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ボーン・ザ・ゴーン

 光が射す場所はオタワだ。そこからシュロたちは逃げる。

 光の所在は大気圏に設置された宇宙人の母船だ。地球が攻撃されて数ヶ月経つが、どうやら宇宙人は攻撃の際に別の扉も開けた。おとぎ話だ。エルフ、オークの襲撃で二十人だったチームは二人になった。シュロ、ベリンダは南へ逃亡を続けている。ここで冬になったら凍って終わりだ。

 宇宙人どもは攻撃と並行して誘拐も行っている。行き先がグリーンランドというのは嘘で、怪物に作り変える実験を行っているという噂だ。シュロの彼氏も誘拐された。

「ピッツバーグまで着けば、酒飲めるかな」シュロは呟いた。「ニューヨークに酒なんてないだろうし」

「みんな持っていかれちまったよ。人間とタコにね」ベリンダが答える。中身がない会話だが、爆撃された平原を無言で歩くなんてまっぴらだ。

 前方で何かが動いた。

 二人は伏せる。近隣のクレーターに這い進み、耳を澄ませる。こちらへ来るが、居場所を知っている歩き方だ。

 双眼鏡で観察するに、ゴブリンだ。一体が先導し、合計六体。対話は無理だろう。シュロは立ち上がり、先頭のゴブリンへとライフルを構えた。残弾は一発。

「こっちには銃がある! 誰から死にたい!」シュロが叫ぶ。

「ゆーーーろ、ゆーーーろ!」先頭ゴブリンが声を張り上げ、走ってきた。頭を撃つ。怪物どもが散らばる。

「ゆーーろ」倒れたゴブリンがまだ叫んでいるが、声は弱々しい。別のゴブリンがそいつの頭をマチェットで串刺しにした。

 敵は銃を警戒している。ベリンダはクレーターの反対側まで這いずり、最も近い森まで五百メートルあることを確認する。ここから先は徒競走だ。ベリンダが先行したのを確認し、シュロも続こうとした。が、止まる。

 ゴブリン。

 くそったれな噂。

 シュロの彼氏。

「ちくしょう」シュロは目を閉じてから、逆走して群れへと駆け出す。ベリンダが叫ぶ。

 せめて宇宙人に一発食らわせてやる。

【続く】(797文字)

Photo by sander crombach On unsplash

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