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三つの国の魔法使いのチャイーその3

⁂ノルウェーのヴィッテのチャイ

彼女は私の友達の夏の代名詞のような友人だった。多くのノルウェー人はサマーコテージで過ごすのを好むらしく、彼女は夏の間のご近所さんであったから。

森が湖が果てしなく大らかに、ただ在るそこでは、彼女らにとって服をまとうことすら自分といま解け合おうとする自然に対しての礼儀に反するようだった。

私たちは生まれてきた瞬間の姿に還り、

ひたすらに、ただひたすらに命が喜ぶままにそこで生きた、のだと思う。

ミルクのようにとろけるように目覚めた朝の私たちのマグは、いつもコーヒーではなくチャイで満たされた。ヴィッテのチャイは特別だった。いつも小瓶の中でひっそりとその出番をまっている。

なぜ小瓶にペーストを作ってるのかと尋ねたら、返ってきたのは"そりゃあもう、ありったけの芳醇な香りがこれでもかってくらい鼻孔をくすぐってほしいから!"というなんとも愛らしい理由だった。

・カルダモンホール、おろした生姜と同じくおろしたターメリックそれぞれ大さじ1、スターアニス5粒とクローブ4粒、フェンネルシードとクミンシードそれぞれ小さじ1、シナモンスティック2本 すべて砕く

・はちみつとレモン汁それぞれ大さじ1

・紅茶葉かチコリコーヒーの茶葉を半カップ

小瓶にいれて冷蔵庫で保存して、飲むときは何かのミルクで煮出す。

私たちのお供はいつもなぜかオープンサンドだった。

配られるパレット兼画用紙はこんがりと焼いた薄めのライ麦のパン2枚、ジャムやらチーズやらフルーツやらの絵の具に心躍らせながら、一日のはじまりに壮快に各々の芸術性を咲かせたのだ。

”毎日、少なくともたまにはしっかりと還る時間を持つことよ。広大な自然に抱かれて、自分の中にもその神聖な自然と伸びやかな宇宙があることを感じるの。その還る場所と自分の姿を知ってさえいれば、私の勝ちよ。何を着ていようとどこにいようと私は私で、限りなく自由で、そして果てしなく愛していかれるんだって!”

刹那、夏いっぱいの息吹が私たちの朝をさらった。さあ、かえっておいでと確かに言われたような気がして、産声をあげた私たちの魂はそのまま私たちを湖へと駆けさせた。