30日間の革命 #毎日小説16日目
それからしばらく、加賀と手崎は対局を続けた。将棋はゲームで何度かやっており、少しくらいは善戦できるかと思っていた加賀だったが、結果は惨敗だった。
「あれ? これってもしかして、もう詰んでる?」
「はい。詰みですね」
「さすが将棋同好会だね。やっぱ強いよ」
「いえいえそんな。先輩が弱いだけですよ」
「ははっ……。それはどうもすいませんね」
加賀は、手崎の素直な言いぶりにはやはり苦笑いで返すのが精一杯だった。
「先輩、ひとつ聞いてもいいですか?」
「うん? 何?」
手崎はどうしても気になっていた。なぜ、自分に話しかけてくれたのか。変わり者で友達もおらず目立たない自分に話しかけてくれ、今日も一緒に将棋をしてくれた。その理由がわからなかった。普段は思ったことがすぐに口にでるのに、今回はなぜか喉元で言葉がつまる感覚を覚えた。
「……将棋、好きなんですか?」
出てきた言葉は、自分が聞きたいことではなかったことに、手崎自身が一番驚いていた。
「将棋ね。まあ好きってほどでもないけど、今日は楽しかったよ。ていうか、ゲームじゃなくて人とやったのは本当に久しぶりだったかも。だからさ、また遊びに来てもいい?」
思いがけない加賀からの返答に、さらに手崎は息が詰まった。なんで、この人は、私なんかにかまってくれるのだろうか。聞いてしまえば早いのに、どうしてもその質問をすることが出来なかった。
「……はい。毎日図書室にいるので、良かったらまた対戦しましょう」
そう言うのが精一杯だった。
「ありがと! なら、今日は帰るよ。またよろしくね」
そう言い残し、加賀は図書室をあとにした。手崎は、いつもと違う自分を感じ、しばらく席に座ったまま離れることができなかった。
「小春なら、もうここで革命の話をするんだろうけど、やっぱり俺にはまだできないな」
加賀は帰り道、どうやって革命の話を切り出せばいいのか考えていた。
「まあでも、まだ手崎さんを誘うって決めた訳じゃないしね。あと2人くらいピックアップしてから考えればいいか。となると、次に気になるのは3年2組の神原だな。奴は確か情報処理部で、かなりパソコンとか詳しいみたいだし、うちにもIT系の人材も必要だろう」
そう考え、次は隣のクラスの神原彰人に声をかけることにした。そして翌日、加賀は2組に出向き神原を探したが、彼の姿は見えなかった。
「どうしたの?」
話しかけてきたのは、2組の仙波美波だった。仙波と加賀は、2年生の時に同じクラスで何度か話したことがあった。
「ああ仙波さん、ちょうどよかった。神原くんって今いない?」
「神原くん? 彼、昼休みはいつも情報処理部の人たちと部室でご飯食べてるよ」
「そうなんだ。どうしよっかなー。部室まで行くのもな……」
「何か伝言しておく?」
「いやいや、こっちの話だから大丈夫! ありがとね!」
そうして、加賀は自分のクラスへと戻っていった。その後ろ姿を仙波はじっと見つめていたーー
▼30日間の革命 1日目~15日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!
takuma.o
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