2023(令和五)年7月1話「この話を書く時間が忙し過ぎて足りない件」
私小説『地球学徒の日記』
2023(令和五)年7月1話
「この話を書く時間が忙し過ぎて足りない件」
7月は、旧暦では「文月」とも呼ばれ、その由来は七夕と関わっているようです。
7月1日(土曜)くりは強襲
去る6月24日(土曜)、よる様の生誕ライブで大久保(東新宿)に向かいましたが、それから一週間経った今日も、私達は再び大久保の地を訪れていました。今日は、この街のイベントスペースで、以前からお世話になっているくりは様の撮影会があります。
「はぁ…横浜から飛んで来ましたが、どうにか間に合いましたね…」
但し今日は、横浜の学院が土曜登校日なので、私達は午前中の授業を済ませた後、大急ぎで大久保に向かいました。「国際文化の聖地である新大久保における、配信活動ライバーへの取材を通して、現代のアイドル歌手カルチャーを考察する」みたいな名目であれば、正当な早退理由になる…はずだと信じたい。
ネネカ
「…大久保って韓流グッズだけじゃなく、教会も多いんですね」
「はい、大韓はクリスティアンが多いですからね」
日本と大韓は、言語(アルタイ語)や宗教(大乗仏教・儒教学)において共通する文化が見られる一方、異なる点もあります。その一つは、大韓にはキリスト教(基督教・天主教)の信徒が多いという事です。
ヒジリ
「漢字では、カトリック教会を『天主教』、プロテスタント系を『基督教』と書き分けているようです」
かつて高麗(朝鮮)半島では、高麗王国(918~1392)までは仏教が、李氏王朝(1392~1910)時代には朱子学(儒教)が国教として重視されていましたが、20世紀に日韓併合・朝鮮戦争・軍事政権という相次ぐ苦難を味わう中で、それらと対峙した人々がキリスト教会に惹かれたようです。著名な例では、伊藤博文と対決した安トマス重根(1879~1910)もカトリック教徒でした。
ヒジリ
「従いまして、真の東洋平和・日韓友愛を実現するためには…」
ネネカ
「ヒジリさん…その話はもう分かったので、早くビルに入らせて下さい!」
そういうわけで、くりは様のオフ会に参加。
「失礼しまーす」
ネネカ
「くりは様、こんにちは! あ…あれ、あなたは…!?」
くりは様の撮影スタッフが、物凄く見覚えのある人でした。6月も、この辺りでお逢いしたような…。
ヒジリ
「最近の若い方々は、こういうイベントを楽しんでいらっしゃるのですね…それで、本日は如何なる物が売られているのでしょうか?」
ネネカ
「えっとですね、今回のお品書きは…」
取り敢えず記念写真撮影2枚と、缶バッジ・キーホルダーを1個ずつ買う事にしました。
ヒジリ
「あら、可愛いデザインですね」
ネネカ
「あ…あと、くりは様! 私とサギハラちゃん達で、くりは様のAIイラストを生成してみました! 良かったら、受け取って下さい!」
くりは様は、私達が購入したキーホルダーの裏面に、私達との「相合い傘」のサインを描いて下さいました。
ネネカ
「わー、ありがとう御座います!」
開催側だけでなく、お客さんの中にも顔見知りの人が居て、会話に困らぬ楽しい「推し会」になりました。
ヒジリ
「さて…折角ですので、大久保で何か召し上がってから帰りますか?」
ネネカ
「はい! 韓国料理を食べたいです!」
「大久保には飲食店が沢山あるから、どこで何を食べるか選ばないとね」
そんなわけで私達は、現地の飲食店に寄って「石焼チーズタッカルビ丼」などを頂きました。
ネネカ
「…美味しい! でも、辛い! あと、野菜が多い!」
ヒジリ
「適度ならば、健康に良いかも知れませんね…あ、ジャスミン茶をお願い致します」
あの日、相合い傘を描いてくれたキーホルダーは、今も私達の鞄を飾っています。
7月2日(日曜)教育大学院に行こう!
ヒジリ
「昨日は、楽しかったですね…さあ、本日は教学の日です! 頑張りましょうね!」
「はーい…」
今日は、横浜関内にある教育大学院の夏期公開講義です。教育修士課程を修了された卒業生の方々による、教育に関する研究発表を拝聴しました。
ネネカ
「あ…あれ、今の通知は…?」
ネネカさんが携帯電話の画面を見ると、よる様とくりは様のSNS通知が届いていました。どうやら、昨日のオフ会についてツイートされているようです。
それはともかく、この大学では社会・心理・歴史などのアプローチを含めた、広い視点から教育を研究しており、不登校・障碍者養護などのテーマも取り扱っています。この日記の読者にも、こうした分野に関心をお持ちの方がいらっしゃると思うので、お役に立てば幸いです。
また、この大学の特徴として、一般的な20代中頃までの「専業大学生」だけでなく、学校教諭などの社会人も多い点が挙げられ、中には校長先生のような立場の方もいらっしゃいます。つまり、普段は「教え、働く」側の人々が、ここでは学生として「学び、教わる」側の経験も積んでいるのです。
ヒジリ
「人間、何歳になっても学業は大切ですね!」
ネネカ
「わ…私はもう、勉強はお腹いっぱいです…」
7月8日(土曜)「500個の風鈴の音を聴く」
今日は、神仏道の信者であるメグミさん達が、お世話になっている菩提寺を参詣し、修行入門会に参加する日です。
「私達の国をお護り下さっている神様・仏様に、今月もお参りしに行くの!」
ヒジリ
「それでしたらメグミ、そろそろ髪型を整えては如何ですか?」
メグミ
「あ、そうだね。あっと言う間に、髪の毛が伸びちゃった」
「私のも伸びてきたし、いつもの床屋さんに行こうか」
寺院の境内には500個もの風鈴が飾られており、自然の風が吹き付ける事によって奏でられる音色が、実に夏らしい空間を生み出していました。
池上町から、大森駅がある入新井町に北上し、その途上にある八景坂という坂道を登ります。大森駅に着くと、急に西から風が吹き付けました。気になって、西を見上げると…。
「…ああ、あれか。前から気になっていたけど、あの欝蒼とした神社、なんだろう?」
メグミ
「あ、本当だ! じゃあ、お参りしよう! 神様と出逢ったら、まずは挨拶だよ!」
この神社は、江戸時代の享保期(1716~1736)に、ここ新井宿村の村民らによって建てられた「神明山 八景天祖神社」です。天照大御神を祀る伊勢神宮(三重 伊勢市)の分社で、新井宿村を守護して下さっている鎮守神です。仏教的には、不動明王を祀る円能寺(新義真言宗 智山派)と結び付いています。
ヒジリ
「不動明王は、ヒンドゥー教のシバ神(大自在天)との関わりが深いとも言われる神様ですね」
江戸時代末期には、京都伏見(京都市 伏見区)の伏見大明神も祀られるようになりました。
鳥居の右の石碑には、昭和時代の陸軍大将である松井石根の書が刻まれています。松井将軍は、1937(昭和十二)年に勃発した中華民国との戦争(日華事変)で司令官を務め、首都の南京(江蘇省)を攻略しましたが、この作戦で中華側の捕虜・民間人に多くの犠牲が出たので、戦後その責任を負う形で刑死されました。
欝蒼とした境内には樹齢400歳を誇る御神木の椎がおられ、この坂は馬込文士村の入り口でもあります。
2023(令和五)年9月5日(火曜)
デジタルアートセンター横浜(顯)
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