【創作大賞2024・漫画原作部門】大庭博士の発明品と鏡味社長の日常 2話

第二話:悪魔の退職代行

○鏡味家・ダイニング・中(夜)
ダイニングテーブルにゆかりが座っている。
テーブルの上にはビールの缶と取り皿。
美樹子、テーブルの上に揚げ物が大量 に乗った皿を置く。
ゆかり「おお、見事に揚げ物しかない」
美樹子「文句言うなら食べなくてよろしい」
ゆかり、両手を合わせて、
ゆかり「喜んでいただきます」
美樹子、席につく。
美樹子「では、乾杯」
美樹子、ゆかり、ビールの缶を開け飲む。
ゆかり「あー、美味しい」
ゆかり、唐揚げを取り皿に置く。
ゆかり「で?何があったの?」
美樹子「え?」
ゆかり「美樹子が大量に揚げ物するときって何かあったときでしょ?」
ゆかり、唐揚げを頬張る。
ゆかり「てかなんで揚げ物なわけ?めんどくさくない?」
美樹子「肉を油に沈めてるとちょっと元気出てくるから」
美樹子、唐揚げを取り皿に取る。
ゆかり「…まあ、分からなくもないけど…で?」
美樹子「退職代行から電話来たの」
唐揚げを頬張る美樹子。
ゆかり「退職代行?何それ」
美樹子「退職したいっていう意思を代行業者使って言われたってこと」
ゆかり、唐揚げを食べる。
ゆかり「…え?本人は?」
美樹子「そのままドロンよ」
美樹子、両手を組み、忍者のポーズをする。
ゆかり「それって退職できるの?」
美樹子「法律的には問題はない。貸した備品は後日郵送するってさ」
ゆかり「うーん、美樹子の会社って辞めにくい雰囲気なの?」
美樹子「いや、まさに気にしてたところ刺してこないでよ…辞めたいって言いづらい雰囲気出してたかなって反省してたら大量に揚げ物作ってた」
樹子、手で揚げ物の乗った皿を指す。
美樹子「あーあ、なんかいいことないかな!宝くじが当たるとかさ!」
美樹子、ビールをぐいっと飲む。
ゆかり「お、あれやっちゃいますか!」
美樹子「うっわ、嫌な予感…」
テーブルの上に、名刺サイズの紙を置くゆかり。
紙は『宝くじ』と書かれた、3×3マスのスクラッチ。
美樹子「何これ」
ゆかり「今回私が開発したのは、ハズレなしのスクラッチです。縦か横か、好きなところ1列、合計3マス削ってね」
美樹子「ハズレなし?」
ゆかり「はい!ハズレなしです」
美樹子「そんなうまい話ある?」
ゆかり「ここに」
ニコニコと笑うゆかり。
美樹子、ため息をつく。
美樹子「わかったって、ちょっとコイン取ってくる」
席を立つ美樹子。

○鏡味家・外観(夜)
タワーマンション。バックに月。
『わんわん』という犬の鳴き声。

○鏡味家・ダイニング・中(夜)
美樹子、3×3のスクラッチを10円で削る。
星のマークが2つ揃っている。
美樹子「もう一つ星が出れば当たりってこと?」
ゆかり「まあ、その場合も当たり」
美樹子「その場合も?」
ゆかり「星が3つ揃った場合は、明日1日ラッキーが続きます」
美樹子、スクラッチから顔を上げる。
美樹子「え、何それ、めっちゃいいじゃん。そういう感じの当たりなの?」
ゆかり「ちなみにドルマークが揃った場合は臨時収入、ハートマークの場合は恋愛関係にいいこと、といった感じです」
美樹子「なんか占いみたいね…それ本当なの?」
ゆかり「本当だって!一日に起きるいいことっていうのを数学的に分析して、科学的に発生の根拠を調べて、あとはちょっと色々いじればその日に発生する出来事を操ることなんて簡単よ」
美樹子「その色々の部分が一番気になるんだけど」
ゆかり「まあまあ、細かいことは置いておいて、最後削ってみなさいよ」
美樹子、怪訝そうな顔をし、コインで擦る。
美樹子「ん?何これ…」
美樹子、スクラッチの紙を持ち上げる。
縦に二つ星のマークが並び、一番下に は六芒星のマークが出ている。
美樹子「これって…六芒星?」
ゆかり「あれ!?六芒星引いたの!?」
美樹子「へ?これなんか当たったの?」
ゆかり、美樹子を手招きする。
美樹子、ゆかりに顔を寄せる。
ゆかり「それ、悪魔が当たったのよ」
美樹子「悪魔?え?悪魔?今までの話とちょっと流れ違くない?」
ゆかり「知らない?悪魔」
美樹子、首をぶんぶんと横に振る。
ゆかり「願いをなんでも一個叶えてくれるんだよ。この間古い書籍に悪魔の召喚方法が載ってて、今回この宝くじに魔法陣を埋め込んでみたの。スクラッチで削ったら発動する仕組み」
美樹子、首をかしげる
美樹子「そんな非現実的な」
ゆかり「宝くじなんてそもそも1億なんて非現実的なもの売ってるところなんだから、悪魔の一つや二つくらいも簡単に手に入るでしょ」
宝くじの六芒星が光り始める
美樹子「えー、嘘でしょ!?」
ゆかり「来た!悪魔の降臨です!」
部屋中が白い光に包まれる。

○鏡味家・外観(夜)
タワーマンション。バックに月。
部屋の一室が真っ白に光る。

○鏡味家・ダイニング・中(夜)
ダイニングテーブルの椅子に座り、手に持ったカップをソーサーに置く美 樹子。
ため息をつく。
美樹子「で、横にいるのがその悪魔、と」
視線を上げる美樹子。
机を挟んで美樹子の向かいに、ゆかり と20代前半くらいの男性の姿をした悪魔が座っている。
ゆかり「こちらが悪魔です」
悪魔、会釈する。
悪魔「どうも、悪魔です」
美樹子「いや、もう、どう考えてもなんかの詐欺でしょ?警察行きだわ」
ゆかり「えー、多分本物なのに」
美樹子「あんたねえ…悪魔召喚しておいて多分って」
ため息をつく美樹子。
美樹子「この間のヒモの騒動で懲りたから、しばらく変な男家に入れたくないんだけど」
悪魔「変だなんて!ひどい!」
悪魔、手で顔を覆う。
ゆかり「書籍には願いを叶えてくれるって書いてあったし追い出すのはお願いしてからでいいんじゃない」
美樹子「大丈夫?契約印入れられたり、代償に魂持ってかれたりしない?ってこの間もこんな話したな…」
悪魔「あくまで悪魔ですから」
ゆかり「というわけで美樹子、ほら」
美樹子「ねえ、悪魔くん?願いを叶えてくれる代償って何かあるの?」
悪魔「あなたに起きるはずだった『いいこと』を頂戴します」
美樹子とゆかり、顔を見合わせる。
美樹子「いいこと?」
悪魔「はい。実は、人そのものに発生する、いいことの総量は決まっているのです」
ゆかり、頷く。
ゆかり「なるほど、つまり私の人生に起きるいいことの合計値は、美樹子の人生に起きるいいことの合計値と一緒ってことね」
悪魔「はい、そういうことです。いいことだと感じるかどうかはその人次第ですけど」
美樹子「で、あなたにお願い事をすると?」
悪魔、笑顔で頷く。
悪魔「はい!あなたに今後起きるはずだったいいことを全て頂戴します!」
美樹子「うーん…」
美樹子、腕を組み首を傾げる。
美樹子「なんか、嫌だな」
悪魔「なんで?願い事が叶うのに?」
美樹子「なんか…今後いいことが起きないって思うとなんだか…」
ゆかり「うーん、確かにな…1億円があったとしてもいいことが起きないのはなんか嫌だね」
美樹子、腕を組んで首を傾げる。
悪魔「なんだ、全然お呼びじゃない感じですか」
つまらなさそうに伸びをする悪魔。
美樹子「せっかく出てきてくれたのに、なんかごめんね」
悪魔「まあ、そういう人多いので別にいいんすけど…あーでも魔王様には怒られるかな」
美樹子・ゆかり「魔王?」
悪魔「あ、いわゆる上司ってやつですねー」
美樹子「え?大丈夫なの?」
悪魔「まあ…俺、悪魔の仕事向いてないんですよ」
美樹子「そうなの?君はどれくらい悪魔やってるの?」
悪魔「あー、ざっと300年くらいですかね」
ゆかり「300年!?すごくない?」
悪魔「人間って寿命短いんでしたっけ?俺はまだまだ下級悪魔っす」
美樹子「そ、そうなのね」
悪魔「でもまあ…このまま外回りが続くんだったら転職しよっかなってちょっと思ってます」
ゆかり「悪魔召喚って外回りなんだ」
美樹子「へえ、悪魔の転職って気になる。何したいの?」
悪魔「ちょっと悩んでて…このまま悪魔としてやっていくのもありなんですけど、基本的に魔界ってブラック多いんですよ」
美樹子「へえ、そうなの?」
悪魔「まあどこも人手不足って感じですね」
深く頷く美樹子とゆかり。
悪魔「なのでいっそ魂入れ替えて天使になってもいいなとか」
ゆかり「なんだか悪魔としてのプライド低そうね」
鼻で笑う悪魔。
悪魔「プライドが高い悪魔とか古いっすよー」
美樹子「そうなの?」
悪魔「今の時代、スマートさが重要ですよ」
ゆかり「魔界も大変そうね」
悪魔「あー、でもな…俺ここに来るまでに2回連続外回り失敗してるんですよね…さすがに今回も失敗したとなると…」
美樹子、ゆかり、顔を見合わせる。
美樹子「…どうなるの?」
悪魔「魔物にされてしまうかもしれないです…」
ゆかり「え、魔物?」
美樹子「何それ?」
悪魔「下級悪魔より下の存在。自我や意志を持たない、ただひらすら闇の世界を彷徨うだけ…そんなの嫌だ!」
顔を押さえてテーブルに突っ伏す悪魔。
ゆかり「なんかかわいそう…」
美樹子「わ、私が電話してあげる!代わりに悪魔辞めたいって言ってあげるから!」
悪魔「え、本当っすか?」
顔を上げる悪魔。

○株式会社ときめき・外観(朝)
ビルの案内表示に「株式会社ときめき」と書かれている。

○株式会社ときめき・社長室・中(朝)
椅子に座る美樹子。フーっとため息をつく。
秘書の声「お疲れですか?社長」
美樹子「ちょっと悪魔の退職代行してたら寝るの遅くなっちゃって」
秘書の声「悪魔の退職代行?」
机の上にコーヒーカップが置かれる。
秘書の顔は見えない。
美樹子「あーまあ、ちょっとね。でもなんか辞める側にも色々あるんだなって」
秘書の声「それはよかったです。僕も新しい職場に転職できてよかったです」
美樹子「は?」
顔をあげる美樹子。目の前に悪魔が立っている。
美樹子「なんでここにいるの?」
悪魔「とりあえず人間界で働いてみよっかなって。今日からお世話になります。阿久間です」
美樹子「えー」
モノローグ「悪魔を雇うことになりました」
『チュンチュン』という鳥のさえずり。

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