30日間の革命 #毎日小説14日目
(いたいた。しかし、毎日あんな感じで一人で将棋やってんのかな?)
加賀は、図書室の角で一人将棋をさす彼女を見てそう思った。
将棋同好会は、5年前に将棋が好きな生徒で作られた同好会である。噂によると、一昨年には6人ほどのメンバーがいたそうだが、次第に人数が減っていき、今は手崎のみとなっている。
加賀はとりあえず近くの席に座って様子を見ることにした。しかし、20分以上経っても、彼女は変わらず黙々と将棋の本を片手に将棋をさし続けていた。
(うーん。このまんまだと、何の収穫もなさそうだな。やっぱり話しかけなきゃだめか)
加賀は思い切って話しかけることにした。いきなり上級生に話しかけられれば、驚かれるか、凄い動揺をあたえてしまうかもしれないと思った加賀は、慎重に、穏やかに話しかけた。
「あの、急に話しかけてごめんね。いつも一人で将棋やってるの?」
しかし、彼女の反応は加賀の予想を大きく裏切った。一瞬だけ、加賀のことを見て、目を逸らしたのだ。加賀は戸惑った。
(え? 俺いま無視された?)
彼女は変わらず将棋盤に向かっている。動揺したのは加賀の方だった。無視をされることは想定していなかったので、次の言葉が思い浮かばなかった。加賀は、そのまま手崎の正面の席に座った。手崎は変わらず、本を片手に将棋を指している。二人の間には少し重い沈黙が漂った。
3分ほどすると、手崎が急に口を開いた。
「ごめんなさい! 無視をするつもりじゃなかったのですが、大事な局面だったので手を離せなかったので無視してしまいました!」
少し焦った様子を見せる手崎。
「いやいや、こっちこそ大事なときに話しかけてごめんね」
「いえいえ、私が悪いんです。興味のないことは後回しにしてしまう癖があって、いつも先生とか親にも怒られています……」
「そうなんだ。ま、まあ好きなことに集中できてるってことなんじゃないかな」
逆に動揺をしたのは加賀の方だった。
「あれ、もしかして3年の加賀先輩ですか?」
「そ、そうだけど? 俺のこと知ってるの?」
「いえ、よくは知りませんが、生徒会の副会長ですよね」
「そっかそっか。俺副会長だったね。忘れてたよ」
「え、忘れてたんですか? 意外と抜けていますね。そんな副会長が、急にどうしたんですか?」
(この子もペース掴みにくいな……)
加賀は心の中でそう思った。
(坂本はいつも核心をはぐらかすし、森下はいつも直球で聞いてくる。そして、この子は思ったことをそのまま口にするタイプみたいだし。余計に大変になりそうだな。まあもともと将棋同好会を一人で続けているってことに興味をもっただけだし、今回は見送るかな)
加賀は手崎に対する興味が薄れていくのを感じていた。
「いや、一人で将棋やってるのが気になって思わず話しかけちゃっただけだよ。ごめんね邪魔しちゃって。なら俺は帰るよ」
加賀は足早に立ち去ろうとした。
「そうだったんですね。先輩に話しかけられて嬉しかったので、また良かったら図書室に来てくださいね!」
(素直な子なんだろうけどね)
そう思いながら、加賀は図書室を後にした。そして翌日、そのやり取りを坂本に話した。
「へー。面白そうな子じゃない。メンバー候補だね」
「えー! ちょっと待ってよ。何というか、彼女ちょっと変わり者っていうか、思ったことを口に出しちゃうタイプだからさ、革命のことも絶対秘密にできないって」
「素直なことは良いことよ。時にはそういった素直さが、世の中を変えることだってあるかもしれないし」
「いやー。彼女は世の中を変えるというより、空気を変えるくらいしかできないんじゃないかな。それも悪い方向に」
「まあとにかく候補は候補ね。このまま接触し続けて、セトが良いと思ったら勧誘していいよ。人事はセトに任せるから」
「え、本当? いいの俺にそんな大役任せちゃって」
「もちろん。セトは私や森下君よりも多くの人と関わっているし、それに人間関係とかをちゃんと見れる目を持っていると思うの。だからセト以外に適任はいないよ」
思いがけぬ坂本の言葉に、加賀は心の底から湧いてくるやる気を感じた。
「そっか。なら、頑張るしかないか! まあ引き続き手崎さんの様子を見つつ、他にもいい人いないか探してみるよ」
(やっぱり小春にはかなわないな)
そう思いながら、加賀は再びメンバーを探すために動きはじめたーー
▼30日間の革命 1日目~13日目
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takuma.o
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