見出し画像

ある薬剤のシェア拡大に向けた戦略転換の事例ストーリー

株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。

当社とまだお取引の無い製薬企業様との商談の中でいただくご要望の一つに「御社で行っているコンサルティングの事例を教えてほしい」というものがあります。

私どもが主にご提供しているのは「マーケティング・営業活動のコンサルティング」ですが、無形サービスであるため、具体的な内容やレベル感がなかなかイメージしづらいところがあります。

そこで、弊社の活動の実態を製薬企業の皆様に知っていただくために、過去のクライアント様との取り組みの中から、企業・ブランドが特定できる情報を除いたうえで、現状把握や課題抽出を経て調査を行い、得られたインサイトに基づいてターゲット設定や実行シナリオの策定を行うまでの具体的な流れをケース事例としてご紹介したいと思います。

第1回の今回は、ある慢性疾患の薬剤で、適応拡大領域に2番手で参入したブランドが、当初シナリオでのシェア獲得に苦戦される中でユカリアにご相談をいただき、弊社のコンサルティングの下、新規のポジション構築によるシェア拡大への道を見出したストーリーをお伝えします。


2番手でも一定のシェアは獲得できると思っていた

製薬企業で慢性疾患を対象とした薬剤のブランドマネージャーを務めるA氏は、深刻な危機感を感じていた。

担当する薬剤は、ちょうど適応拡大のフェーズを迎えていた。非常に多くの患者数を抱える疾患が新たに対象となり、大幅な処方増を見込めることから、プロモーションにも多くのリソースを投入していた。

しかし、当初想定していたほどの処方量の伸びは見られなかった
MR部門からは「競合品がかなり浸透している」「競合品からのスイッチを図っているが、医師の反応は芳しくない」という情報がもたらされていた。
上層部からは当然説明を求められ、原因を懸命に探ろうとするも、客観的な情報が不足しており、解決の糸口すら掴めずにいた。

適応拡大した疾患領域に、先行して承認を受け参入した競合品があることは当然ながら分かっていた。ただ、比較的新しい分野の薬剤なので、競合のポジショニングはそれほど定まっておらず、2番手でも一定のシェアは獲得できるのではないか・・・というのが当初の目論見だった。

だが、想像していた以上に競合品は強く、自社製品へのスイッチは思うように進んでいなかった。

マーケティング・営業戦略のどこに手を入れれば良いのか?

A氏は、参入時に想定していたターゲット患者に対し、今のままのマーケティング・営業戦略で活動を続けていくことが果たして正しいのか、疑問を持ち始めていた。

  • 今のターゲット患者は正しいのか?

  • 正しいならば、営業戦略を変えることで競合品からスイッチできるのか?

  • では、具体的にどうすればスイッチできるのか?

  • あるいは、そもそもスイッチが難しいならば、ターゲット患者を変更するという選択肢もある

  • 新しいターゲット患者になり得るのはどのようなセグメントか?

  • 新しいセグメントの探索を、どんな手法で行うか?

考えるべきことは膨大にある。
だが、目下の一番の問題は、「客観的な現状把握が十分にできていないこと」「現状把握の具体策が無いこと」だった。

求めていたのは、「客観的」且つ「処方の現場に踏み込んだ」現状把握だった

ユカリアがA氏との面談の機会を得たのは、ちょうどそんなタイミングの時だった。

現状と課題をディスカッションする中で、ユカリアのリソースがA氏のニーズに応えられることが見えてきた。

ユカリアの電子カルテデータベースを用いてブランド毎の処方状況に関する簡易的な分析を行ったところ、早速、A氏がターゲットとしていた患者セグメントで競合品がポジションを確立しつつあることが見えてきた。

MR部門による情報が正しかったことが裏付けられたわけであるが、企業として戦略判断、特に従来方針の変更判断を行うにあたって、根拠が「感覚=主観的」であるか、「客観的」であるかの相違は極めて大きい。

電子カルテデータというRWDにより、「客観的な数値」で現状が示されたことはA氏にも大きなインパクトを持って受け止められた。
本番の分析調査においては、n数・期間を増やすとともに、複数の検査値と処方薬とのより多面的な関係性分析を行うこと、薬剤のスイッチングの実態についても検証することとした。

また、合わせて、ユカリア独自の医師パネルを用いた調査も行うこととした。

医師パネルによる調査自体は多くの調査会社が行っているが、ユカリアでは調査のクオリティ担保のため、「対象医師の質の向上」と「徹底的な深堀りヒアリング」に注力している。
本案件では、まずは、初回処方薬決定の決め手、スイッチングの実態、トリガー要素を把握することとした。

そのうえで、電子カルテデータ分析・医師ヒアリングの双方から得られたファクトに基づき、その結果に応じて新たなターゲット患者像を絞り込み、改めて医師へデプスインタビューを実施。
ターゲット患者像に対して医師が処方に至るまでの思考やハードルを特定するという流れを想定した。

ターゲット患者の変更が必要と判明。新たなターゲットでのシナリオを描く

1.5ヶ月程度の調査の後に導き出された結論は、「ターゲット患者を変更する必要がある」というものだった。

現状のターゲットにおいては、残念ながら競合品の優位性は揺るがないであろうことが示された。

医師は製品ごとの効果の差異はそれほど大きくないと認識していた。ただ、その中でも競合品が最も適応症が広く、エビデンスも充実していることからシェアを維持・拡大していることが明らかになった。

電子カルテデータベースからの分析でも、競合品が幅広い検査結果の患者をカバーしていること、同じ薬剤クラスの中でスイッチが起こりづらいことも客観的に確認された。

その結果を受け、新たなターゲット患者のフォーカスエリアを特定するとともに、そのターゲットへの処方を狙うにあたってのシナリオの策定を行った。具体的には、医師が想起すること、重要視すること、困りごとなどをもとに行う情報提供手法の詳細である。

独自のリソースを活かした調査力が、インサイトの発見と新戦略の構築を実現した

本案件において重要であったポイントを振り返る。

まず1点目は、先行する競合品の浸透度合いを定量化・可視化することを通じ、現状のマーケティング・営業戦略のままでは直接的なスイッチングやシェア奪取が困難であることを明確化した点である。

特に、複数の検査値と処方薬との関係性を可視化した結果は、それまで感覚的・断片的にしか確認できなかった現実を明らかにし、その後の方向性を決定付けるものとなった。

そして2点目は、スイッチが起こりにくい構造に注目し、新たなターゲット領域でのポジション構築の道筋を示した点である。

定量的なデータと、医師の処方時の具体的な思考にまで踏み込んだ定性情報を合わせて検討したことが新たなインサイトに繋がったと考えられる。


ケース事例の詳細や、他の事例についてご関心のある方は、以下までお気軽にお問い合わせください。

株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部
pharma.biz@eucalia.jp


【製薬企業の方へお知らせ】

薬剤の「ポジショニング」「市場規模」「患者像」「競合品とのスイッチ状況」の把握に役立つ分析データやレポートなどの情報を無料でご覧いただける製薬企業様向け情報提供サービス
Patient Visualizer(ペイシェントビジュアライザー)
を開始しました。
情報収集のため、よろしければ会員登録のうえご利用ください。
Patient Visualizer サービスページ

※会員登録は製薬企業にご勤務の方のみを対象としております
掲載している分析データのサンプルはこちら(2型糖尿病領域)

Patient Visualizerの魅力のご紹介