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フロム・バベル

《バベル》三層にようやくたどり着いた。探索に向かう傭兵が多くて、あたしは何回か誰何されたけど、その度にお父さんの社員証でごまかしている。ありがとうトシマ重工。

「ほんとうに広いよね」りっちゃんがいう。彼女の実家はドイツ地方にある宝石商だ。名前もかなり長い。長いので、りっちゃんだ。「先生、追ってこないかな」

「あれだけダミー投げたから大丈夫よ……たぶん」あたしはいう。社会見学の授業で入れるのは一層までで、そこから上は立入禁止だ。あたしは防犯用のダミー人形をバラまき、上へ逃げた。

 この《バベル》は世界中心地にある。かつて大陸はバラバラだったけど、上から降ってきたこのタワーは大陸を、言語を無理やりくっつけてしまった。もう何十年も世界VSタワーみたいな構図だけど、タワーはあたしたちを攻撃しない。なのでここには普通の企業も入っている。

 エラい企業ほど高い層に入れる。トシマ重工は四層。そこそこのつよつよ企業だ。人類最高峰は十八層。が、あたしたちはその上へ行きたい。

「ニコさん! リーツクネヒトさん! どこに……居たーッ!」まずい、先生だ。捕まったら電磁ウィップで折檻される。

「ダミー!」あたしは人形を投げ上げる。ダミーは巨大化して先生へ覆いかぶさ……らない。ウィップで人形を切り裂いたのだ。

「ニコちゃん伏せて!」りっちゃんに引き倒された。あたしの真上で、攻撃アクションを察知した《バベル》装置が麻酔ダートを乱射したのだ。先生、傭兵がダートを食らってバッタリ倒れ、あたしたちはりっちゃんが展開してくれた、超大型の防犯シールドに守られた。

「走るね!」りっちゃんがあたしの手を握って駆ける。

《バベル》十八層より上は未知だ。未知なのでいろんな話があるけど、死んだ人間の魂がさまよう噂を聞いたことがある。お父さんは否定したけど、りっちゃんは否定しない。あたしだってそうだ。

 ならお母さんの魂だっているかもしれない。

【続く】(800文字)

Photo by Mick on Unsplash

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