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なかせよしみ『漫画の先生 ep6.』『ep7』


 なかせよしみ(まるちぷるCAFE)『漫画の先生 ep6.』(2017)と、『ep7.』(2018)を読んだ。どちらも同人誌である。

『漫画の先生 ep6.』

あらすじ:国際展示場で年4回開催されるイベント、コミトピア。バイトや学校で非常勤をしている漫画家の響美晴は、サークル側で出店した。売り側として手慣れた美晴は、順調に本を売る。このままいつも通りに終わってほしいものの、イレギュラーな事態が発生してしまい……

美晴の物語を体験できるだけでなく、実用的な漫画でもある。本の展示レイアウトから、本を買う時の釣り銭勘定(新刊のみ買う場合、あるいは既刊すべてを買う時のパターン)、どれだけ本を準備するか、そもそもどれだけ売れるのか? 作り手側の感情や、試行錯誤も体験できる。いわば美晴の目を通して即売会文化を知ることができる。

その一方でイレギュラーな事態は、本当にイレギュラーなので突然降ってくるし、美晴がフリーズするところも面白い。

即売会なのだから、売る人がいれば買う人もいる。買う人にはそれぞれ考えがあるし、売る人にも考えがある。店でないので雑談もできるが、その分突発的なことも起こりやすい。お金を出す分、買う人にも何かしら言いたいことは出てくるが、全体的に見て物申すことはどうなのか? 正しいのか? あるいは売る人をイラつかせているだけではないか? そもそも売る人もスペース料で運営に金を払うし、本や品物を作るのにも金を使う。まず作るだけで労力がかかっている。売る人買う人が参加者という立場なので、お客様は神様です論が通用しないのだ(あまり他で通用させているのも厄介だが)。

そういうことを考えてたらキリがなくなるが、買う側も売る側も参加者という括りでは同じだ。どこかで仮でいいので結論を出さないといけないし、状況が変わったらアップデートしないといけない。流動的である。


『漫画の先生 ep7.』

あらすじ:向河原が一日に使えるネーム(大雑把にコマ割りやセリフを考える作業。絵コンテに近い)の時間は十五分だ。朝起きて漫画のネームを作り、それから仕事に行く。仕事中に漫画の展開をイメージし、机仕事、社食、会議をしながらアイデアをふくらませる。帰ったら作業の続き。進み具合は六ページ。いっぽう美晴は、バイト以外はとにかくネーム、ネーム、ネーム! 進まない! 苦しい! やっと六ページできた!

向河原と美晴は正反対の生活を送っている。どちらも兼業作家だが、向河原は会社に通いながら規則正しく漫画を作る。美晴はバイトと学校(非常勤で教える)の合間に漫画を描く。美晴の生活は流動的だが、向河原は安定している。スタンスが真逆の二人だから、漫画の作り方も真逆なのである。それでも一本の漫画が出来上がるので、漫画はつくづく奥深い。

美晴は感覚として漫画を作る。なのであれこれ苦しみながら直感的に展開を作るのだが、向河原は最初にプロットを立てて展開を決める。これはどちらが優劣ではなく、個性の話でもある。向河原にもそれなりの苦しみがあるだろう。

美晴と向河原が偶然出会ってから、やはり漫画を描いているので漫画論の話になる。美晴は学校で漫画を教えているものの、向河原の話は新鮮だ。なにせ彼はスタンスが逆なので、漫画の土台も異なるのだ。だから美晴にも届くものがあり、美晴はうれしがる。

そして互いにスタンスが真逆ということは、SN極のように正反対の力を持ち、接近することもある。二人が急接近(のように見える)した後にどう展開するのか、楽しみだ。

《終わり》

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