不定期連載小説『YOU＆Ｉ』５２話

「しかし先輩が亜希に一目惚れするなんてね」

小金井は電話を切ったあと、そうつぶやいた。大久保から突然告げられた中野への一目惚れ。もちろん、大久保はお世話になっている先輩なのでこのことを応援しようと思っている。

が、今はそれよりも國立と中野の仲についてが小金井にとっては大事なことであった。

「うーん。とりあえずあの二人の仲をどうにかしないことには、旅行も楽しめないしなぁ。とりあえず大久保先輩には春樹と会ってもらおうかな」

小金井は、中野に続いて大久保と國立を会わせることを考えた。

その数日後、学校で國立と会った小金井は、

「春樹！　またあのカフェに行かない？」

と声をかけた。もちろん理由はそこで大久保に会わせること。

「ごめん、あのカフェ最近行ってないんだ。ほ、ほら、そんな安くないだろ？　お金がかかるしさ……」

國立はそう言って小金井の誘いを断る。もちろん、理由はあのカフェに行きたくないからだ。あそこに行けば、中野に会う可能性も高くなる。あれからあのカフェには近づかないようにしていた。

そして、お金がないということを周囲に言うことで、旅行を断る理由もさり気なく広めようともしていた。

「そっか。ならさ、お金のかからないとこならいいの？」

簡単には引き下がらない小金井。國立へそう質問をする。お金を理由にしてしまった國立は、それを断ることが出来ず、

「ま、まあお金がかからないなら……」

と返答する。

「わかった！　ならさ、明日の学校終わり予定空けといてくれる？　お金がかからないように遊びに行こう！」

小金井はそう言って笑顔で去っていった。國立はどうすることも出来ず、

「はは……」

と苦笑いで手を振った。

翌日、学校終わりに國立を待っていたのは大久保の車だった。助手席に乗っている小金井が、

「乗って！」

と笑顔で手を招いているが、國立はその場に立ち尽くした。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。これ一体どういうことだ？」

「あ、いきなりごめんね。こちら、私のバイト先の先輩の大久保さん！」

「あ、どうも……。っていうか、どういう状況なんだ？　俺はこれからどこに連れて行かれるんだよ」

「ほら、お金がかからないようにってことで、ドライブだよ！　私は車持ってないから、先輩ニ頼んだんだ！」

「いや、そんなの申し訳なさすぎるだろ！　俺らのためにわざわざ車出してもらうなんて」

國立がそう言うと、

「いやいいよ！　俺も立夏のためならこれくらいお安い御用だからさ。そんなところに立ってないで早く乗りなよ！」

と大久保が声をかけた。

「え、あ、はい……。では失礼します」

大久保にそう言われたら乗るしかないので、國立は戸惑いながらも後部座席へと乗り込んだ。

大久保が車を出したのは、善意だけではない。昨日、小金井から國立と会って欲しいと頼まれたとき、その代わりに中野に彼氏がいるかどうかの情報を調べることをお願いしていた。だから大久保は快く車を出していたのだった。

こうして、３人の奇妙なドライブが始まった。