不定期連載小説『YOU&I』8話
「おはよー!」
その声に國立の心臓は大きく脈を打った。
「あ、亜希! おはよー!」
神田は笑顔で挨拶を返す。そう、その声の主は中野だった。
「おはよう。今日も元気だな、お前」
市ヶ谷が少しいじわるにそう言うと、
「元気なのはいいことじゃん! 私は毎日元気だよ!」
と、中野は笑顔を見せて答えた。
「あ、國立くん! おはよー!」
中野は國立の姿を見つけると、同じく笑顔で挨拶をする。
「……お、おおおはよう……」
國立は動揺してしまい、おぼつかない返事をしてしまう。
(し、しまった。何か意識しすぎて変な言い方をしてしまった……。変な奴だって思われたかな……?)
國立はそう思ってしまい、中野の顔を見ることは出来なかった。
「ちょっと亜希聞いてよ! この二人ったらさ、急に仲良くなっちゃって、もう下の名前で呼び合ってるんだよ。だから私も今日から國立くんのことを春樹くんって呼ぶことにしたんだ」
「えー! そんなのずるいよ! だったら私も春樹くんって呼ぶ! ……いいよね?」
中野はそう言うと、國立の顔を覗き込むようにして問いかけた。
「! ……べ、別にいいけど……」
「やった! ならこれからもよろしくね! 春樹くん!」
「……よ、よろしく……」
國立はそう言うと顔を隠すように横を向いた。自分が今どんな顔をしているのか。自分でもわからないのに、中野に見られるわけにはいかなかった。
「おいおい、あんまり変に絡んで春樹を困らせるなよ。それよりも、課題についてちゃんとやってきた?」
市ヶ谷は國立の様子を見て困っていることを察し、話題を変える。國立もそのことに気づき、ありがたい反面恥ずかしくもあった。
そうして授業あっという間に終わりを迎える。
「あーやっと終わった! お腹空いたからさ、今日も学食でも行く?」
神田がそう提案すると、
「いいね! 今度こそ春樹くんも一緒にどうかな?」
中野が國立に笑顔で問いかけた。國立はその質問に答えられず、少しの間固まってしまう。
「……何か予定あったら無理しなくていいぞ?」
その様子も察して市ヶ谷がそう言ってくれたが、
「い、いや、だ、大丈夫! ごめんちょっと考え事してて固まっちゃったよ。せっかくだから一緒にいいかな?」
國立の本心としては、中野と一緒に食事はしたくなかったが、これ以上市ヶ谷に気を使わせるわけにはいかないと、一緒に学食へ行くことにした。
学食へ向かう途中も、
「……本当に大丈夫か? 嫌なら嫌って言っていんだからな?」
と市ヶ谷は気を使ってくれたが、
「全然! むしろ、こうやってみんなとご飯食べること少なかったから、嬉しいよ」
と國立は笑顔で返した。半分本心で半分が嘘である。今まで一人で昼食をとることしかなかった國立にとって、皆と食事が出来ること自体は嬉しかった。しかし、そこには中野がいる。まだ中野と知り合ってから数日しか経っていないが、彼女がいるとなぜか自然でいられない。
どう話していいのか、どう笑っていいのか。
全くわからなくなる。そして、それがなぜだか自分ではわからなかった。
そんなことを考えている間に國立達は学食へと到着した。
▶To be continued
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