーション」はあって,コンピュータを使わない間取りのシミュレーション,選挙のシミュレーション(ドント方式),効果投げ,待ち行列,モンテカルロ法などがある。(教科書によって異なる)
 しかし,上記にある「抽象化に起因するモデル化の限界,シミュレーション結果から予測を行ったり最適な解決方法を検討したり」までは行っていない。
また,「数学や物理などの事象を扱う」は,今までになかったことといっていいだろう。

 教科「情報」が新設されたときの「モデル化とシミュレーション」は,OR(オペレーティング・リサーチ)に偏っていた。待ち行列がその一例だ。数理シミュレーションはまったくなかった。
 となると,新しい教科書でモデル化とシミュレーションがどう変わってくるかが気になるところだ。
 ここで,教員研修用教材のモデル化とシミュレーションの節を見てみよう。次の例が載っている。

・預金の複利計算
・さいころ投げ(一様乱数)
・モンテカルロ法による円周率の近似
・物体の放物運動
・生命体の増加(ロジスティック曲線)
・ランダムウォーク

現行とはずいぶん異なっている。
問題は,これを何年生でやるか,だ。これまでは1年生で情報を学ぶことが多かった思うのだが,これを高校1年生でとなると,数学的な背景が間に合わない。2年生ならいくぶん扱いやすいだろう。その場で教えるということももちろん考えられるのだが,どうせやるなら数学的な背景をきちんとしたい。

 学習指導要領解説には,次の文言がある。

更に,モデル化とシミュレーションについては,高等学校数学科の第2款の第4「数学 A」の2の(2) 「場合の数と確率」との関連が深く,地域や学校の実態及び生徒の状況に 応じて教育課程を工夫するなど,相互の内容の関連を図ることが大切である。
学校や地域の実態及び生徒の状況に応じて,プログラミング,シミュレーション専用ソフトウェア,表計算ソフトウェアの利用などシミュレーションを行う方法について配慮する。

実のところ,教員研修用教材の例をやれる学校がどのくらいあるかというと,かなり怪しい。地域のトップクラスの進学校でも,全員の理解は難しいのではないかと思われる。
はたして,どんな教科書ができてくるのだろうか。


 以上,新学習指導要領の高等学校情報について,学習指導要領,学習指導要領解説,教員研修用教材を見てきたのだが,なかなか道のりは険しいのではないかというのが正直な感想だ。
 最大の問題は,プログラミングを教えられる教員の養成があと1年でできるのかということ。教えられなければプログラミングはパスすることになるだろう。
 現行でも,教科書の内容をどのくらいきちんとやっているか怪しいのが「情報」の現状だ。
 現在,大学入試センター試験に,「情報関係基礎」がある。必修にしているところはほとんどないだろうが(未調査),これをやらせてまともな得点が取れる普通科の高校生はきわめて少ないと思われる。第3問:プログラミングと第4問:表計算が選択になっている。実際,筆者は授業でプログラミングを教えて,この第3問を教材としているが,なかなか満足する結果は得られない。
 将来,センター試験に情報を含めるという動きもある。このままでは,行政側と現場が乖離したまま進むことになってしまうだろう。

おわり