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30日間の革命 #毎日小説19日目

 情報処理部の部室は、もともとは備品室であり、3~4畳ほどの小さな部屋である。部室に入ると、神原以外に3名の情報処理部員がおり、パソコンでゲームをしているようだった。

 「ここに座ってください」

 神原は空いているイスに加賀を座らせて、自席へと戻っていった。

 「ありがとう。しかしきれいな部室だね」

 「そうですか? ありがとうございます。で、パソコンについて何を聞きたいんですか?」

 なるべく会話を広げようとする加賀に対し、神原はそれを嫌った。

 「そ、そうだね。っていうかその前に、俺たち同じ学年なんだからさ、敬語じゃなくていいよ」

 「……まあそれもそうですが、まだ知り合ったばっかりなので僕はしばらく敬語を使います。なので、気にせずパソコンについて質問してください」

 加賀は少し焦っていた。ファーストコンタクトでは軽い世間話でもして、その人となりを知ることが目的だった。なので、ここまで直球で聞かれるとは思っておらず、たいして質問を考えていなかったのである。

 「えと、そうだね。パソコンについて聞きたいというか、神原君がどれくらいパソコンに詳しいかを聞きたいんだ」

 このまま会話をはぐらかしても進展がないということを、森下の勧誘時に学んでいた加賀は、自分の思っていることを素直に話した。

 「え、僕のことですか? ……なんで僕について知りたいんですか?」

 「今ちょっとやりたいことがあってね。それには神原君の力が必要かもしれなくてさ」

 「なるほど。それであなたの御眼鏡に適えば、僕に協力しろという訳ですね」

 「いやいや、そんな上から目線のお願いじゃないよ。だからこそ、まず神原君のことを知りたいと思って、今日は話にきたんだよ」

 「……でも、その”やりたいこと”ってのは、恐らくこの場では話せないんでしょ?」

 察しの良い神原は、加賀の言う”やりたいこと”が普通ではないということをこの会話だけで読み取った。

 「いやー、察しがいいね。ごめんけど、そこまでは言えないんだ。でも、ずっと言えない訳じゃなくて、今はまだ言うべきじゃないかと思っているだけ」

 「……そうですか。まあ無理に聞こうとも思わないので、安心してください。ただ、加賀君が私にどういった能力を求めているかは聞かせてください。じゃないと質問が漠然としすぎていて、答えようがありません」

 「そうだね。うーん。例えばハッキングとかはできるの?」

 加賀の質問に神原は思わず目を丸くした。

 「……はい?」

 「ハッキングだよ。誰かのパソコンに侵入したりとかさ」

 「……あなたは犯罪でもやろうとしているのですか?」

 「いや違う違う! でも情報処理部ってそれくらいできそうかなと思って」

 「……加賀君、君は漫画の読みすぎだよ。情報処理部にそんな能力を持った学生はいないよ」

 「え、そうなんだ。じゃあ情報処理部って何やってるの?」

 加賀の突拍子もない質問に、神原はため息をつきながら答えた。

 「情報処理部ってのは、簡単に言うと、検定合格のための練習が主な活動ですよ。情報処理検定とかね。まあたまにホームページとかの作成もしていますが、ほとんどが検定に向けた練習です」

 「へー! ホームページとかも作れるんだ!」

 「あの、僕の話を聞いてました? それはたまにであって、主な活動は検定に向けた勉強ですよ」

 「うん、聞いてた聞いてた。でもやっぱ情報処理部凄いじゃん! いやー、良いこと聞けたよ」

 「あの、勝手に盛り上がらないでくれますか?」

 「今度さ、また遊びにくるよ。そしたらまたパソコンのこと聞かせてよ!」

 「……別にいいですけど」

 「よし! ならさ、俺もいつかやりたいこと話すから、神原君もいつか敬語やめてね!」

 「……わかりました」

 「なら、今日は帰るよ! 急に押しかけて悪かったね!」

 そう言い残し、加賀は部室を後にした。加賀のいなくなった部室には、まるで嵐が過ぎ去った後のような静けさに包まれていた。

 「あれ、生徒会の副会長ですよね? なんか凄い能天気な方でしたね」

 部室にいて、今のやりとりを聞いていた情報処理部の後輩が、神原に話しかけた。

 「うん。だいぶ能天気だったね。まあでもそれが彼の人気の理由なんだって少しだけ理解できたよ。また変なのに目をつけられてしまったね」

 加賀は満足そうに帰路についていたーー


▼30日間の革命 1日目~18日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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