灰蘇り姫

『灰蘇り姫』

 あるところに、みすぼらしく孤独な少女がいました。少女は両親もいない捨て子で、物乞いをして生きていました。少女と同じくして路上で生きる子どもたちは支え合って生きていましたが、少女はまるで幽霊のように彼彼女らには見えていないようで、少女は友だちもいませんでした。ある時、人さらいに遭いそうになった少女は必死に人さらいから逃げました。ぼろぼろになった少女の姿を見かけて、死にかけた人を捨てるためにあるような寺院にいるとある尼僧が少女を拾いました。少女は寺院で人々の最期を尼僧と一緒に見届けながら、歳とった尼僧と静かに貧しく暮らすようになりました。
 少女は死を前にして、生前どんな行いをした者のためにも祈り涙を流しました。けして自分を憐むことはなく、生きていることにだけ感謝をしていました。夢に出てくる少女を傷つけた者、穢した者、見捨てた者、すべてを許し朝起きるのです。
 とある日、薬売りの行者が少女と尼僧の寺院を訪れました。薬売りは少女に、「あなたは灰になった後、奇跡となる」と言われました。薬売りが去った日、少女は夢であの薬売りが聖者であったことを知りました。そして薬売りが去っていくらかの年月が経った日、寺院で施していた食物を狙って強盗たちが二人を襲い、命を奪い、寺院は燃えて灰になりました。
 尼僧も、少女も、誰も止められない炎の中で、まっさらになるほどに燃えて灰に還ってしまいました。そして、少女の身体だった灰は、風にさらされても吹き飛ぶことなく、一片の塊となって寺院の焼け跡にのこりました。
 とある満月の夜、聖者が少女の灰に水をかけました。すると、肋が現れ、肉がつき、大きな翼を生やした生き物がうまれました。それを見かけた人々は、貧しく汚い街に天使が舞い降りたと奇跡に涙して救いを求めました。
 天使には生前の記憶がありました。涙し、祈り、灰になり、そして蘇り翼の生えた自分が人ではなくなったことを知りました。
 天使は覚える限りの顔をした人々を自分の元へと呼ぶように町人に言いました。
 そして天使となった少女の奇跡を信じた人々が彼女の元へと集まりました。天使は言いました。
「あなたたちは、盗み、殺し、犯し、壊し、裏切り、見捨て、罪を重ねました」
 天使の言葉に、集められた人々は改心するように促されているのだと頭を垂れて泣きました。
 天使が右手を振りかざすと、集められた人々の首が次々と刎ねられました。血溜まりは燃える炎となり、観衆はそれを見て逃げ出しました。天使が手を振るうたび、町の人々が死んでいきました。貧しい場所で、人が生き延びるために他者から奪いその命を守ることを少女は知っていました。生前、少女は毎晩祈り、この世に平穏と神の救いが訪れるように願いました。
 町の人すべてが死にました。彼らは血の柱と炎の地となり、そこに縛られ続けました。
 翼を生やした少女は、永遠に、永遠に彼らのことを見守りました。
 そして、聖者の格好をした黒い犬が、少女の傍らにはずっといたと伝えられています。

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