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高等学校「情報Ⅰ」 文科省研修用教材を検証する(2):第1,2,4章

高等学校情報科「情報I」 教員研修用教材をあらためて読む。
第1章 情報社会の問題解決
第2章 コミュニケーションと情報デザイン

については,現行とほぼ同じだ。時代に合わせて,セキュリティなどの用語が細かくなったり,音声のディジタル化にハイレゾが入ったり,データ圧縮にランレングスとハフマンが入ったりはしている。研修教材では演習・学習教材としてハフマン法を使った圧縮がある。(結構面倒)
(光の三原色RGBカラーに対して,色の三原色がYMCKカラーとなっているのは気にいらないが)
情報デザインについては現行より詳しくなっている。

第3章については,これ以降詳しく見る。

第4章 情報通信ネットワークとデータの活用
 無線LANの普及に伴い,そのトラブル対応を含め,用語が多くなっている。情報システムについての用語も多く,知っている人にはどうということはないが,初学者には大変だろう。
 また,内容が深くなったのがデータの処理についてだ。リレーショナルデータベースを使って蔵書目録を使う演習,データのさまざまな表現形式,Web API,キー・バリュー形式のデータの処理などがある。
「量的データの分析」では,回帰分析,仮説検定を表計算ソフトで行ったり,「質的データの分析」では,テキストマイニングがある。「発展」とはなっているものの,RとMeCabを使った形態素解析まで入っている。

 いずれも,高校生には無理ではないかと思われる内容だ。これを2単位の授業で行うのはほとんど不可能だろう。用語だけを上っ面で暗記しても何にもならない。委員になっている大学人や企業人が,高校生の実態を知らぬまま自分の専門分野を盛り込んだのではないかとさえ思える。

 はじめに」の冒頭に,こんなことが書かれている。

全ての生徒がこれらを履修するということは,情報科を担当する教員も,これらの内容について,全て授業を行っていく,ということである。 しかし,これは教員が全てを把握し,知識として理解していなければ,何もできないということではない。今回の改訂では「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の推進」につ いて示されているように,プログラミングなどに慣れ親しむ中で,生徒が主体的に試行錯誤をし, 何を修正していけば良いのかを協働的に解決していく力をつけていくプロセスにおいて,個々の 生徒に寄り添うということである。

「教員が全てを把握し,知識として理解していなければ,何もできないということではない」というのは実態とかけ離れている。知識として理解していなければちゃんとした指導はできない。
 教科書に出てきた用語を,一緒にネットで調べましょう,というのはあり得ない。

「インターネットは大きなごみ溜め」 「インターネットは大きなゴミ溜め(2)」

に書いたが,生徒がネットから検索してきたとき,その内容の是非については教員が知っていなければ判断できないのである。
「浮動小数点数」について調べさせたら,奇妙なことを書いているレポートが多かった。「計算で誤差が発生することを前提とした数値データのことです。」というのである。不審に思って調べたら,最初にヒットしたページにあった。しかも,Qiitta というエンジニアたちが書いているページである。誤差が出るのは前提ではなく結果。メモリは有限なので,無限小数は途中で切らざるを得ない。何桁で切るかによって単精度,倍精度とあるが(C言語でも扱わない限り知らないかもしれない),それは決して「前提」ではないのだ。百歩譲って,「誤差が発生することは避けられないという前提のもとに」であるとしても,「計算で誤差が発生することを前提とした数値データ」ではなんのことだかわからないではないか。

その他,多数。大きなゴミ溜めのインターネットから正しい情報を選び出すには,どれが正しいかを判定できるスキルが必要なのである。それを教員が持っていなければ,とんでもない授業で終わってしまうだろう。

とすると,この研修教材に書かれいることをちゃんと理解しようと思ったら,大学院で1年間勉強するくらいの時間の余裕が必要なのである。放課後は部活で追われるような現職教員にそんな時間があるだろうか。