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【エッセイ】他人を見限るのが苦手だ、という話

 私は、他人を見限るのが非常に苦手である。
 具体的には「見限るタイミングがつかめない」のだ。

 例えば、私の友人で、性格が急変した者がいる。
 なんとなく察するかもしれないが、彼は精神科の薬を飲んで変わった。変わってしまった。
 具体的には「○○政治が悪い」「女は全員俺とセ○クスしたいと思っている」「一番他人に迷惑かける死に方をしてやる」などの汚言・妄想をLINEに垂れ流している。

 一方、俺はと言えば「ヒュー、今日もやってるねぇ!」のれんをくぐりながら居酒屋の大将を見る目で見ていて、彼の暴走を眺めている(俺に迷惑がかかると「それはやめて」と突っぱねてもいるが)。
 一緒にコンビニに酒を買いに行った時など、店員に「20歳以上の証明はありますか?」と聞かれて「俺らのどこが20歳以下に見えるんだ?アア!?」とレジに蹴りを入れて口角から泡を飛ばしながら本気憤怒(マジギレ)していた。普段は大人しい奴なのに。
 そのときは「バイトに噛みついても仕方ないでしょ(アルバイトとBITEをかけたギャグ)」と丸く収めたが、たぶん日常的にブチギレてるんだろうなぁと思っている。

 勘違いしないで欲しいが、精神病の薬を批判しているわけではない。彼はたまたま飲む薬によって人格が躁っぽくなっているのだろう。
 私にとっては迷惑だが、躁のおかげで彼が仕事を続けられたり、余暇を楽しく生きているかもしれないのだ。
 つまり、『彼にとって最善の選択を選んでいる状態』が俺と合わないだけであると言える。

 そう考えていると、見限るタイミングがない。彼は彼で一生懸命なのだ。悪意ゼロの友人なんて嫌う要素がない。
 そも、人間関係なんて移ろうものだ。移ろう関係の中で一時的に仲が微妙になることもあるだろう。つまり『一時的に仲が良くない親友』という存在もあり得る。
 人間同士、向いているベクトルが違う時もあるが、私は『ただ存在して同じ社会で頑張ってるのだろうと想像するだけで助かる他人』を親友と呼ぶ。だったら仲が悪かろうが嫌われようが俺の親友なのだ。

 関係を切るのが上手な方は「私が迷惑を被っているんだから縁を切る!」と思っているのだろう。
 それは正しい。むしろ、そうあるべきだ。まずは自分を守るべきだ。

 私にとってLINEに汚言・妄想が届くのは間違って登録したメルマガだと思えばスルーできるし、酒の席で持論をぶっても「自分もしくは酒に酔ってんなぁ」と聞いていられるから通用する。
 俺にケンカを仕掛けてきたら俺も戦うだろうが、それは「バトル状態の親友」になるだけだ。ケンカを始めた時点で落としどころを考えて、「○○と俺は思うけどケンカしたいわけじゃないからこの話やめない?」くらいの譲歩をするつもりでケンカしている。
 というか、友人を相手にするケンカの99.9%は友人を相手にする理由がなかったりする(仮に政治について論を交わすにせよ政治をやり玉に挙げればいいのであって、友人を批判する意味がない)。仮に友人が裏バイトで生計を立てていると言ってきたとしても「こいつなりに考えた結果なんだろうしなぁ」と思って目をこぼすかもしれない。「なんでそうなったのか」は気になっても、友人を責める気持ちというのはない。

「じゃあ関係が切れるときはないの?」と聞かれれば、ある。
 向こうが一方的に私との関係を切ったときだ。
(つまり、俺から関係を切った友人・恋人は一人もいない)

 これは、私にとって大切な人が少ないからできるのだ。
 友人から届く妄想LINEも、日に100件来ていたら俺もおかしくなるだろう。せいぜいが2週間に1度だから耐えられるのだ。
 大切な人とのケンカも、数ヶ月に一度だから耐えられる。だからある意味、「友人が少ないこと」で逆にリスクヘッジされている。本来少ないならヘッジできてないはずなのだが。

 念のため言っておくが私の器が大きいのではない。
 仲良い人が少なくて、他人の生き方に責任を持たないことを徹底しているだけだ。えっへん。

 ちなみにその友人とは、まれに薬や精神病以外の話をすることもある。その時の友人は昔と同じで、ユーモラスで楽しい。人間なんてそんなものだ。


【後記】
 エッセイが苦手なので意図的に書いている。エッセイウィークだ。酒でも飲まないと書いてられない。それはウィーヒックだ。

 エッセイというものを、この手にわずかに乗せてみたい。なぜならエッセイストを尊敬できるからだ。なんでもそうだが、実際にやってみないと難しさがわからないものだ。

 何にでも影響を受けるのはよくないが、尊敬できるものは多い方がいい。
 小説・レビューなど文章が書ける私にとってはエッセイなんて簡単であろうという助平心もあったが、見事に今作も苦しんでいて、自分に「そら見たことか」と思っている。

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