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vol.12 オザケンは魔法使い 《新婚妻、放浪の旅に出る。》

文字通り逃げるようにYから離れた私の中には、様々な感情が生じていました。

「やっと離れられた。よかった。これで安心だ。」
「好きな人を拒否してしまった。嫌悪してしまった。ひどいことをした。」
「あんな奴、放っておけばいい!」

だいたいこの三つくらいを行ったり来たりしながら、しばらく私の内部は混乱していました。
安心したり怒り狂ったり、罪悪感を抱いたり、けっこう忙しくって疲れました。
今、こうやって書き出して気がついたのですが、この三つ、かつて母に対して抱いていた感情と全く同じです。機会があれば、母とのことも書くかもしれません。

東京駅近辺に宿をとり、コインランドリーで洗濯などしながら、とにかくその感情の嵐がやむのを待ちました。
でも、なかなか完全にはおさまってくれません。
モヤモヤした気持ちのまま、旅に出る前から決まっていた、とある予定のある5月3日を迎えました。
それは、小沢健二さんの日本武道館でのコンサートでした。

武道館で最初の音楽が鳴った瞬間、私は、私の世界にようやく完全に戻ってきました。
それはほんとうに、最初の一音が鳴った瞬間の出来事でした。
霧が晴れたようにさっきまでのモヤモヤした感情が消え、涙とともに希望があふれ、自分の人生に再び足が着いた感じがしたのです。
私は感動しながら「オザケンは魔法使いだ…」と思いました。

そんな魔法のような現象が起こったのは、私が彼の音楽を10代の頃からずっと聴いてきたから、ということもあるかもしれません。
私の本来の質、みたいなものを音楽が呼び覚ましてくれた。

でも、その日の最初の曲は、昔の曲ではなくて、今年の最新曲だったんですよね。
だから、本来の私を思い出させてくれるだけでなく、ちゃんと、バージョンアップした「今」、にそれを持ってきてくれた。

ほんとに素晴らしい仕事をしてくれて、心から感謝申し上げます、という気持ちです。

自分の人生に戻ってきた喜びでいっぱいになりながら、その日のコンサートを楽しみました。

翌日には東京を出て、新たな旅がはじまります。


💫🛸ほよよ〜🛸💫