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高等学校「情報」のプログラミングを考察する(3)

高等学校「情報」のプログラミングを考察する(1) は学習指導要領を読む。
高等学校「情報」のプログラミングを考察する(2)は学習指導要領解説を読む。

ここでは,中学校での内容について調べたことを書く。

 高等学校学習指導要領解説「情報編」の32ページに次の記述がある。

ここでは,中学校技術・家庭科技術分野の内容「D 情報の技術」の学習を踏まえたプロ グラミングを扱う。

 これは,その前の
「生活の中で使われているプログラムを見いだして改善しようとする」
の文について,中学校で計測・制御のプログラミングが念頭にあるようだ。そうでないと,生活の中で使われている,たとえば家電でのプログラムを見いだす,となると到底無理な話だからだ。
 したがって,中学校でのプログラミングがどのように行われているかを知る必要がある。

 では,中学校でのプログラミング,すなわち技術家庭の「「D 情報の技術」の学習」はどうなっているのだろうか。
 これについては,中学校の「中学校技術・家庭科(技術分野)における プログラミング教育実践事例集」がある。(令和2年3月)

中学校の新学習指導要領の実施は2021年度からなので,これは2018年度からの移行期間中のものである。
そこでは,次の実践事例が紹介されている。

D(1)の実践事例
事例1:「Society5.0におけるプログラミングの役割とは?」
事例 2:「内視鏡の実習を通して情報機器の発達と私たちの生活について考えよう」
事例 3:「お掃除ロボットに込められたプログラミングの工夫をシミュレーションで探ろう」
事例4「:顧客のニーズに合った無人コンビニプログラムを作ろう」
D(2)の実践事例
事例 1:「AI(人工知能)画像認識技術で社会の問題を解決しよう」
事例 2:「災害時の避難所を想定して問題を見いだし,ネットワークを生かした双方向でメッセージをやりとりできるプログラムで,課題を解決しよう」
事例 3:「チャットを応用して学校や社会の問題を解決しよう」
事例 4:「グループで音楽データを活用できるコンテンツを作ってみよう」
事例 5:「地図コンテンツのプログラミングで防災に関する問題を解決しよう」
事例 6:「自動チャットプログラムで身の回りの問題を解決しよう」
D(3)の実践事例
事例1:「計測と制御で生物育成の未来を拓こう」
事例2:「みんなを幸せにする自動ドアのプログラムを作ろう」
事例3:「計測・制御の技術で医療・介護の問題を解決しよう」
事例4:「計測・制御システムを活用して生活を豊かにしてみよう」
事例5:「世の中にちょっと役立つロボットを製作しよう!お掃除の巻」
事例6:「農業機械の自動化レベルに対応した自動走行農機のシステム開発」
事例7:「安心・安全ホームセキュリティシステムを考えよう」

 タイトルだけではわかりにくいが,たとえば, 
事例 3:「お掃除ロボットに込められたプログラミングの工夫をシミュレーションで探ろう」
 では,掃除ロボットのシミュレータをScratchで用意し,生徒がこれを改善してみる,というものだ。なかなかよくできている。

 その他の実践でも,Scratchの他,なでしこやドリトル,教材に付属の専用言語などを利用している。中には JavaScript を用いたものがあり,用意したものを改善する,ということが書かれているが,どの程度までやったのかは不明である。

 これらの実践ではいろいろな言語が使われている。そこで,「表現するプログラムに応 じて適切なプログラミング言語を選択する」になるのかもしれないが,1つの中学校でいろいろな言語を使った実践をしているとは思いにくいし,教材付属の言語を使ったとなるとそれが,「表現するプログラムに応じて」になるのかどうかも疑問である。湖の教材ならこの言語,この教材ならこの言語,となるのは当然のことであって,選択肢はないからだ。

 このような実践例を見ると,必ず「どの中学校でもやっているわけではない」という反論が出るものだ。確かに,今の,移行期間にこれだけやっている中学校がどのくらいあるのかはおおいに疑問だろう。
 では,旧課程(現行)の「D 情報の技術」の実践状況はどうか。
国立教育政策研究所の平成25年度の調査報告がある。(それより新しいものはない)

これによると,教師質問紙調査で次のような結果が示されている。

(イ)題材
○ 内容「D 情報に関する技術」の「(3)プログラムによる計測・制御」におけ る題材に関する質問では,「走行型ロボット」が44.1%であり,「電気機器」が3 0.0%である。内容Dの題材に関しては,制御する機器によって計測及び制御で きる対象が限られることから,社会における計測・制御の活用へと学習が広がる ような指導の工夫も必要と考えられる。

実習に必要な設備の整備状況は次のようになっている。

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調査の母集団が不明だが,仮に首都圏での調査となると,地方ではここまでいっていないかもしれない。現に,筆者の勤務校の調査では,プログラミングの経験者はほとんどおらず,キーボードにも親しんでおらず,ファイルや拡張子といった基本的な概念もほとんど知らない状況であった。

 結局,高校の新入生に対して,全員にある程度のコンピュータ操作やプログラミングの経験を期待するのは無理だということである。
 中学校で,コンピュータによる計測・制御をやっているといっても,実際にそれが実習として行われてきたということはあまり期待できないのである。