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不定期連載小説『YOU&I』55話

「俺が代わりに旅行に行こうかな」

大久保は冗談っぽく笑ってそう話した。大久保は気づいたからだ。國立が中野のことを好きだということを。

ほんの小さな機微でも大久保は見逃さない。これは、今までの経験で培ったものだった。中野の話しを出したときの國立の表情や仕草、声のトーン。また、小金井から聞いていた事前の情報。

それらを総合的に考えると、國立が中野に対して恋心を抱いていることがすぐにわかった。

だからと言って、悪意を持ってそう言ったのではない。大久保自身も中野に一目惚れをしており、國立の気持ちもよくわかる。それに、今まで大久保の周りにもこのような男友達がいたことがある。

大久保は、恋心を抱きつつもそのことに素直になれない國立のことが可愛く見えた。そして、応援してあげたいとも思った。

ただ、決して中野のことを諦めるということではない。國立が素直になれるように応援しようと考えたのである。

そんなことを知らない小金井は、

「え? 先輩も旅行行きたいんですか?」

と大久保の話しを真に受けた。

「いやー、そら行けたら嬉しいけどね」

と大久保が答える。このとき、大久保は冗談半分であった。もちろん中野と旅行に行けるならそれに越したことはないが、まだ一回しか会ったことのない男がいきなり旅行に一緒に行きたいなんて言えば迷惑なことくらい理解している。

「……この車、6人乗れますよね?」

しかし、小金井は真剣な表情で大久保へと質問をする。

「え? ま、まあミニバンだから、最大8人までは乗れるけど?」

「それですよ!!」

小金井は大久保の答えを聞いて何かを閃いたようだった。この小金井の閃きは、あまり良いものではないなと國立は直感し、苦い顔をする。

「どういうこと?」

「先輩も旅行行きたいんですよね? そしたら、もし良かったら車出してもらえませんか? 私達、何とか節約して旅行に行けないかって考えていたんですよ。春樹もお金のことを心配しているみたいだし。あ、もちろんガソリン代とかは払います! どうですか?」

何とも強引な提案である。旅行に行く交通費を浮かせるために車を出してくれなんて、流石に迷惑だと國立は思った。なので、

「おい立夏! 流石にそれは大久保さんに迷惑だろ。ちょっとは考えて話しをしろよ」

と、注意をするように話した。しかし、

「……いや、それいいかもね!」

と大久保は國立の予想に反してその提案を受け入れたのだった。

「え?」

「いや、全然いいよ! むしろ、そんなことで中野さんたちと旅行に行けるならお安い御用だよ!」

「本当ですか! 良かった! なら、今度亜希たちと旅行の話しで集まる予定なので、先輩も一緒に来ませんか? そこでこのことを提案しますよ!」

「いいね! いつでも呼んでくれよ!」

大久保はニコニコして答えた。

(な、何なんだこの人は……)

國立は大久保の勢いに気圧されていた。

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