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恋に落ちる錯覚、恋が終わる現実


とても、好きだった人がいました。

noteの初投稿で出てきた、憎たらしい思い出の、あの人のことです。

アホだな〜と自分でも思うけれど、びっくりするくらい、とても好きでした。何がそんなにいいのかはもう何年経っても不明なまんま。ただただ、思い出だけがずっと残ったまんま。

大学の同級生。学部は同じ、専攻は別。部活は隣。スクールバスと電車の路線が同じ。アイドル好き。バンドも好き。好きなジャンルは同じ、好きなグループは別。なんかいつも、そんな感じだった。ニアピン。ピタリ賞はもらえない。

すきだったひとと過ごしたむず痒い「青春」を、わたしはすべて大切に、宝箱に閉じ込めて生きている。

いや、生きて、いた。

宝箱に閉じ込めた思い出は、どんどん美化されていく。分かってはいた。どの思い出も本当はあんなに綺麗じゃない。よく思い出したら、本当のことを思い出せてしまう。

並んで帰った電車の中。普段は別車両に乗るのに、その日に限って車両が少なかった。びっくりするくらい会話の無い車内。わたしとすきだったひとの間には、もう1人くらい座れそうな微妙な隙間。田舎の車窓はずっと緑で、わたしたちが会話をするには電車の音がひどくうるさかった。すきだったひとが「じゃあね」と降りていく姿に、気の利いた返事はできなかった。

スクールバスで隣に座った時も、すきだったひとは隣で音楽を聴いていた。相変わらずアホなボリュームで聴いてるんだな、と少し笑いそうになった。何聞いてるかわたしにすら分かっちゃうよ、と思ったけれど、本人には言えなかった。

会ったら会話ができないくせに、連絡だけは常にとっていた。

髪を切ったり、髪を染めたりすることを、お互いにいつも知っていた。髪型が変わった後、2人で顔を見合うのはいつものことだった。その時は、会話ができた。嬉しそうに髪色を自慢しにきてくれることもあった。その時も、会話ができた。似合うね、と笑うと本当に嬉しそうにするのを、愛おしいな、と思っていた。

寝坊魔でサボリ魔のすきだったひとの居場所を知っているのは、いつもわたしだった。彼の友人たちがこぞって「あいつ今日は?来てんの?」と聞きに来るのが、言い表せないくらい心地よかった。何かあったら「お前から言うといて、確実やし」と言われるのが、本当に嬉しかった。

思い出たちは、腹立たしいくらい、綺麗だった。
振り返っていると、本当に、腹が立ってきてしまう。綺麗だな。本当に、愛おしくて綺麗。手を伸ばしたくなる。宝箱の中を、覗きたくなってしまう。

バレンタインのチョコレートは、2回あげた。
どちらも、告白はできなかった。
どちらも、お返しはもらえなかった。
バレンタインの思い出だけは、何年たっても褪せることなく見事にダサい。全然、綺麗じゃない。

いやもうええわ、前置き長いねん毎回。

そう、あのね。25歳になりました。
すきだったひとと同級生をしていたのは、もう3年以上前になってしまった。ぎこちない会話をしたのは、もう4年くらい前になるかもしれない。それなのに、すきだったひとの誕生日に「おめでとう」とLINEをしてしまっていた。毎回、本当に嬉しいと返信をくれるのが心苦しかった。ごめん、と思っていた。毎回、3〜4ヶ月LINEが続くことになる。そして毎年、「ああ、今年も好きだと言えなかったな」と、思っていた。

でももう、とっくに知っていた。

わたしとすきだったひとの関係は、何をどうしても、もう変わらないのだ。

学生時代から、本当はしっかり気づいていたけど、見て見ぬ振りをしていた。まだ好きって言ってないしな、と言い訳ばかりしていた。そういうことではない。わたしたちの関係は変わらない。

ずっと、この関係が壊れるのが怖かった。美化された思い出のままでいたかった。

ずっとずっと、心の中に残り続けるのは、もううんざりだな、と少しだけ思っていた。その「少し」を、一生懸命大きくした。

もううんざりだ。うん、うんざりだ。

すきだったひとと続いてたLINEが、ブツッと終わってしまった。まあ既読無視というやつで。どうしようか迷ったけど、やっぱりうんざりだな、と思える要因になった。

もういい加減、すきだったことをまとめて全て思い出にしたかった。これは、本当に、ずっとそう思っていた。だからLINEをした。もう終わったLINEに、追加コンテンツとして。死ぬほど練って、仲良いフォロワーに「キモくない?!」って確認までとって。この期に及んでまだ嫌われたくなかった。アホくさ。青くさ。

ちなみに返信は今もない。
ていうか、既読すらまだついてない。

送る瞬間は死ぬかと思ったし、送るまでに限界がきて寝てしまった。目が覚めたとき、腹が立って勢いで送った。やっぱり、ちょくちょく「既読ついた?!」ってLINE開いちゃうけど、なんなら大学の3年間よりそわそわしていない。多分、結構スッキリした。


さようなら、わたしのすきだったひと。
まじで、なんかわからんけど、まじでなんか好きでした。もうなんか、腹が立つくらい好きでした。よく笑うところとか、子どもと目線を合わせて話すところとか、LINEの返信頻度が適当なところとか、やかましい音楽を惜しげもなくやかましく聞いてしまうところとか、なんの偏見もなく話してくれるところとか。思い出すと腹が立つから今度こそ封印する。大事にしまってた宝箱。鍵を締めることにする。もうおしまい。


さようなら、すきだったひとを、飽きずに好きだったわたし。

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