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不定期連載小説『YOU&I』30話

「小金井立夏だよ」

そう彼女は答えた。

「そ、そっか。……よろしく……」

國立は勢いで名前を聞いたものの、その後のことは何も考えていなかったので何て返答すればいいのかわからなくなった。

「で、何でそんな寂しそうにしてたの? 教えてよ!」

対する小金井は、また顔をキラキラとさせて國立へと質問をした。

「い、いや、そんな会ってすぐの人に言える訳ないでしょ」

「えー、いいじゃん。もうお互いの名前も知ってるんだしさ。恥ずかしがらずに言っちゃおうよ。そっちの方が楽になるよ?」

「いやいやいや、名前を知り合ったくらいでそんな急激に仲良くなるわけじゃないでしょ。……大学とかでも会ったことないよね?」

「うん、今日初めて春樹のことを見たよ」

(何で初対面でいきなり下の名前で呼ぶんだよこの子は……)

小金井は、何のためらいもなく國立のことを下の名前で呼んでいる。國立自身、馴れ馴れしい人は得意ではなかったが、小金井はどこか小学生と話しているような感覚で嫌な気持ちにはならなかった。

「あの、小金井さんは何学部の人?」

「経済だよ」

「なら一緒だ。ち、ちなみに誰の知り合いなの?」

「誰ってどういうこと?」

「い、いや。今日は中野さんの引っ越し祝いっていう名目での集まりでしょ。誰かと知り合いなのかなと思って」

「そんな名目だったの? 知らなかったよ。中野さん?って人も知らないよ」

「そ、そうなんだ。じゃあ、友達に誘われてついて来たって感じ?」

「ううん。友達も知り合いもいないよ」

「……は?」

小金井の回答に國立は思わず目を丸くした。友達も知り合いもいないとなれば、何でここにいるのか。小金井の言った意味が全く理解できなかった。

「え、えーと、今ここに小金井さんの友達とか知り合いはいないってこと?」

「うん。あ、でも春樹とはもう知り合ったから知り合いがいないわけではないかな」

「あ、いや俺のことはいいんだけど……。もしかして、友人が何かの理由で来れなくて一人で来たとか?」

「ううん。最初から誰も知り合いじゃないよ」

「は? じゃあ何で今日ここにいるの?」

「何か楽しそうな集まりだったからついて来たんだよ」

「……え? は? どういうこと?」

「だから、ただついて来ただけだよ。コンビニ寄ったらさ、何か大人数の集まりを見つけてさ。大学の近いから、多分同じ大学の人かなと思って最後尾について行ったんだ。そしたら何かそのまま店まで連れてかれて、気づいたら席まで座らされてね。まあ楽しそうだし、ごはんも食べれるからいいかなと思って」

つまり、小金井はこの場に知り合いがいた訳でもなく、誰かに誘われたわけでもなく、何となくついて来てここにいるのだった。この話しを聞いても國立は全く理解できずにいた。

「待って待って。じゃあ君は誰も知り合いがいないのに、勝手についてきて今ここでご飯を食べてるってこと?」

「まあ簡単に言うとそうなるね」

「ちょ、ちょっと待ってよ。常識的に考えておかしいじゃん。そんな知らない人の集まりについていってご飯を食べるとかどうかしてるよ」

「うーん。私もここまで来るつもりはなかったんだけど、何か巻き込まれたっていうか、店員さんに案内されちゃってね。まあでも、一人くらい知らない人がいたって大丈夫でしょ?」

「いやいやいや。大丈夫じゃないでしょ。流石に誰か気づくよ。『あいつ誰だ』って」

「まあ別に隠れてついてきたわけじゃないから、別に気づかれてもいいんだけどね。あ、タダ飯を食いにきたわけじゃないからね。ちゃんとお金は払うつもりだよ」

「いや当たり前でしょ。そんなことじゃなくて、知らない人が参加してたなんてことになったら、皆も困惑するよ」

「えー、そうかな。だってさ、春樹だってしばらく一人で座ってたじゃん?」

小金井のこの一言が國立の胸に突き刺さった。

▶To be continued

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