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亡骸を背負い重ねて積む稼業

 朝方の三時五十八分、雑居ビルを爆破した。今回の抗争はノームとドワーフのいざこざとして処理させられるだろう。

「行け。俺も後で降りる」

 近隣ビル屋上。組の若頭であるフマは無線で言う。横にいるのはエルフの長だ。名前はアシュ。

 異世界からの門が太平洋沖に開いたのが二ヶ月前。アホみたいな外交典礼と議論が続く中、裏社会は早々に移住した。組はエルフの接触を受けた。目的は敵対ドワーフ族の殲滅だ。報酬は呪符と禁薬のノウハウ。組長は要請を飲んだ。

 突入班はエルフのツテで入手した自動小銃を装備している。おかげで戦況は優位だ。

 が、銃声が響く中、倒壊した雑居ビルからドワーフが姿を表す。粉塵まみれの人物が瞬く間に巨大化して、フマは舌打ちした。魔法か。

「あれが族長です」

 アシュがフマに言う。

「彼を殺せば他も投降します」

「じゃあ、あんたも用済みだな」

 フマはアシュへ拳銃を発砲した。足を撃たれたアシュは悲鳴を上げて倒れる。

「すまんが、ウチにはエルフもドワーフもいらないんだ。報酬だけもらうよ」

 ドワーフの咆哮が地上を満たす。フマは「狙撃犯、よく狙え」と指示を出す。その隙にアシュは弓をつがえている。

 頭を狙われていたのは幸いだった。ドワーフが狙撃されて倒れた衝撃で、手元が狂ったのだ。フマは彼女の胸と頭に一発ずつ発砲する。

 ため息をついてアシュの所持品を検めていたフマは、スケッチを発見する。アシュともう一人――肉親か? ふと横を向くと、ビルの縁に女性のエルフが立っていた。絵の人物だ。

 女性はビルから飛び降りて消えた。考えあぐねているフマの元へ、風に乗って呪詛が聞こえる。

「あなた」「よくも姉さんを殺したわね」「あんたに呪いをかけてやる」「お前は絶対に殺す」「家族もろとも八つ裂きにしてやる」「影に怯えて逃げなさい」「墓も残さない」

 声は遠ざかる。フマは下の惨状を確認しつつ、「殺されるのも稼業でな」と言う。

【続く】(800文字)

Photo by emily ziegelmeyer on unsplash

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