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三つの国の魔法使いのチャイーその2

⁂インドのパヴァンのチャイ

風に冬がちらつく透きとおった早朝、ヨガが2人を繋げた。トルマリンのような彼女の瞳に朝日がちりばめられていく様は美しくて幽遠で、ガンガの水面とも重なるそれは今も瞼のうらで鮮やかに私をときめかせる。

滔々と私たちはそれから14日間を共にした。

18で祖国を出たときから私は自分の心が伝えるままに生きてきたと古傷を懐かしむように、誇らしげに彼女は話す。

”ねえ、チャイ飲もう”

それが私たちの胸の内をさらけ出し受け入れあう時間の合図だった。

彼女は冒険と同じくらいシンプルを愛した。

”チャイってスパイスをわんさか入れて香りだたせればいいってもんじゃないと思うんだよね。人生と一緒。詰め込めばいい、手を伸ばしまくればいいってもんじゃない。本当に必要なものって案外少ないもんでしょ。”

・1カップほどの水にカルダモン3粒、生姜をひとかけら、クローブ2粒を砕いて沸騰させる。

・CTC茶葉を大さじ1.5-2とジャグリ(インドの未精製のさとうきび糖)を大さじ1-2をいれ、シナモンパウダーを好みの量いれてさらに煮立たせる。色も香りも濃く出てきたらミルクか豆乳を2カップほど入れる。(チャイの色になったらできたってことでいいの、とパヴァンは言う)

ピリッと辛い深みのあるチャイはパヴァンそのもので、私の頬と心は彼女のシンプルさにほどかれる。個性とりどりのスパイスが衝突と譲歩をくりかえして調和していく様を愛でる私と、チャイに対する価値観はいつまでも平行線のままだったけれど。

”あってもなくてもいいものは、ない方がいい。”幾度となく彼女の舌がすべらせたこの言葉は、スパイスにのびる私の指先を時たま弾く。