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不定期連載小説『YOU&I』63話

「もしもし、國立くん? 大久保だけど」

電話の相手は大久保だった。

「え、あ……く、國立ですけど……」

國立は電話に出たことを後悔した。まさか大久保から電話がかかってくるとは思っても見てなかったからだ。しかも、今日は旅行の当日。なんのために連絡してきたのか分からない。

「急にごめんね。いやさ、國立くんが旅行に来ないって俺は今日知ってさ。……どうしたのかなって思って連絡してみたんだ」

大久保は國立が旅行に来ないことを当日知らされていた。そして、國立のことが気になり電話をしたのだと言う。

「……ちょっと体調崩しちゃって。すいません、心配をおかけして」

國立は早く電話が切りたかったので、そうやって誤魔化してみせた。

「……そうなんだ。じゃあ、もう諦めるってことでいいんだね?」

「え?」

大久保の不意な質問に國立は驚く。

「諦めるって何をですか?」

「……中野さんのことだよ。國立くんのことだから、旅行に来なかったってことは、もう諦めるってことかなと思ってね」

「ち、ちょっと待ってください。何の話ですか?」

國立は中野のことを聞かれ動揺する。

「もしかしたら、國立くんと今後は関わることがないかもしれないから言っておくけど、俺は中野さんのことが好きなんだ。ほら、前にも一目惚れしたって言ったろ?」

「そ、それが何なんですか。僕には関係のない話じゃないですか」

「……そうかな? 國立くんも中野さんのことが気になっていたんじゃないの?」

核心をつかれた國立は言葉が出てこなくなった。

「……まあいいけどさ。俺はそう思ったから正々堂々と勝負をしたいと思ってたんだけど、國立くんが勝手に試合から降りるからさ。なーんかやるせなくてね。だから、せめて最後に話だけでもしようかなと思って電話しただけ」

「……」

「俺は中野さんに告白するつもりだからさ。念の為伝えておくよ。ま、振られるかもだけど、俺は自分の気持ちに嘘はつきたくないから」

「……」

「……とんだお節介だったかな。ごめんね。でもさ、國立くんを見ていたら、凄い無理してそうな気がしてね。なんか意地悪したみたいで傷つけてたら申し訳ない」

「……」

國立は変わらず何も言えずにいた。確かに大久保は意地の悪い人だと思っていた。どこかで自分の気持ちを見透かされているような気もしていた。しかし、大久保なりに自分のことを気にかけてくれてのことだったということに気づいた。その優しさがとても辛く感じ、何も言葉が出てこない。

「……急に電話で変なこと言ってごめんね。俺は國立くんのこと、嫌いじゃないから。これからは少しずつでも自分の気持ちに正直になれるといいね。なら、電話切るよ」

「……あ、ありがとうございました……」

最後に出てきたのはその一言のみだった。

「うん、なら元気でね」

そうして電話は切れた。

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