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カエル男と切開手術

犯人がついに判明するという、まさにその時、私は手術を受けるために渋谷の雑居ビルの5階にあるクリニックの待合室にいた。

右脇の下にできた2cmほどの粉瘤ふんりゅうを切除するために、GWを使ったのだった。

kindleのヘビーユーザである私は、日替わりセールを見逃さないようにメール購読をしている。ある日、中山七里著の推理小説である『連続殺人鬼カエル男』がセール対象になっていた。面白そうなタイトルに惹かれて購入。

内容は、まるでカエルを扱うかのように、被害者の体をもてあそぶ犯人と、それを取り巻く人間ドラマがグロテスクに展開していくサスペンスだ。

犯人と対峙するシーンに興奮しながらも、「これから自分が切られるのか」と思うと、不安になるが、それ以上に面白く読む手が止まらない。

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痛みが出るまでが遅く、気がつかなかった。

気温が高くなり、汗や匂い対策をしようとロールオンタイプのデオドラントを使っていたところ、脇の下に違和感を抱く。

触ってみると、1cmほどのしこりのようなものがあった。ググってみると、脇の下という箇所には乳がんやらなんやらと、ややこしい情報が載っていたため、心配になり、早めに受診した。

菌の繁殖スピードは恐ろしい。日程の調整をしていた4日間で倍の大きさになり、痛みも増してきたため、電話したその日に対応てもらった。美容系のクリニックだからか、GW中にも関わらず運営していたことがありがたかった。

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名前を呼ばれたので、診察台へ向かう。上半身を裸の状態で、右の手のひらで後頭部を触るような形で、仰向けになる。患部だけが露出するような、穴の空いた手術布とバスタオルがかけられる。

テープを剥がすときに痛いからとの理由で、脇毛をバリカンとカミソリで剃られる。幹部が腫れてるので、剃りにくそうだ……箇所が分かるように、紫のマーカーで点々をつけられるのを、くすぐったいと思っているのも束の間、すぐに局所麻酔をかけられる。

切開を伴う手術が初めてなのにも関わらず、最低限の説明かつ、あまりにも淡々と進むため、不安な気持ちになる。

「カエル男の残虐性に恐怖して、変な想像しているんだ、もっと安心できる状態で手術を受けたい」……と、言えるはずもなく、容赦なく急所に針が刺される。この前受けた、痛点を突かれた献血と同じくらい痛い、いやそれ以上だ。

「……っぁああ!」メスで肌をなぞられた感覚と同時に走る痛み、皮膚が切り裂かれていることと、カエル男が死体を弄ぶ姿が重なり、目の前がクラクラしてきた……粉瘤が大きかったからか、麻酔の範囲外だったらしい。

足を交差し、左手の指の全てを食い込ませ、下唇を噛み意識を他に飛ばしていた。

「おいおい、麻酔くらいちゃんとしてくれ!」とも、言えるはずもなく。麻酔・メス・水洗浄の3重苦に何度か涙がでそうになりながら耐えきったのだった。

しかし、術後の麻酔が解けた後が、痛みの本番だった。こわばった表情のまま、耐えるしかなかった。

食後に痛みどめを飲むまでのおよそ4時間の苦痛が、1番辛かった。あまりの痛さに、心配性の私は、腕が動かなくなったらなど、いらない想像まで膨らませていた。

完全に塞ぐと血が溜まってしまい体に悪いらしく、あえて穴を開けたままにするらしい。そのため、運動・お酒・入浴など血流を早くしたり、患部を刺激るするものは避けなくてはならなかった。

このnoteは痛みが落ち着いたときにまとめたものだ。初日に書いたメモは治療後の右手で書いていたので、文字が震えていた。とても読みにくいが、その分読んでいるだけで痛みを感じる……

その夜は、寝返りも満足にうてないまま、カエル男に出会わないようにと祈りつつ、眠りについた。


痛い経験をすると、「あ、いま、おいしい体験している」と思うようになったのは、発信する者としてのある種の職業病かもしれないですね。

手術前には殺人鬼が出てくる小説を読むことは、ホントにおススメしません!変な想像力が働いて気分がおかしくなります笑。

ただ、カエル男はめちゃめちゃ面白く、すぐに読み切ってしまう作品でしたぜひ読んでみてください。

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