【創作大賞2024・漫画原作部門】大庭博士の発明品と鏡味社長の日常 1話

あらすじ

鏡味美樹子(30)はITベンチャー企業の社長。彼女の幼馴染、大庭ゆかり(30)はいわゆる博士。どんなものでも作ってしまう天才だ。

美樹子は、幼い頃からなんとも説明できない生きづらさを抱えていた。社会に出てもあまりうまくいかず、新卒で入った会社を一瞬で退職。自暴自棄になっていたころにゆかりからアドバイスと発明品をもらい背中を押され起業。

 ゆかりは「神童」と言われるほど子供の頃から頭が良かった。ゆかりが唯一心を開いていたのが美樹子。子供の頃に「ゆかりちゃんの発明品すごいね」と言われた日から博士になることを夢見ていた。

これはゆかりの発明品に振り回される美樹子の日常の一片。

第一話:即席こそ物を言う

○タワーマンション外観(夜)
50階建ての高層マンション。
 
○鏡味家・リビング・中(夜)
高層階の窓。外に夜景が広がっている。
鏡味美樹子(30)と大庭ゆかり(30)が赤ワインの入ったグラス   を持ってソファに腰掛けている。
美樹子、目を細め、
美樹子「んー、流行病に罹ってからしばらくお酒飲んでなかったから幸せ」
ゆかり「心配したよ、大丈夫だった?」
美樹子「40度まで上がったときはもうダメだと思った。あとスポーツドリンク切らしたときも」
ゆかり「一人暮らしだとそういうとき詰むよね」
美樹子、ワインのグラスを回す。
美樹子「ぶっちゃけ誰かと暮らすのは考えられないんだよね。仕事ばかりしてるし」
ゆかり「でもいざというときが心配」
美樹子「そうなの、突然死んだらどうなんだろって熱にうなされながら考えてた」
美樹子、ワイングラスを置き手を頭上に伸ばしながら、
美樹子「あーあ!私のやることに文句言わないで、でも家に帰ったらご飯作って待っててくれて、ペットみたいな可愛さを持ち合わせたイケメン落ちてないかな!もう私が養ってあげるって!」
ゆかり、ニヤニヤと笑う。
ゆかり「お、ついに言っちゃいましたね?取締役社長の鏡味さん」
美樹子「うわ、出た、何?またなんか変なもの持ってきたの?」
ゆかり、ワイングラスを置き、カバンから入浴剤のような袋を2つ取り出し、机に置く。
ゆかり「へへ、こちらが例のブツですよ」
美樹子「ロクでもなさそう…何これ」
美樹子、袋を1つ取り、書かれている文字を読む。
美樹子「インスタントヒモ彼氏?」
ゆかり「そうです、こちらが今回私の開発した商品、インスタントヒモ彼氏です」
美樹子「ちょっとよくわからないけど話だけは一応聞くわ」
ゆかり「これをお風呂に入れると、3分でインスタントヒモ彼氏が出来上がります」
美樹子「待って?あなたついに命作れるようになったの?これ大丈夫?代償に足か手持っていかれない?」
ゆかり「そんな錬金術師じゃないんだから」
美樹子、袋を開ける。
中には紐で編み込まれた人型の人形が 入っている。
美樹子「いや、紐なんだけど…これが人間になるの?」
ゆかり「うん、乾燥わかめと一緒。大きくなるから安心して。ほら早く早く」
ゆかり、美樹子の背中を押す。
美樹子、渋々立ち上がり部屋から出る。
 
○空(夜)
月が出ている。
『ピピピッ』というタイマーの音。
 
○鏡味家・リビング・中(夜)
斗南星也(26)がバスタオルを腰に巻いて正座でカーペットの上に座っている。
美樹子、腕を組みながら、
美樹子「3分経ったわけだけど」
斗南の前にしゃがみ込み顔を覗き込む美樹子。
美樹子「感動した、かっこいいじゃないの」
ゆかり、腰に手を当て、
ゆかり「でしょ?天才だわ」
美樹子「いや、松村○斗くんにそっくりじゃないの」
斗南、ニコニコと笑っている。
美樹子「えーっと話しかけていいの?」
ゆかり「うん、AI搭載してるから」
美樹子「えーっと、こんばんは、名前はなんですか?」
斗南「はい!斗南星也です、26歳です」
美樹子、ガッツポーズをする。
美樹子「いいね!年下!可愛い!仕事は?」
斗南、照れ臭そうに、
斗南「えっと、実はバンドやってて…夢を追いかけることが仕事です」
美樹子「あー、めっちゃいい、これは家にいてほしい」
斗南「えっと、お名前聞いてもいいですか?」
美樹子「あ、そっか、美樹子って言います」
斗南、笑顔で美樹子の手を握る。
斗南「美樹子さん!僕美樹子さんのために頑張りますね!」
美樹子、手を握り返し、
美樹子「うんうん、お小遣いあげるね」
ゆかり、満足そうに頷く。
ゆかり「いや、作ってよかったわ」
美樹子、ゆかりの方を向き、
美樹子「これはすごいよ!天才!絶対ヒットする!」
高らかに笑うゆかり。
美樹子「あ、でさ、ちなみに、もう一袋あったじゃん?斗南くんが出たあと、お風呂に入れてみたんだけど…」
ゆかり、顔を青くする。
ゆかり「え!あれは予備だったのに!しかも残り湯を使っちゃった!?」
美樹子「え?ダメだった?」
ゆかり「大変!インスタントヒモ彼氏の成分が混ざり合うのは危険なの!」
美樹子「どういうこと!?」
ゆかり「ヒモ同士がぶつかり合うと化学反応が起きて…」
山口の声「おら!ふざけんなこら!」
美樹子、ゆかり、飛び上がり、斗南の後ろに隠れる。
美樹子「な、何今の声!?」
山口龍之介(35)が全裸で部屋に入ってくる。
体には刺青が入っている。
美樹子・ゆかり「きゃー!」
美樹子とゆかり、抱き合い後ずさりする。
美樹子「やばいやばいやばい」
ゆかり「あああ、まさかインスタントヤクザが出来上がるとは!」
山口「おら、ぶっ殺すぞおいこら、金持ってこいよ、おら!」
ゆかり「あ、でもこれはこれで新しいヒモなのかな?」
美樹子「下っ端の組員はシノギが少ないからヒモも多いって聞いたことあるよ」
ゆかり「たしかにこいつ下っ端?インスタントだしね?」
山口「誰が下っ端じゃぼけ!」
美樹子「ひえええ、すみません!」
山口「訳わかんねえこと抜かしてると、お前ら全員ぶち殺すぞ!」
山口、美樹子に殴りかかろうとする。
斗南「美樹子さん!危ない!」
斗南、山口と美樹子の間に入り殴られる。
美樹子「斗南くん…!」
斗南、ヤムチャのように床に倒れる。
美樹子、斗南に駆け寄る。
美樹子「だ、大丈夫?」
斗南「うっ…美樹子さん…僕は大丈夫です…」
山口「おうおう、なんだ?このもやしみたいな男は?」
山口、斗南の顔を覗き込む。
斗南、上半身を起き上がらせる。
斗南「俺たちは…俺たちは…同じ風呂から出てきた兄弟じゃないか!」
斗南、山口の顔を見つめ、涙を流す。
斗南「なぜ、俺たちは兄弟なのに争わなければならない!」
山口、目を丸くする。
山口「あ、兄貴なのか!?」
美樹子、ゆかり、ポカンとした顔をし、山口と斗南の顔を交互に見ながら、会話を聞いている。
斗南「ああ、俺がお前の兄貴だ」
斗南、立ち上がり、山口の両肩を持つ。
山口「兄貴、会いたかった…!」
斗南と山口、抱き合う。
シューというスプレーを吹いたような 音。
斗南と山口の姿が消え、バスタオルが 床に落ちる。
美樹子、振り返る。
手にスプレーを持ったゆかりが立っている。
ゆかり「何もなかったことにできるように削除用のスプレー作ってたの忘れてた」
美樹子「あ、ああ、うん、ありがとう」
美樹子、ゆかり、ソファに腰掛け直す。
美樹子「あのままだったらツッコミも追いつかなかったし、助かったわ」
ゆかり「うん、私もまさかヤクザの裸の付き合い見せられるとは思ってなかった」
美樹子、グラスにワインを注ぐ。
ゆかり「もう一回インスタントヒモ彼氏作ってこようか?」
美樹子「うーん、いいや。なんか、結局インスタントはインスタントなんだって思った」
ゆかり「あーあ、どこかにお小遣いくれて、養ってくれるイケメン社長いないかなー」
美樹子「作れば?」
ゆかり「インスタント社長か。怪しい感じしかしかないわね。考えてみるけど、とりあえず乾杯」
美樹子とゆかり、グラスを合わせる。
 
○鏡味家・外観(夜)
タワーマンション。バックに月。
モノローグ「これは代表取締役社長の美樹子と博士のゆかりの日常を描いた物語」
『ワオーン』と犬の遠吠えする声。

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