不定期連載小説『YOU&I』9話
学食へ到着すると、既に多くの学生で席は埋まっていた。
「うわー。やっぱり混みこみだよ。もう少し早く授業が終わってくれてればねー。あの教授、話が長いから」
神田は少しため息をつきながらそうつぶやく。
「そうだねー。……あ! あそこ少しだけど席が空いているよ!」
中野は周りを見渡しながら、空席を見つけた。
「全員一緒には難しそうだけど、半々に分かれれば座れそうね。なら亜希たちは席取っててもらっていい?」
「うん! いいよ!」
すると、
「あ、なら春樹も座ってていいぞ。俺先に買ってくるからさ」
と市ヶ谷が國立に言った。
「い、いや! いいよ。俺が先に買ってくるから、冬真こそ先に座っててよ!」
市ヶ谷が気を使ってくれたのはわかったが、中野と二人きりにはなりたくないので、必死に断ろうとした。しかし、
「あー、席取られそう! いいから、春樹くんと亜希は席早く取りに行って!!」
と神田が二人を無理やり席へと向かわせた。その勢いに押され、國立は中野と共に空席の確保へと向かう。そうして、席に着いた二人。中野は無邪気に、
「何とか席取れて良かったね!」
と國立へと話しかけるが、國立の心臓は今にも弾けそうなほど早く脈を打っていた。
「そそそそ、そうだね……」
またしても不器用な返事をしてしまった國立。
(アホか俺は! 何でこんなに動揺してるんだよ。もっと自然に振舞えよ)
動揺を隠せない自分に対してイラ立ちさえ覚える始末。変な奴だと思われていないか、チラッと中野を見てみると、相変わらず中野は笑顔でこちらを見ていた。
その笑顔を見た國立は、とっさに目線を外す。
(な、何だよ。何でこんなに動揺してるだよ俺は……)
國立の頭の中はパニック状態。
「そう言えば、この前は急に話しかけてごめんね! 驚いたでしょ?」
そんな國立をよそに、中野は笑顔で話しかけてくる。
「こ、この前? あ、ああ。あのカフェのこと?」
「うん! ちょっと驚かせようかなって思って話しかけたんだけど、まさか本を落とすほど驚くとは思わなかったよ」
中野は笑ってそう話す。
(……やっぱり変な奴だって思われてたのかな)
國立の心に小さな針に刺されたような痛みが襲う。
「……お、驚いたよ。まさか中野さんがあそこで働いているなんてね」
そのことを悟られまいと、必死に笑顔を作る。
「そうでしょ? 実は、ちょっと前から私は気づいてたんだよ。でも、中々話しかける機会がなくてね。國立くんって結構あのカフェに通ってるよね?」
「う、うん。本屋が近いし、落ち着いた雰囲気だから読書をするのにちょうどいいかなって……」
「そうなんだね!」
「…………」
(……ど、どうしよう。この次は何て返事をしたらいいんだ? ヤバいぞ……会話が途切れる。何か話さないと)
國立は焦った。しかし、いくら考えても次の言葉が思いつかない。
(ダメだ……何も思い浮かばない……)
そう諦めたとき、
「お待たせー! ご飯買ってきたよ! 席取っててくれてありがとね!」
と神田たちが戻ってきた。神田たちの姿を見て、ホッと胸を撫でおろす國立。しかし、そう思ったのもつかの間、
「なら次は亜希たちはご飯買ってきなよ!」
と神田に言われ、再び中野と二人きりにさせられてしまった。
(おいおいおい! もう何にも話すことないぞ! 最悪だ……)
國立は再びパニック状態へと陥った。
▶To be continued
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