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◆第1章 Rで始まるレイヴパーティー③

-さみしがりや-


フロアに人が増えてきたのに応じて、音も徐々にアガってきた。

メインフロアが終わる朝6時まで、残り4時間。

本来は、3泊4日それぞれで紙1枚/タマ1つずつ食べる予定だったけど、
今日のこの音、このキマリならタマ無くても十分楽しいな。

ちなみに、日を追うごとに耐性がついてくることや誰かと現地で交換
……なんてことも考えて、もう少し多めに用意はしている。

経験上わかっているんだ。
レイブってのは想像もつかないようなことが起こるから、
足りなくなって困らないよう少し余裕持った方がいいって。

その上で初日をセーブするって、僕もずいぶん大人になったと思う。
昔は、とにかく全力でぶっ飛ばして気絶するまで踊りまくっていた。

最後の方はゾンビみたいな顔をしていただろうし、
本当に倒れて仲間に迷惑かけたこともあった。


──この分だと天気は持ちそうだな。
予報によるとわずかながら雨の可能性があり、それに伴いレインブーツを履いてきた。
山の天気は気まぐれで、曇りくらいの予報が大雨になったりすることもある。

フロアから離れると少しぬかるんだ場所もあるから服装は正解だったと思う。


身体がこの山に馴染んできたところで、ショップを回ってみる。
一番近くにBAR、そしてその奥にフードの店が並んでいる。

9月とはいえ冬のコートを着込んでいるくらい冷え込んだ夜だから、温かいフォーを注文。

ヌクマムやチリソースで味を調えているとパウが走ってきた。

「シンちゃーーーん! こんなとこにいた! 早く前行こうよぉーーーー!!」
「いまからメシー。パウもいる?」
「……いや、タマが効いちゃってそれどころじゃない。てか、さみしいんだけどー!」
「ひゃはは。ちょっと待ってなよ」

ゆっくりフォーを味わっていると、我慢できなかったのか、またフラフラとフロアへ戻るパウ。
──アイツ、ほんとかわいいな。


食事を済ませ、いよいよフロア最前列へ。
美味かった。我ながらナイスな選択だったな。

「おおおー! シンちゃん! シンちゃん! 友だち紹介するよ! これがナオくんで、こっちがリンくん、このコはキューちゃん」

それぞれ握手を交わし、
「僕、人の名前おぼえるのが超苦手だからごめんね~。特にパーティーでは」
と先に謝っておく。

「みんなそうでしょ!」
「だよね」


初日の締めに向かって、踊りやすい音になってきた。
いつしか太陽が顔を出し、気温も上がってくる。

ひたすら足を動かし、飲み物が無くなると椅子に戻り、タンブラーで酒を作ってまた最前列へ。

言ってしまえばこの繰り返し。
でも、このループこそが幸福なんだよな──


気がつくと最後のDJがアンコールの曲をかけている。
フロアを見渡すと、ほんのりとした笑顔で溢れていた。

(続く)

※「noteは会社の両隣がいないときに執筆する」というマイルールがあり、新型コロナ以降リモートワークになったため出社すらできていません。そのため更新が止まっています。ごめんね!

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