不定期連載小説『YOU&I』29話
「ねえ、君名前は何て言うの?」
ふいに話しかけられた國立は驚いた。そして顔を上げると、話しかけてきたのはどうやら前の席に座っている女性らしい。
彼女のことは大学でも見たことはなく、完全なる初対面であった。
「え? お、俺のこと?」
こちらをじーっと見つめる彼女に國立は少し焦りながら答える。
「うん。あなた以外いないでしょ」
「そ、そうだよね。え、えーと、國立春樹です」
「ふーん、春樹ね。分かった」
“分かった”とは何が分かった國立にはわからなかったが、彼女はどこか納得しているようだった。
そして、その後は納得した様子でご飯を食べ始め、会話が終わってしまう。
(え? 名前聞いただけ? 何なんだこの子は?)
突然の出来事に焦る國立。その後も彼女は凄く美味しそうにご飯を頬張り続けるので、國立から質問をすることにした。
「あ、あの。何で名前を聞いたのかな?」
その質問に彼女は食べる手を一旦止め、口の中のものをしっかりと飲み込んでから話し始めた。
「特に理由はないよ。何か一人で寂しそうな顔をしてたから、話しかけようかと思ってね」
「え? それだけ?」
「うん。それだけ」
以外な回答に、國立は困惑する。そして、一人で寂しそうにしてたということを見抜かれていたことに少し恥ずかしさを感じた。
「あ、あの、寂しそうって、別に寂しくはないけど……」
恥ずかしさから、何とか誤魔化そうとする國立。
「そう? 何か顔から寂しさが漂っていたけど、見間違いならごめん」
その答えに、更に國立は恥ずかしくなる。いきなり図星をつかれたことで少しムキになった國立は、
「そうだよ。別に寂しくないし、いきなりそんなこと言うのは失礼じゃないかな」
と珍しく少しだけ強めの口調で話した。
「お、ごめん。怒った?」
今まで人に対して怒ったことがない國立は、謝られたことで少しだけで罪悪感が生まれる。
「べ、別に怒った訳じゃないよ。……ま、まあ寂しくはないけど、少しだけそういう気持ちだったのは事実だし」
その罪悪感から、つい本音が少しだけ漏れてしまった。
「やっぱりそうだったんだ! ねぇ、何で寂しかったの? 教えて!」
それを聞いた途端、彼女は身を乗り出して國立に質問をしてきた。
(な、何なんだこの子は一体……)
彼女の独特のペースに全く対応出来ない國立。それでも、“市ヶ谷達が自分がいなくても楽しそうにしていることに拗ねている”なんてことを言える訳もなく、
「ち、ちょっと。まずはさ、こっちも名乗ったんだから、君の名前も教えてよ」
と、会話を変えることが精一杯だった。すると彼女はまた納得したような顔になり、
「そっか。それもそうだよね。私の名前は小金井立夏だよ」
「り、りっか?」
「そう。立つに夏で“りっか”。よろしくね、春樹」
そう言った彼女の笑顔はまるでひまわりのようだった。
▶To be continued
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