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不定期連載小説『YOU&I』12話

店内へと足を進めた國立。辺りをキョロキョロと見渡しながらレジへと進む。

(……やっぱり今日は中野さんいないな)

と一安心し、コーヒーを一杯頼み席へと着く。

(現実はこんなもんだよ。やっぱり俺が意識しすぎているんだ。もうちょっと落ち着こう)

コーヒーを飲みながら、心の中でそうつぶやく。というのも、内心どこかで”中野がいるんじゃないか”という期待もあった。ここでバッタリ会うくらい、自分たちは何か縁があるのではないか。無意識のうちにそんなことが頭にもよぎっていたが、現実ではそんなことはない。

それからは、いつも通り一人で席につき、コーヒーをゆっくりと飲む。時間はゆっくりと過ぎていき、店内に流れているBGMも國立の心も落ち着かせていく。

(……うん、何か落ち着いてきた。何か一人で盛り上がってバカみたいだったなぁ。これからは中野さんに会っても普通にしよう)

そうして、それから1時間ほど店内で本を読み、コーヒーを飲みほしたところで退店する。店を去る間際、いないと分かっていても、中野のことを少し探してしまう自分がいることに、自分自身でも気づいていなかった。

それから一週間、中野と全く会わない日々が続いた。大学では、同じ授業をとっているのは1つだけ。カフェに行っても、シフトの関係なのか中野がいることはなかった。

「……意識すると会わないもんだな。まあでも、これでいいんだよ。てか、今までがそうだったんだから、当たり前か」

中野と会えない日々に、どこか心に物足りなさを感じていた國立だが、自分自身を無理やり納得させる。

中野とは会わなかったが、その間市ヶ谷と神田は更に仲を深めていた。市ヶ谷とは、暇さえあれば一緒にご飯を食べ、授業終わりには買い物なども一緒に行く。以前は市ヶ谷に対しても少し気を使っていたが、最近は良い意味で気を使わなくなり、距離も縮まっていた。

神田とも、市ヶ谷と一緒にいるところに出くわすと、一緒にご飯を食べたり買い物に行ったりと3人で行動することも度々あった。

2人とも、とても親切で明るく親しみやすい。國立にとって、初めて大学生活が楽しいと思えた一週間だった。

そして再び迎えた授業の日。中野と会うのは1週間ぶりということで、國立は意識せざるを得なかった。

(……普通に振る舞おう、普通。普通に)

國立まるで呪文のように“普通に”と心の中で繰り返していた。

教室につくと、市ヶ谷と神田が既におり、まだ中野の姿は見えない。

(……中野さんはまだ来ていないのか)

そう思った瞬間、

「春樹くん! おはよ!」

と後ろから肩を叩かれる。その声にドキッとし、振り返るとそこには中野がいた。

「お、おはよう……」

「今日もよろしくねー!」

中野はそう言うと、元気に市ヶ谷たちの方へと歩んでいった。その後ろ姿を見ながら、

(よ、よし。今日こそは普通に振舞うぞ)

國立はぎゅっと拳に力を入れる。そして中野たちの席へと向かった。

▶To be continued


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